小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

はちみつ色の狼

INDEX|88ページ/101ページ|

次のページ前のページ
 

20 Who said Black Monday?






暗い夜道。



仕事も終わりボロボロの体。
こんな事前にもあったような気もしないでもないが今日は何故だか、ただの迷子犬探しが途中から街に駆り出されて急に川さらい。

まったく、意味が解らん・・・。

ジャンは、ゆっくりと歩を進めながら首を捻った。
まだ水路の川さらいなら何の文句も出ないだろうが場所が悪かった。
どぶ川臭い匂いをさせて、差し入れのいつもの余り旨くないかさついたサンドイッチにぬるいコーヒー味の水を喉に流し込んだのは、おおよそ一時間前。
自分で今の時間からご飯を作る手間は省けると喜ぶべきなのか?
激しく疑問に思いながら口の中に押し込んだが、今はもうその影は胃袋の中にはない。

ポケットに入っている軍手はヘドロでどろどろ。
さっきまで頭に巻いていたタオルも昼間では白かったはずが、今は茶色や黒のしみが滲んでいた。
それを肩に引っ掛けて、ジャッジャッと景気良くエンジンブーツの足先で砂を蹴散らせながら歩く。
時間はまもなく夜中の12時を回ったところ。


「ふあぁぁ・・・・・・。」


連日の疲れからか、ただ単に眠たいからなのか、ジャンの口から大きな欠伸が漏れ出す。
少しだけ涙と大きく開きすぎた口の端から涎が垂れそうになり、それらを思わずふき取りながら背を伸ばした。
首は動かす度にごきごきといい音がし、今日の仕事ででかい図体で川の中を浚っていて思ったことは、そのどぶ川が意外と狭い事だった。
どこかの馬鹿が小さな店に強盗に入った際に持っていた証拠のナイフをどぶ川に捨てたとか、捨ててないとか。
そんな僅かな情報で、警官部隊の手伝いに借り出されたジャン他7名。
胴長を履き辛うじてズボンが濡れることは無かった、だがさすがに他から飛んでくる飛沫ガードするものはなく上半身はヘドロに少しだけだがまみれ、臭い。
最終的には、7名のでかい図体の兵隊さんの活躍のおかげで証拠品のナイフ(ナイフというか、果物専用というか。)は、見つけ出されてようやく解散ということになった。
なんで、少尉なのにこんな仕事を任せられるのか?本気でいつも疑問に思うジャンである。
どんなしょうもない小さな仕事でもすべてを最後まで責任を持ってが心情のジャンのそんな性格をよく知るエレノア大佐からうまく使われているというか、信頼されている一部下という事も確からしいが、

今回は、大変・・・・、


「あああん・・・、本気で疲れたぁ。」


口をついて出るのは、欠伸もしくは、疲れたの一言。

シフトで出ている宿直の人間や連絡員の他は、もうすでに夢の世界か、自室でこいでいるのか。
まぁ殆どの人間が自室でゆっくりしているような時間帯なので、あたりに人気は無く静かである。
先ほどまで一緒に仕事をしていた軍曹他、新人たちも兵舎についてすでに自室に戻ってシャワーもしくはすでに睡眠を取っていることだろうか?
ジャンはと言うと先ほど愛飲タバコである最後の一本を吸い終わってしまったので、それを求めてふらふらと自販機のあるいつもの場所へと向かっていた。

ガテン系兵舎の扉もたぶん他の建物と同じで、さすがに宿直の兵士がいるのでロックはされてはいない。
扉の中の風景は、昼間とは違い非常灯は付いてはいるものの暗い。
廊下をほんのりと染めるのは、床に近い壁に設置された赤い非常灯だけある。

ジャンはそこへと簡単に入りこみ、いつもの仕事場の目の前を通り過ぎて歩いていく。
兵舎窓のすぐ目の前にある研究棟はうすぼんやりとした非常灯の青い光が廊下を照らしていてなんだかおどろおどろしい。
何週間か前に、そこで大量の人間が死んだのが信じられないように日中はもうすでに数名の研究が仕事をしているので、事故があったのがまるで遠い昔か本当は何も無かったかのように思えてしょうがない。
だが遅く誰もいないついでに言うと風の音だけがひゅーひゅーと不気味な音を立てる今夜のような夜は、あの事故で窓ガラス越しに助けを求めていた研究員や前医務室のドクターの顔が思い浮かびジャンに、身震いをさせる。
緑色のジューシーな顔をした誰かが突然目の前に飛び出してきて、怖い映画のように首に噛み付かれるとか・・。
まあ、そんな事があったとしても噛み付かれる前にやっつける自信はかなりあるが、そんな事を考える事態怖い。
ジャンは思わず眉間に皺を寄せながらも、ブルブルと顔を横に振って考えをそらそうとするがそう簡単に消えない想像。


「・・ホラーだ、ホラー。」


なんで、こんな独り言が多いんだ俺。
ジャンは、そう思いながらも独り言をやめはしない。
何か喋っていないとぐちゅぐちゅのグロテスクが苦手なジャンには、やり過ごせないのだ。
別のことを考えるべきだな、こりゃ・・・。

首をもう一度ポキポキと鳴らしながら、足をトイレ近くの自販機エリアに向けて進めていく。
考えるのはただ一つ。

そういえば、センセイ・・・。

医務室の仕事にも、ただ用事もなく来る人のさばき方にも直ぐに慣れてきたようで、最近はジャンが寮の部屋に戻る前には既に消された電気を見ることになった。
たまに点けられたままの医務室の窓から漏れる光にはゆっくりと歩いて補充作業をするジンの姿が見えた。
本来其処までたいした怪我らしい怪我をした事が無いジャンには医務室と言うところは本来用事の無い場所であり、そう言えばこの間のカフェの日から顔を会わせる事は数回あったが実際にはなんの接触もない。
そしてついでにジャンにはまた休み無しが続いている。

こき使われすぎで、そのうち過労死すんぞ俺ら。

そう思う反面、何故だか他人以上に健康に作られている軍人がそう簡単に過労死するかどうか疑問であると思うジャンでもある。
そういえば、この間ルイスが『ジン・ソナーズは手際がいい氷の女王』だと呟いていたのを思い出す。
いつのまに医務室に行っているのかそう語っていたルイスは以前飲み屋で、人の事を男色だとかなんとかほざいていた癖に、自分は新しいものとゴシップ好きでジンの事を話題に出す。
そのくせ、その話にジャンが食い付いていくと男色だとまた呟く。
今思い出しただけでも、少しむかつくルイスの態度。
でも、氷の女王とか本人が聞いたらどんな風に思うんだか・・。
ジャンは苦笑しながら、思い描く。
まぁ、怒りはしないだろうが笑いもしないだろうな、あの人のことだ。

でもあれで愛想が良かったらもっとファンが増えてそれはそれで面倒臭い事になるのだろうか?
ジャンは首をかしげるがあの人の性格からして、何かしらきっかけが無いと仲良くなれないのだろうと思う。
何度か会って、話というか嫌味の一つでも聞けるようになったジャンでさえ多分最初は人見知りの対象だったのだろう。
友人らしい友人が出来なさそうな彼を不憫と思う一方、それでも増え続けるファンがいる事に別に意外性は感じはしなかった。


「・・・・んっ。」



何処からか声が聞こえた気がしてそちらへと視線をやる。
自販機の奥にある給湯室横のもうしわけ程度に作られた喫煙室には未だに漏れだす光とがさこそと音がし、時々声が聞こえる。

仕事熱心だな。

この時間まで残っているのは、残業している人間くらい。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央