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はちみつ色の狼

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さてと、まずは当たり障りの無い質問から。


「東部って、どんなとこですか?」


おお、我ながら本気で当たり障りない。
つうか本気でしょうも無い質問。
口の端から漏れたローストビーフの赤い肉汁を先ほど手を拭いたナプキンでふき取る。


「とうぶぅ?・・俺の務め先か?」
「いんや東部っす。行った事なくって。」
「ああ、東部は何もない、寂しい場所だよ。」


短く話を終え、紅茶のカップをまた唇へと近づけるジン。
ごくりと飲んだ拍子に動く喉仏と、その後に続くほうっと言う吐息。


「それにしても、これおいしいな。」


ぽつりと呟かれる言葉。
こんな暑い時期に、熱い紅茶なんて?と思っていた。
でも日向の窓際に座っているとはいえ店の中は凍えるくらいに空調が利いており寒いくらいで熱い紅茶は丁度よい具合なのかもしれない。
ジンの紅茶がおいしいのは、匂いからしてもわかる。
甘〜い匂いだけでも涎が流れそうなくらいにおいしそうな湯気がカップから漏れ出している。


「お前のは・・・・甘いのか?」
「ええ、甘いですよ。飲んでみる?」
「・・いいのか?」
「はい、冷たいっすよ。」


熱くて注意するのならわかるが、なんで冷たいものにまで注意を促してるんだ?

と、少々疑問に思うジャンだったが、やはり注意深く手から手に渡っていく、大きなグラスを眺めた。
中身はすでにストローで掻き回されており、はちみつの存在はすでに消えたように見えている。
冷たく冷えたグラスの淵には、水滴がいっぱい付いている。
ジャンにも大きく感じられたグラスは、目の前のジンはもう一回り大きく見える。
ジンの両手で包み込まれたグラスから水滴が落ち、その水が机の上に落ちる。

ジャンの吸ったストローへと唇がつけられる。


「・・ん・・・。」
「・・・ごくり。」


喉がなる。


「?」


その音があまりにも大きかったせいか、閉じていた瞳を開けてジャンを見る。
視線を浴びたジャンは、ごまかしとばかりに一度咳をして、


「どうっすか?」
「甘い・・、うまい。」
「でしょ?」
「はちみつ・・?」
「うん、そう。」


すぐに隠し味の存在がわかったのか、はちみつと言う言葉を呟いたときのジンの顔は驚いていたように見えた。
ずっずっと二度ほど啜ると、その中身を確認する。
人の物をいっぱい飲みすぎたと感じたのか、首を少し捻ってジャンを見つめる。


「俺の、紅茶も飲むか?」
「・・苦くないっすか?」
「お前が今まで飲んできた紅茶を一度試してみたいもんだな・・。」
「俺が入れたらかなりの確率で苦くなるけど・・ね。」


最後の小声の一言も聞き逃さなかったのか、ジンはその言葉で微笑んだ。
コロコロ変わる表情。
まるで、子供みたいだな?と連想させる。
なんだよ、憎たらしいとこばっかかと思ったらかわいいじゃねーか。
甘い物がすきなのかな?
はいっと手に戻されたコーヒーのグラスのストローは、少しだけ変形をしていた。
噛む癖でもあんのか?
それを見て苦笑する。
急に、何かを思い出すように視線を上に上げて持っていたスプーンで上を指し示すジン。


「そういえば、・・・お前も知りたいだろうから言うが・・・。」
「・・・はい?」


急に変わった声のトーンにジャンは何故だか背筋をぴんとする。
目の前のジンは、微笑みは消えて今は自分のカップの中にあるバニラティをスプーンでかき混ぜていた。


「あの緑の遺体の件に関して、毒物はどうも前の戦争の際に無くなったマスタードと解った。」
「なんで前の戦闘の物ってわかんですか・・?」


この疑問は当たり前だろう。
軍隊出身者じゃなくても、このぐらいの疑問は出てくるだろう。
ついでに、なんでこのタイミングでこの話?
その答えはない。


「それはだな・・・、」


喋りかけるが、すぐに口を噤むジン。
そして、その後カップから視線を少しだけ上げてジャンの顔を睨みつける。


「そんなことも解らないのか?」
「・・・言い方が、小馬鹿にしてるんすけど。」


フンと鼻息で、そのジャンの言葉を肯定するようなジン。
まあ、いいさ。
だいたい想像がつく。


「多分、その戦闘以降は危険物質のマスタードを作る人間がいないとか、その時点でも危ないから番号つけて管理してたとか。」
「正解。」


それぐらい解って当然だとばかりに、もう一度鼻息をフンと吐き出し、言葉を続けていく。


「それとお前が見つけたガラスのカプセルは、最近中央の医学学生が発明した特殊素材が使われたようだ。」


ガラスカプセルは、多分X線の写真に写っていた丸い物質のことだろう。
ジンの話は、結構先を進んで行っていて考えながらじゃないと付いていけないようになってしまいそうになる。
ジャンは、ジンの唇に注目をする。


「・・・でも、学生のいたずらにしては事が大きいですよね。」
「その性で、人が何人も死んでる。」
「まず、硫黄は理数系の科学専攻の人間には簡単に手に入るとして、医学生とは言えそんなミクロの薄さしかない特殊なカプセルを一介の学生がどうやって人の体の中に挿入する?できるわけがない。」
「医療技術に精通した奴の犯行・・。」


考え込むような仕草をするジン。

そんな話の切れ間にこんなカフェで話す様な話でもないだろうにと、ジャンは少しはっとして周囲を見回すが他の客は各々好きな事をしてこっちの様子なんかぜんぜん気にはしていない様子である。
視線をジンに戻して、ジャンはすぐに話を続ける。
この話は、ジャンも知りたいと思っていた内容だ。
いつの間にか、前のめりになってジンの方へと近づいていた。


「緑の遺体の身元とかはわかんないんすか?」
「そうだな・・、人一人が行方不明になったんだ、捜索願の一つあってもいいもんだがね。」
「・・・犯罪者が、被害者の可能性。」
「だが、犯罪者であれば保管されているDNAのサンプルがある。」
「それがないという事は犯罪者でも社会に裏で貢献する重要人物、それか軍関係。」


なんだか小難しい話になってきた。
ジャンの素直な感想。
そのまま椅子の背もたれに持たれ込むジャン。
頭がパンクしそうなくらいにパンパンに張ったの感じて、思わず目を閉じた。


「ただ、あんたを演習時に狙ったやつの正体はわからずじまいみたいっすね。」
「さぁな・・。」


最後の一言は、なんだか何かを含んでいたように思えた。
が、今はもう脳細胞に足りない糖分を取ることに必死になって話どころではなくなった。
ジャンは普段ならないような頭痛を感じて、こめかみに少しだけさする。
こめかみをさするジャンを見てジンはもうこれ以上難しい話をしてもしょうがないと感じたのか、自分のカップの中の紅茶をずずっと啜って机に寝そべって窓の外を眺めだした。
そして、そのまま寝そべったままの体勢でジャンを見る。


「・・まあ、折角こんな良いところでゆっくりしているのにそんな血生臭い話はやめるか?」
「そうっすね。」


ジャンは、空になった赤い皿の上に青い皿を載せてついでにジンの手の平にチョコレートを載せる。
寝そべったままでそれを文句も言わずに口に入れるジン。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央