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はちみつ色の狼

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市場からそこまで離れているわけも無いのに静かなゆったりとした時間が流れる場所。




「ここです。」


こんなとこに店なんかあるのか?と不審げに周囲を眺めているジン。
確かになんの看板が有るわけでも、居住区。

そのうちのコンクリート製の一軒の小さな少し重たい黄色扉を押しあけるとカランと牛につけるカウベルの音が鳴り響く。
そして、そのすぐ後にいらっしゃいませと女性の優しい声が聞こえる。
珈琲と食欲をそそる良い香りがする店内。

店内は明るい、窓が多いせいだろうか?

中は外の外観とは全くの正反対にフロアから壁まで優しい木製で徹底されたその名もカフェウッディ。

色とりどりのカバーが掛けられた感じのいい丸い木製の椅子に、奥には大きなカラシ色のソファーの席がある。
以前来た時は昼どきだったこともあり込みあっていた店内も今日は落ち着いた様子であった。
彼女を一度連れてきた事があったが、彼女は若くまだ賑やかな街の反対側の繁華街の方がお気に入りだった。


「席は空いてますし、何処でもいいっすね。」
「ああ。」


じゃあ先にと、ジンの肩付近を押してカウンターの方へと向かっていく。
本当にこの人、シャツの上から触っても細い。
ジャンの手に触る感触は柔らかい感触はなく、それよりも骨ばった肩が印象的である。
軍隊の中でも別段ジャンがでかい図体だということも無いだろうに、背中越しに見たジンの身体は多分このまま簡単に抱きすくめられそうなくらいに小さな身体である。

何を食べてこんなになってんだ?

昼ごはんも食べてないだろうに、食欲が無いタイプの人間なのかもしれない。
勝手にそんな事を考えながら、カウンターへと到達する。

カウンターは扉の近くにありその上に置かれたショウケースの一つには出来たてのミートパイ、他のケースにはケーキにスコーン瓶詰めのチョコクッキー、最後のケースにはパンが並べられている。
ピカピカに磨かれたガラスのショーケースに映るジンの顔は真剣そのもの。
まん丸の黒い瞳が覗き込むのは、ミートパイゾーン。
ジャンはそのショーケースに映った表情にばれない様に噴出してしまう。


「・・ミートパイがおすすめです。」


セキを一つして真面目な顔に戻して、一言声を掛けるが目移りしているのか反応はなく眺めているだけにも見える。

「あ、お客さん。いらっしゃいませ!」

黒の腰巻きエプロンに身を包んだ元気のいい女の子が、裏にあるキッチンから出てきた。
ポニーテールに纏められた赤い髪の毛がかわいらしい20代前半。
揃えられた前髪がまた若さを表現している。
かわいい笑顔としか表現できないようなその顔には、少しだけそばかすがあった。
裏手で洗い物でもしていたのだろうか手をエプロンで拭きながら、ジンとジャンが立っているレジの前に来ると飲み物のメニューをジンに渡した。
この場所へは、この看板娘を目当てにきているうちの軍人もいるのを何度も聞いたことがある。
隠れ家のようなこの場所。
まず間違いなくここに来る軍人達は軍人らしくない服装に身を包み、読書でもして普通の一般市民に混じっている。


「持ち帰りですか?」
「ここでいいっすか?」
「もちろん!飲み物は、お決まりですか?」


ハキハキと尋ねてくる彼女。
実はまだなんですよっと伝えるとジンの手に持たされたメニューを覗き込むジャン。


「なんの、紅茶がいいですか?」
「・・・ん〜、いっぱいあるな・・。」
「・・・。」


返事は期待していなかった分帰ってきた答えに、少しだけ驚いてしまい思わず視線をジンの横顔へと向けて動きを止めるジャン。
同時に、少しだけ喜びを感じて微笑んでしまう。
ジムで会ったときは、なんか警戒されてたのになぁ。
人見知りをするタイプなのかもしれない、偉そうな訳じゃないんかな?
ポリポリと頭を掻いてもう一度メニューに視線をうつす。

常時用意されていると言う20種類もの紅茶の銘柄が記載されているメニュー。
珈琲にいたっても、それは同じで紅茶よりは少ないものの10種類以上は記載されていた。
トッピングでさえ、はちみつ、バタークリーム、生クリーム、豆乳、牛乳、キャラメル、ココアパウダー、シナモンなど色々と種類があり迷うわけである。
一度ここに立ち寄ったことがあるジャンでさえ、悩む種類なのだから初めて来たジンはさぞや悩むだろう。
真剣に一個ずつの銘柄をチェックしているジン。
東部の紅茶の銘柄はすくないと聞いた事がある。

どちらかと言うと緑茶が主流だとか?

確かに、紅茶のイメージはもっと肌が褐色の人物が飲む。隣国ボルナイ人なイメージ。


「西部のこの地区は、他の国からの交易の中心ですからね。」
「・・お前が偉そうにすることは、全然ないとおもうけどな。」
「すんませんねぇ・・。」


そんな言い方もないと思うんだけどなぁ。
と思いながらもジャンは気が付いていた、聞きたくないのであれば普通に話の途中で途切れさせても良いであろう。
だけど、ジンはちゃんと自分の話を聞く。
目の前の彼女は二人のそのやり取りを見て少しだけ笑顔を浮かべている。


「今の時期ですとミントのアイスティがお勧めですよ、お客さん。」
「ん〜〜・・・ミント。」
「俺、コーヒーとビーフサンドイッチとチーズミートパイ。」


何個食べるんだ?と言いたげなジンの少し冷たい視線を横目に感じつつ、ジャンは言い切る。
するとレジの彼女は、次はあなたよとばかりにそんなジンに向き直る。


「・・・バニラの紅茶で。」
「熱いのですか?冷たいのですか?」
「俺は冷たいの、あんたは?」


少し悩んだ表情を浮かべた後、呟くジン。


「俺は、熱いので・・・。」
「はい、わかりました。少々お待ちくださいね。」


彼女はすぐさま同じく木のぬくもりのある奥へと下がっていき、中のキッチンの人間に確認を取っているのだろうか?
すぐさまひょこっと出てきた彼女。


「バニラの紅茶のお客様、上にホイップクリームを乗せるともっとおいしくなりますけど。」
「じゃあ・・・、それを。」


一言だけ質問をすると、キッチンに『クリームオン』と、大きな声で言う。
そしてまた出てきてレジを器用に素早く打ち込むとまたしても輝くような笑顔を浮かべてこういった。


「お二人さまで、600Jです。」
「はい、これで。」


ジャンは自分の分を払おうとしているジンを静止してズボンのポケットから財布を取り出し、1000Jを払う。
俺のおごりでしょ?とウィンクするとジンは面白くない様子で、ふんを鼻息を吐いた。
俺ならおごりは喜んで受けるけど、大佐にもなると人に施されたみたいな気持ちになんのかな?
レジに向き直り、少しだけ首をかしげながら彼女からお釣りを受け取る。


「お席にどうぞ、飲み物はお持ちしますよ。」







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カウンターから振り返りもう一度店内を見回す。
二人がカウンターにいた間に出て行った客がいたのか、席は先ほどよりもすいていた。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央