はちみつ色の狼
鉄の棒も魚屋の亭主に拾われて元あった位置へともどされていた。
ここに、居る理由も今はもうない。
引ったくりも今から保安所に移されて行くだろうし、何せもうその引ったくられた女性は自分の鞄と共にすでに姿を消している。
今さっきまでの喧騒が嘘のように、普段どおりの市場に戻っているのだ。
さぁてと・・・。
ジャンは口の端に咥えていた少し短くなったタバコを指に挟み、ジンの背中をこっそりと指でつく。
「ん?」
指でつかれジンは、正直びっくりした顔をしている。
「・・・行きましょ、用事あるんでしょ?」
小さな声で言うと、彼はその声に返事もせずに頷く。
保安官が次に後ろを振り返り、二人に話を聞こうとしたときそこにはもう二人の影も形も消え去っていた。
後に残ったのは、まだ話したり無い顔をして鼻から白い煙でも吐きそうなスープ屋のおばちゃんであった。