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はちみつ色の狼

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口からも、鼻からも噴出した煙に、少しだけ嫌そうな顔を浮かべるジンだが、そんな事は気にしないジャン。
自分の趣味というか、愛飲しているものにケチをつけられるほど、面白くないものはない。
それにしても・・、


「いや〜、本気で助かりました!!」


ジンが、通り掛らなかったら一人で二人と言う面倒くさい事をしなければいけない事になっていた。
素直に頭を下げて礼を言うが・・・、そういえば何かを忘れている気がするジャン。


「・・ん?」


なんだったか?瞳だけを上部へと動かし、忘れている何かを思い出そうとしているジャン。
それに対して、ジンはまだ子供達が消えた通行客辺りを見ながら一言呟いた。


「ひったくられた鞄は、どこだ?」
「あっ!!!それそれ!!」


呟きに対して、手をパンと叩いてジンに指を指すジャン。
胸のつっかえが取れて気分がとても良いという感じで晴れ晴れとした表情を浮かべている。

「・・・・。」

ジャンの反応に思わず、じっとりとした視線を送るジン。
何の為に助けに入ったのか、大男を抑えてたのか何のためなのか、そして首筋にナイフまで突き立てられそうになったのは何の為なのか、思い出してくれとばかりに視線が文句および語りが入っている。
すんませんと小さく言うと、周囲を見回すジャン。

今まで少し、面倒くさがっていたがそれなりに一生懸命に頑張っていた為に気を配る事はまったくできなかったのだが、今見ると先ほど視線があった上品な多分『ピンクの鞄の持ち主』らしきおばあさんが、今までにあった状況でかなり不安を感じているのか、その顔にも不安と疲労の色が出ている。

うっへ・・、一番重要なモンを忘れてるなんて俺もたるんでるなぁ・・。

思わず肩を竦めるが、場所のめぼしは大体付いている。
大男がジンの技に因って吹っ飛ばされた現場付近の椰子の木の下付近にある藪の中。
そこが一番怪しい。

そして、その場へと歩いていくとそのまま、おもむろに顔を突っ込っこむジャン。
上から覗くとそこには、やはりピンクの鞄が挟まっていた。
ジンが飛ばした際に、同時に鞄も飛んで藪の中へと姿を消していたのだろう。
まあ、不幸中の幸いにしてそのまま道路に放置されていれば、次は『引ったくり』では無く『置き引き』の被害にあうところだった鞄を藪が守ったということである。
それに、『置き引き』をしようにもあのジンの素早いアイキドウの技には付いていくことは難しかっただろう。
ジャンでさえ、ただの当てずっぽうで鞄の場所を当てたに過ぎない。


「・・おいせっと・・。」


右手をずずっと藪の中にいれ、指先に触る鞄を持ち上げる。
その鞄は先ほどまでずっと奪い取れなかった分で、なに分にも感慨が生まれる。
ジャンは、そのまま中身などが飛び出さないようにとゆっくりと持ち上げていく。
ピンクの鞄は、見た目よりも重たく、なかなか指先の力では持ち上げることは出来ない。
だが、ジャンはちょいっと引っ掛けて藪の中から取り出した。

「救出せいこ〜。」
「ん。」

軽く敬礼ポーズを取りながら、取り出した鞄を反対の手でひらひらっと振って見せる。
この重み、一体何が入っているのか、かなり疑問である。
ジャンは上に持ち上げた鞄にもう一度視線を遣る。

本気で何が入ってるのか、聞きたいし・・。

その疑問を下ろした腕の先にある鞄に集中させるジャン。
いつのまにやってきたのか、すぐ真正面には鞄の持ち主である上品なご老人が立っている。

「ああ、と・・・・。」
「ありがとうございます!!」
「はい。」

深々と礼をしている老女に、素直に鞄を渡すジャン。
女性はそれを受け取り、中身を確認する。
中身が気になるジャンは思わず、その中身を覗き込んでしまう。

「なんですの?」
「・・・あ、自分らが守ったもんがどんなもんだったのかなぁ?って、・・・あの、単なる興味です。」
「それはそうだわね、あなた方が守ってくださったのは・・これよ。」

女性は、少し苦笑をして小さく開けた鞄の中身をジャンへと向けた。
小さく開かれているため、ジャンの他からは見ることが出来ない。
それを覗いた途端、ジャンは口をパクパクさせた。
目を大きくして、その大きな目のままでジンを見た。
ジンはその視線を避けるように自らの瞳を閉じて腕を組んだ。

ええっ、でもこれってものすごい・・、

「大金でしょ?」

中には、札束が二冊ほどと金色に輝く小石が数個入っていた。
女性は微笑みながら鞄の口を閉じた。
外見は確かに上品そうに見えるが、別にネックレスや金の指輪をギラギラとつけてひけらかせている訳でもない。
ジャンは、そんな大金を見たこともないので、思わず釘付けになる。
だが、女性はもう一度礼をする為に少しだけ首を下げて小走りにジャンの目の前から去っていった。

「いつまで・・・、そのあほ面をしているつもりだ?」
「・・・失礼な人ですね。」

いつのまにか老女が鞄を開けていた場所までやってきて、人をむかつかせる様な言葉を言うジン。
開けていた口を閉じて、真面目な顔に戻すジャン。
睨み合う二人。
市場はすでに回り始め、大きな声で魚や野菜を売る商売人の声が木霊する。





「あのですね・・・、」
『はい?』


先ほどまで遠目でメモを片手に引ったくり兄弟の二人の逮捕劇を(簡単に言うと、ただの受け渡し現場。)繰り広げていた保安官が少しだけ不審な顔をして二人の方へと歩いてきた。
二人揃って不機嫌な顔で睨みつける。
目の前の保安官はジャンの目から見ても可哀想なくらいに萎縮してしまっている。


「あんた遅いわよっ!保安官の癖に保安しないでどうすんのさ!」


それに追い討ちするように、大きな声が保安官の彼に襲い掛かる。
同時に彼の身体がびくりと揺れた。
いつのまにやってきたのか、ジャンの隣に仁王立ちをしているスープ屋のおばちゃん。

ありゃ、りゃ??おばちゃん?

ジャンはちらっと隣に居た筈のジンを探す。
体格のいいスープ屋のおばちゃんに押し退けられて道路の端の方で、その様子に呆けている様に見えた。

少し、笑えるその表情。
ついさっき大男に勝ったにも関わらず、今はただのスープ屋のおばちゃんに押し退けられてしまっているのだ。


「あと、私はこの一部始終を見てたからね。」
「えぇ・・・あ、」
「ついでに言うと、魚屋の親父なんて目の前でみていたわよ、ねぇ。」


彼女はそう言うとジャンに目配せをし、さっさと行けと指示をしてくる。

それはそうだろう。

いまから考えると、一応事件の張本人である自分たちは足止めをくう事になるし高い確率で保安室に連れ込まれ、短くても一時間の聴取を受ける事になりそうだ。
今はおばちゃんの言うとおりに、この場を静かに去るほうが、賢い選択であることは間違いない。
ジャンは、おばちゃんに軽くお辞儀をして、ジンに向き直る。
ジンに先ほどまで組み敷かれていた大男も兄がやられた事で大きなショックを受け今は口をワナワナと震わせながら今はいつの間にか着た新たな保安官へと身柄を預けられ静かにしている。
ナイフはいつのまにか他の市場の住人に拾われて今はもう証拠品としてどこかに保管をされているようであった。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央