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はちみつ色の狼

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首を右へ左へとストレッチをする度にゴキリゴキリと鳴り響く男の骨。

男の顔には先ほどのジンの技で額でも切ったのか、流れる一筋の血。
それが、額から鼻に、そして上唇の上へと到達したとき、男は舌を出してぺろりと舐めた。

「うっ・・・・わ、」

舌の先についた血が、笑った男の口の中と黄色くヤニづいた歯にも血がこびり付いていて、不気味に見える。

「・・・死ねやっ、か〜わい〜こちゃん!!!!!!!」
「・・っ、」


言い終わると同時かそれよりも前に、ジンへと向かって飛びかかっていく。
後先なんかは、何も考えてはいないのだろう。
ナイフは、彼の弟を押さえつけているジンへと向けられている。
ジンがナイフを避けたとするば男の弟を傷つけることになることには全く気が付いていない様子にも思えたが、同じく二人の少年達をも、危険に晒すことになる。


ジンは・・・、明らかにそのポジションから動くことを許されてはいない。

男は、スピードを上げてジンへと近づいていく。



その瞬間、掴んでいる大男を離す訳にも行かずその手に力を込めたまま、同じく背後に抱きついて来た少年を反対の手で引き寄せる。
何故だか、ジンは瞳を閉じていた。
瞳を閉じた理由は本人自身にもわからないが、閉じている方がこの場合いいと身体がそうおもったのだろう。
意識とは反して、瞳は閉じている。

そして、衝撃を待つ。













「・・?」






数秒経っても数十秒経っても、近くまで迫っていた筈のナイフの衝撃は全く来ない。

刺されたら感じる筈の痛みも、血管が裂けた際に流れる筈の熱いい血の感触も感じる事も無かった。



「?」



男が飛び込んできた筈の方向へと視線を遣るべく、ゆっくりと瞳を開いていく。

するとそこには、ジンに覆いかぶさるようなかなりの近距離に大きな手と刺さるべきだった切っ先が見えた。
まだりんごさえも切ったことの無さそうな刃が、少し毀れているのが視界へと入った。
このナイフが刺さっていたら、『破傷風』だけじゃすまないか、首を刺されたらおしまいだな・・とぼんやりと考えているジンがいたが、後もう十センチもない所でナイフの先が止まっている。
男の手首を掴み、それを食い止めているのは大きな無骨な手。
それはジャンの手であった。

そのまま視界を上に上げると、少し俯き加減の金髪の間から覗く青い瞳が、冷たく凍りついたようにみえた。
ジンは、こんな状況なのに以前見たときは、空色に近かった瞳の色だったのになぁとぼんやり考えずには居られなかった。
視線に気が付いたのか、安心させる為なのか少しだけ微笑んで見せるがすぐに瞳を男の手首に集中させるジャン。


「殺してやる!離せ!」


男はいまだにジンの首筋を狙うナイフへの力を緩めようとはしない。
それどころか獣のようにぐるぐると喉を鳴らし威嚇し力を加え続けている。
そこまで強い力ではないものの、ジャンをいらつかせるのは十分であった。

今まで散々ナイフを使って襲ってきた上に、最後には不意打ちまでしてくるなんて・・・、マジで・・。


「・・・情けない、」


掴んでいた手首の骨が潰れるんじゃないか?と思う位に握り込む。
ジャンの指が握られた部分の肉に食い込み、悲鳴を上げ苦痛に顔を歪ませながらも反対の手で抵抗をする。


「はぁっ、〜〜なっせ!!!!」


その様子にため息しかでない。

「・・・あいにく、俺はこの人みたいに、甘くないんだよ・・。」

先ほど視線を感じて瞳の先には未だに、その場所から離れられないで居るジン。
大男の腕を握る手は離してもよさそうであるが、背後に隠れた子供達は震え上がっていて、ジンのシャツの裾を持つ手にはかなり力が入っているのだろう。
その性なのか、ジンは複雑な表情を浮かべて最初の状態の格好でいる。
細く白いジンの首にほんの数センチの距離まで迫ったナイフを持つ手首を、押さえるジャンの指。

この一本の腕が守るべき・・・、三人の命。
プラス約一名、おまけ。

ジャンは先ほどよりも強い力で手首を捻り込む。
男の指先は色を紫へと変えて、明らかに血液の流れが塞き止められている事を示している。
痛みの為なのか、抵抗しているのか男は悪態を付きながら暴れる。


「ぃぃぃっでででで!!!!!くっくそやろうっ、はなせ、おまえぇ!!!!!」
「うっせぇよ。」


小さく、しかも冷たく言い放つジャン。
手首を普段向くのとは反対向きにねじ上げると、男は観念したかのように手のひらからナイフを地面へと落とす。
ポロリと言う効果音に合うぐらいすんなりと離れた地面に落ちるナイフ。
今回は、もうそのナイフを拾わせてなるものか、と言う感じでジャンは足元に落ちたナイフを遠くへ蹴ると高音の鉄が地面をすべる音が、耳につく。

「言ったろ、俺は優しくないんだって?」
「?」

少し、笑顔を浮かべたかと思うとジャンは男の手首を持ったままひょいっと手際よく背後へと周り込む。
背後に腕を回され痛みを感じ、歪んだ顔を見せる男。

「いでででっ!!!・・離してくれ〜よ〜!!!!」

腕をぐいっと上へと捻り上げていく。
男は握られ背後へと上げられていく腕を離させるべく激しく抵抗の色を見せる。
前に後ろに歩くが、其の性で走る痛みの為に元の位置に戻っていく馬鹿な男。
最後にはジャンの足に蹴りを入れようとしているが、短い足が届くことも無く無駄ない。
男がなんらかの努力をし、ジャンの手から離れようとしているその間も、軽々と上へと上がっていく腕。
本来であれば肩の筋肉や男の反発する力で逆方向へ上がるのは難しいが、ジャンは軽々とやってのける。
ジャンの表情は別段力を入れている様子もなく、ただただ冷たく其の冷ややかな表情は余計に震え上がらせる原因となる。
ラッキーな事にいまは、背中越しにしか浮かべていないその表情をとこが見ることはない。

ほんと、面倒くさいししょうもない男だな・・。

さっさと終わらせようとばかりに、ぐいっと上げる手にも力が入る。
漏れ出す悲鳴にも似た男の声。


「う・・・・うっ、腕が・・・・いでででっ・・・?!?!」
「・・・・。」


叫んでいた声が止む。

同時にある所で、バチンと甲高い嫌な音がした。
ジャンの手に感じた感触としては、輪ゴムが切れた感触に似ている。

その直後ジャンの手は離されブランと垂れ下がる男の腕。
あまりの痛さからか何も言葉がでないのか、叫んだような大きく開いた口をしたまま固まる男の顔。
男の額に冷や汗が流れ落ち、その汗で溶かされたのか額の血も同じように流れ落ちる。
腕の関節が外れたのだ。

やっとの事で声を上げて叫ぶ男。
自分から転げ、地面に崩れ落ちるとそのままノタウチ回りだした。

「にいちゃん・・。」

ジンの下の大男は兄のその姿を見て先ほどまで動かしていた体から力を抜く。
多分、もう助けはないと言うことに気が付いたのだろう。
男の体と腕はまるで他の人間の体の部分のように、離れた動きをしている。
肩から外れた腕は、男が動くたびに無機質なシャツの袖のようにずずっずずっと地面をする。



「ば〜か・・・、」



作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央