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はちみつ色の狼

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「懲りない奴・・。」

ポツリとこぼす。
ジャンも、ジンが呟いたのとほぼ同時に同じことを呟いていた。

「・・・武器を持ってるのはお互い様だろ?」
「武器・・?」

ジンはゆったりとした動きで手に持っていた鉄の棒を眺める。
嫌な予感。

「かわいこちゃんは、顔にケガするのが怖くて武器なしじゃあできないよぉ、てか。」

明らかにただの挑発。
今時そんな挑発に引っかかる人間が・・・、

「シルバーマン・・」

呼ばれたが、何を求められているのか想像がついたので動かない。
プライドが高い。
ジャンのジンに対するリストに一行付け足された瞬間。

「シルバーマン少尉、」
「はい。」

次は階級っ呼ばれて、しょうがなく返答すると、思っていた通りに鉄の棒が目の前の突き出された。
やっぱりと思いつつジンの近くに歩み寄り、その棒を預かる。
そのついでとばかりに、問題を問いただす。

「・・・あんたナイフの男を相手に丸腰はないでしょ。」
「さっさと下がってろ・・邪魔だ。」

ジャンは、すごすごと元いた場所へと戻っていく。
その横目で男を睨み付けるが、男は先ほどと同じようににやにやと笑っている。

風が、街を吹き抜ける。
先ほどまでに強い風ではないが、暑さを吹く飛ばすには丁度良いほどの涼風。

額の黒髪がふわりと揺れ動くのと同時に、きわどいところまで開けられた白いシャツが風に揺れその隙間から見える日焼け知らずのジンの肌。

一瞬ごくりと唾を飲み込んでしまう。

彼を作る何もかもが西部では見慣れないもので、その為なのか、ここが市場である事を忘れてしまいそうになる。
彼には人を飲み込むようなオーラと言うものがある。

それとは別に計画が上手くいったとばかりに、男はその丸腰のジンを見て舌舐め釣りをしながら弟にまた親指を立てる。
武器もない相手に負けるわけはないだろうとばかりに、漏れ出した笑いも止まらない様子であり、
同時に身体の横で持たれた、そのナイフの柄を握っている指が何度も絞り込むように蠢いている。



そして、・・・・風が止まる。




その瞬間、男は動きだした。
今まで横に持っていたナイフを自分の真正面へと持ち直す。
そして、そのままゆっくりと歩き出す。
獲物を狙うハイエナのように、男は姿勢を引くくしたまま迫ってくる。

今度は、簡単に遣られることはないだろう。
だって、今は丸腰にナイフの相手である。

だが、ジンはその様子に恐れを見せるどころか、今は欠伸までして腕組をしているのだ。

「馬鹿がぁ!!!!俺に掛ればお前なんか・・・ひとっひねりだぁ!!!!!!!!」

男は、涎を飛ばしながらそう大声で言い放つとそのままジンへと突っ込んでいく。
顔は、尋常じゃないほどに赤くして口が大きく開かれて目が大きく見開かれて、周りから見ても狂気に迫るもの。
その顔が迫るだけでも脅威なのに、ジンは未だに動くことはない。
勢いよく突き出されるナイフの攻撃、それをよけるジンの動き。
普通であれば地味な攻撃だろうが、男はナイフとは思えないくらいに大きな振りをしてジンへと迫っていく。
振り回された腕は、もう少しで野次馬まで届きそうになるが、ふと何かに気が付いたジンはそこへと行かないようにときびきを返し、反対へと方向を変えていく。
そんなことを気にしなくても、野次馬だって馬鹿ではない。
自分で逃げられるだろうに?とジャンは思うのだが、医者だからなのか?配慮を忘れないジンに頭が下がる。
自分の位置からは男とジンの陰になって見えなかった位置に、二人の少年がいた。
格闘を見に来ていた少年達は、興奮に身を任せて前へ前へと進んでいたのだろう、ジンはその少年達に被害が行かないようしていたのだ。
いまだに、男とジンとの攻防は続いている。
さすがのジンも組んでいた腕を今はもうすでにバランスを取るように動かしている。

「・・・、」

顔付近に迫るナイフを寸での所で、かわしていく。
男は、ジンだけを見ているのだろう。
ジンの瞳も同じく男を見据えていたが、途中なんだかため息を付いているようにも見えた。

「しねや!!!」

囁かれる言葉に、はかれる唾。
ナイフを振っている手にも力が入らなくなってきたのか腕も下がり始めている。

「にいちゃん、あんな奴やっちまえよ!!!!」
「そうだ!!あんなきもいやつ!」

口々に騒がれる怒号の中に、小さな少年の声が混じっていた。
先ほどまでは野次馬の列に混じってはいたものの、今はすぐジンの近くまで来てきていたのだ。

「ば、ばかっ!!!!」

ジャンは、タバコを投げ捨ててそのまま前へと進んで行こうとしたが、それも図体のでかい男によって遮られる。
男は、熱くなる方向を急に変えた。
先ほどまで見据えていた視線を背後へと変えた。
蛇に睨まれたカエル。

「・・な、なんだよ!!」

少年達は一応、自分達でファイティングポーズを取ってはいるもののその表情は、恐怖に染まっている。
それはそうだ、自分達が標的になっていなかったから言えた言葉なのだ。
声が裏がえって、かわいそうなくらいである。

「お前は、相手を間違ってないか?」
「ああ・・・?」

その言葉の直後、男は宙を舞って少年達とは反対側の方へと飛んでいた。
地面に倒されピクリとも動かない男。
白目をむいたまま男は、泡でも吹いているのが遠めに見えた。
少年達は、その様子を口を開けて声も出せずに見ていた。

何が、どうなったんだろうか?

ジンは涼しい顔をしてジャンの方へと足を進めようとするが、急にその足を止める。
振り返ってまだ動かない男の顔の傍で座り込み、極上の笑顔を浮かべる。
周りには聞こえない位の小さな声で何かをで呟いた。

「・・・武器も持たないこんなかわいこちゃんに倒されて、男が廃るな。」

パンパンと顔を平手打ち。

「出直して来い。」

立ち上がりざまに一度軽く蹴りを入れるジン。
根に持つタイプと見た。
ジンが汚れたであろう手をパンパンと叩きながらジャンの隣にたってまたしても腕を組む。

「兄ちゃん!!!!!!!」

そのまま、目の前の倒れた男に走り寄ろうとする大男。
だが、それをジンに阻まれる。
正面ピンクの鞄を脇に挟み茫然としている男に、返してくれとばかりに手を出すジン。

「・・・鞄。」

指をさす。

「それ・・・返したら、見逃してやるぞ。」

そう言いながら、次は両手を出しに掛る。
見逃すってどういう意味だろうか?
確かにこの弟分の引ったくり兄弟は今の所、何もしでかしてはいないのは確かだ。

ジャンも含めて周囲を固める野次馬もその様子を固唾を飲みながら見守るしかない。
少年達も先ほどとは違い、今はもう無言でその様子を眺めている。

「馬鹿言うな!」

だが、男は目の前に出されたジンの綺麗な白い手をパンと力強く叩くと距離をゆっくりと取る様に正面へと進んでいく。
その方向には、倒れている兄の方へと足を進めていく男。
脇の間には未だに彼には不釣合いなピンクのハンドバックが挟まれている。

「敵うちでもするか?」
「だったらどうした?!!!」
「だったら、保安官に捕まる運命だから可哀相だと教えてやるよ。」

目の前の大男にそういうと少し微笑んだ。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央