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はちみつ色の狼

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それにこの目の前の線の細い美人がどういう風に大佐に成り上がったのか、言い方は悪いかも知れないがそれも知りたい。
何の戦闘能力も無ければ、大佐にはなれないだろうし・・。
でも、この間の銃撃とか逃げてたよな・・、俺もだけど。

でも・・・・・、彼が戦えるのかどうか、正直なところ見てみたい。
この目の前の男から引ったくられた鞄を取り返すと言う本来の目的から、かけ離れた目的が出来つつある。

未だに大勢の野次馬の中央でそこから一歩も動くことはないジン。
それどころかこちらには視線も合わせようとはしない。
表情は不機嫌そのものだが、たまに視線を引ったくりに遭った老人へとやり表情を曇らせている。
目の前で硬く腕を組んでいるジンが、たまに睨みつけるような視線をジャンへと送り、それがまたジャンのちょっとしたいたずら心をくすぐる。


「手伝うだけでいいですから・・・、ね?」
「・・・いやだ。」


小声の攻防。

目の前のチンピラは、くそっと悪態を付くがその野次馬の輪からは用意に抜け出ることができないことは解っているようで、何かを探すように来た方向へと視線を送っている。
何かを探しているようなそぶり・・。

その直後、騒めく野次馬からもう一人が、飛び出してくる。
明らかに目の前のちんぴらに似たタイプの人間。
だが体が一回り大きくジャンよりも数倍横に広がったでかい図体をした男。


な〜んだ?えらく似たタイプの奴だな。


と、心の声。

エラの張った特徴のある四角い顔に、下に垂れた薄い眉毛。
一重の切れ長の瞳には、何か企んでいるかのように異様な光がある。


「兄ちゃん・・・・、なにやってんのぉ?」


そしてその一言が疑問を確信に変える。

兄弟で「ひったくり」なんて本当に頭が悪い。

気弱そうな物言いには似合わないような体格の持ち主が弟で、兄ちゃんと呼ばれた小さくてナイフを振り回しているほうが兄なのだろう。
先ほどからキョロキョロと兄貴の方が探していたのは、この図体のでかい弟だったのだと同時にわかる。
視線の先の引ったくり兄弟は、再会を喜ぶようにお互いの肩を叩き合っている。
その様子を眺めるジャンの頭の中に浮かぶ一つの案。

・・・これはチャンスだ。

俯きながらそう思いつつも顔には満面の笑み。
そのままの表情で向き直ったのであれば、すぐさま否定されるであろうから真面目な顔つきで向き直る。

「・・と、言うわけですし、・・ね。」
「何がと言うわけですしねっだ・・・・?」

ジャンに負けないくらいに真面目な顔つきで答えるジン。

「だって2対1で、あんたが手伝ってくれたら。」
「・・計算くらい出来るが、お前一人でも負けはしないだろう。・・・怪我をしたとしても。」

俺でも負けはしないと言う言葉に幾分かは信頼をされているのだろうか?と喜びを感じるのもつかの間すぐさま、最後の一言で突き落とされる。
『怪我をしたら後から医務室にくればいいだろう、しかし仕事が増えるとなると面倒くさい』とでも続きそうな不機嫌な顔で、ぶつぶつと呟いている。

狭い野次馬の輪の中心に大の男が四人。

それだけでもおかしな光景であり、ちんぴら兄弟が2人の話し合いを待っている姿も笑える。
が、兄貴と呼ばれた方の男が流石に痺れを切らしたのかナイフを反対の手に持ちかえて、大きな声で威嚇を始める。

「大の男が手助けを頼むなんて、情けねぇ。男が廃れるぜ。・・・ルイ、お前は手伝うなよ?俺の獲物だぁ。」

男はどこかの田舎から出てきたばかりなのか少し訛りのある喋りを披露すると、ナイフを右に左に滑らかな動きを見せながら近づいてくる。
ナイフを持った手はふら付いて、心元ないのであるが怪しげな光を灯したままの瞳が二人を見据えている。

しかも、ナイフを振りかざしている時点ですでに男が廃れていると思うがその辺は、どうなのか本人に確認は出来ない。
ジャンはその兄弟へ一応何が起きても対応できるように視線を定める。
ジンはと言うと未だに何もやる気がないのか、一応は野次馬よりも少し前に出てきたものの「はぁあ」とため息を付いている。

「さぁて、どこの誰だかは知らねぇが・・・、このヨシュラン兄弟の仕事の邪魔をしてくれたらただじゃあおかねぇ。」

口ごもって聞こえづらい声。
明らかに弟に良いところを見せようとしている兄と、その兄の雄姿を見て興奮冷めやらぬ弟。

ヨシュランなんて始めて聞いたと言う野次馬を尻目に、男は目の前に立つ二人を嘗め回すように眺める。
足の先から頭の先までじっくりとそして、にんまりしている。

一瞬だけジャンの方へと向く男だったが、もう一度ジャンと線の細いジンを見直してジンへと歩みを進めていく。
多分、どちらかと言うと小さくて倒しやすい男と言うことなのだろう。

プライドの欠片もないと言うか、それはそれで、男は廃っているような気がものすごくする。

男は、ゆっくりとナイフを時々反対側の手に持ち替えながら近づいてくる。
時々舌舐めづりをしている顔が、不気味そのものである。
少し人よりも長く見える舌はなんだか赤黒く明らかに血色が悪いし、ジンは未だに、こんな現場に巻き込んだジャンに向きぶつぶつと文句を言っていてその様子に全く気が付いていない。

おいおい、本気で不気味だぞ?

文句を言っているジンはさておき、ジャンはその男から目が離せない。
自分の耳につけられた大量のピアスのうちの一つを引っ張りながらまた舌なめずりを始める男。

「ちょっ、ちょっと先生・・。」
「なんだっ、ったく・・・。」

その声と視線が自分の背中方面へと向けられて居ることに気が付いたジンは、ゆっくりと振り返るとナイフの男が目に入る。
わずか30cmほどの距離。
男は、見た目よりも背が少しだけ高く丸くなった背を伸ばすだけで、170前後はあるように見える。
それに比べて・・、少しだけ見上げるような角度になるジン。

「そろそろ、俺が相手してやるよぉ、かわいこちゃん。」
「・・・・・。」

かわいこちゃんの一言に、ぴくりと動くジンの眉。
ジャンは、自分の宣言通りに、危なくなったら助けるを実践すべく目を光らせているが、男のほうはナイフをジンの目の前に突き出したまま動こうとはしない。
そのうち、脇に挟んでいたピンクのバックを弟に投げ渡すと、くいっと手を突き出して指だけを器用に曲げてこっちにおいでのポーズを取り出した。

「掛かってきな・・、遠慮なく。」
「・・・はぁ。」

盛大な大きなため息。
だが、別段緊張が走っている訳でも無さそうに、近距離にいる相手をじろじろと品定めをするように眺めているジン。

「なん・・・なんだよ?」
「いや、別に。」
「・・・言いたいことがあれば、言うべきですよ〜先生。」

口を出すジャン。
そして、その中の一つの単語に対して眉間に皺を寄せる男。
直後一段と不気味な表情を浮かべて、ジンを睨みつけ今まで引っ張っていたピアスを引き千切らんとばかりに力が入る。

なんか、・・・いらない事を言ったか?俺。

その男の表情を見て思わず、さーと血の気が引くのを感じる。


「・・・センセイ???セ・・ンセイだぁ・・?」
「・・・・。」
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央