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はちみつ色の狼

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野菜に、色とりどりの豆に、チップスのスタンド、ロースターの中でぐるぐると回るチキンの店なんかが今の流行である。
海からも山からも遠いこの街だか、交易は盛んで色々なものが集まってくる。


「・・今日は、すごい人数だな・・、こりゃまた。」


ジャンは、独り言を言いながらその道を進んでいく。

明らかに、この街の住人で無さそうな毛色の違う人間達が、お土産用のモザイクに手を取って喜んでいるようにも見える。
そして同じように大きなアイスクリームを手に持った子供達がくるくると良く動く瞳であたりを物珍しそうに見て、大人達を困らせたりもしている。
思わず、その様子に笑みがこぼれる。
平日なのに人が多いのは、シルベウス大祭の終日に近いからだろう。
祭りの夜に比べると、人の種類が変わるものの同じくらいの人数が集まっている。

そういえば、祭りの初日からそんなに日も立っていないのに、なんでこんな長い時間と感じるのだろうか?

ジャンは首を捻る。

足を前へ前へと動かしながら、そういえば緑の遺体を発見したのと同じシルベウスの初日にあの「ジン・ソナーズ」医師が現れて、演習で銃撃されたりと
いろいろな出来事があり今日に至る。

「・・・ある意味、強運だな。」

そういえば、ジンは、悪運と言う意味でもある。
同時にそんなことを考えている。

強く気持ち良い風が、急にびゅっと言う大きな音を立てながらジャンの顔を撫でる。
いつもなら、砂交じりのその風を制服でよけるのが普通であるが、この場所は街の建物の関係で砂が風で運ばれる事もなく、清々しい。

まだ湿っていた頭もその内に乾くなと、のんびりと考えながらポケットに手を入れて新しいタバコを取り出そうとしたとき、
目の前のりんご売りの少女と目が合う。

「りんごいかが?」

褐色の肌が眩しい笑顔が可愛い少女。


「一個もらえるかな?」
「23J(ジルダ)。」
「・・・、」

ポケットをまさぐるジャン。
23くらいであれば、ポケットの中に入っていたはずだ。
ガチャガチャと金属があたる音。
手に掴んだ分だけを取り出し、手のひらを開けるとそこに光る銅と銀のコインたち。

「・・ええと、23と。」

2枚の10と書かれた銀コインと、3枚の1と書かれた銅コイン。
コインを少女の小さな掌に乗せると彼女は、籠の中からりんごを取り出す。

「・・ありがとう。」
「こっちこそ、」

この区に国が違うのかりんごを渡す際に呟かれたありがとうの言葉が何故か片言だった。
一個のりんごにしては少し高い値段ではあったが、少女の腕の籠にはまだまだ一杯の赤いりんごがごろごろと入っている。
この分じゃ、まだまだ売り切るのに時間が掛かりそうだなと思わずにはいられない。

移民かな?それとも難民か?

もし難民にしても、何かの法的処置をする権限も無いし、するつもりもない。
頭の端のちらりと浮かぶダウンタウン地区の映像。
制圧だか何だかで以前市の整備員の警護ついでに行ったが酷いものであった。
同じハイドランドとは思えない程の貧困。
噂ではもっと東の国では人身売買や臓器売買が行なわれていると聞いた気がする。
手の中のりんごは赤く熟れているのか甘酸っぱい薫りをさせていた。

今日は1日のんびりと、小難しいことは考えずにおこうとしていたのに、すでにそれは失敗に終わっている。

時間にすると昼過ぎ。腹も減った頃だ。
ジャンはぱくりとりんごにかぶりつくと、それは新鮮そうないい音を立てた。
空いた腹に染み入る甘い蜜の味。

美味しいけど、余計に腹が減るな。これ。

手に持ったやや大振りで甘いりんごを見て苦笑を浮かべる。


もう一度、礼を言おうとするがりんご売りの少女はすでに他の客を相手にしようと反対側の道で「りんご、りんご」の掛け声をかけているのが見えた。
人酔いを醒ますがてら、椰子の木の木陰へと入りリンゴをかじる。
ぱりっと良い音がするりんご。
甘酸っぱい味が、口中に広がりなんだか懐かしく感じる。

正直、田舎生まれの田舎育ちにはこの人込みは苦手である。
たまの休みにしか来ない街、今日は一段と人込みが多くジャンのやる気をそぎ落とす原因である。


やっぱ、部屋で寝てた方が良かったんじゃねぇかぁ・・?


今更だな?と自分で突っ込みを入れながら、食べ終わったりんごのヘタを市場のゴミ箱に律儀に捨てていると解りやすいタイミングで手を振る女性が一人。
挟んで向かいのスープショップのおばちゃんが手を振っているのが見えた。
道路を隔てて、人の波に飲み込まれていると言うのに馴染みのおばちゃんは笑顔で迎えてくれる。
兵隊さんご贔屓の店で、ジャンはここの街に着てからというモノ色々な店にお世話になっているがこの店もその一つである。
ミートボールのトマトスープなんかを頼むといつでも一個おまけが付くなんとも、兵隊さんに甘い店。


「おばちゃん、元気そうだねぇ?」
「元気は元気よお、ただねぇ・・。」


おばちゃんは、太った体を思いっきりカウンターに乗せて寂しげな困惑したような顔をしている。


「何?心配ごと?」


思わず聞いてしまうのだが、答えはわかっている。


「いや〜、ほらあんた最近姿を見せてくれないからおばちゃん淋しいよお・・。」


いつもどおり、そう言い渡されてジャンは苦笑しながら、話を続けていく。


「なあにを言ってんだか、この前なんか目の前通っても・・・・、」


突然背後からの奇声?
ざわめく人込み。
ジャンに人酔い起こさせる群集が、一斉に流れ出す。
口々に騒がれる言葉。


「・・・ん?」
「なんだか、騒がしいねぇ?」
「ああ、そうっすね・・。」


背後からの叫び声と、近づく喧騒。
後方を人の波を掻き分けながら走ってくる男がいる。
明らかにおかしいのは手に持った小振りのハンドバック、色がピンクなのとショルダーからかけるタイプでお洒落に疎いジャンでもそれが人目でこの男の物ではないとはっきりとわかった。

ひったくりかよ。
溜め息が漏れる。

都会の人込みで引ったくりの男は前に進む事はかなわない。
ジャン同様、チンピラも人酔い手前だろう。
男は、誰かを振り切ろうとしているのか、たまに後ろを振り返りながら走っている為進むことができないでいる。


「ったく・・・。」


おばちゃんが、行っといでと言う言葉で送りだしたのはいいが、どうやって止めるべきか?
普通ならこの近くにある保安官が、なんとか捕まえに来てもよさそうであるが、その姿は今は見えない。
しょうがなく、それもわざとらしく男が通るであろう場所にあらかじめ肘を突き出す。
気が付かないでそのままぶつかるか、ぶつかる前に因縁を付けて来るかのどちらかだろうと鷹をくくる。
だが、男は自分の後ろを振り返りながら走ってきた為かジャンの肘に勢いよくぶつかってきた。

どすんと激しい音をさせて、そのまま横に飛んでいく男。

転がっている男へと視線をやると男は、痛そうに転がりながらも後づさりジャンから離れようとしていた。
男の年齢は、ジャンよりも年上か、同じくらい。
西部は治安が悪いとはいえ、この軍隊からもほど近いこの街は治安がわりかし他の街よりはいいはずなのだけどな。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央