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はちみつ色の狼

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17 Days off.-2-





空調で冷えた廊下を歩きながらジャンはすでに街で何をしようかと考えていた。

まず、頭に浮かぶのは買い物。
履きつぶしたスニーカーの代えがほしくなってきたところだった。
今持っているものは、始終履きまくったおかげで底の部分に穴が空き、いつの休みだったか忘れたが、突然振ってきた雨で浸水した。
今日は、街に行くついでだ。
自分が軍人ということも忘れて休みを有意義に使おう。
かわいい女の子がいたら、声をかけてみるくらいな気持ちで。

と、考えているだけでその通りになったことなどは一度も無いのだが、考えるのもまた一興。

ジャンは、自分の部屋の前で立ち止まりいつもの通りにドアのノブを回す。
扉を開けたと同時に、むあっと暑い空気が肺の中に入ってくる。
息苦しいほどの気温差。
部屋の中は、ぐったりするほど暑くなっていた。
朝はまだ涼しい風が吹き込んでいた部屋には昼間の光が容赦なく入り込み、真ん中には蜃気楼でもありそうなくらいに暑っ苦しい空気が揺らめいているのが見えた。
折角シャワーで汗を流してきたばかりなのに、この暑さでは体の穴と言う穴からすぐにまた汗を噴出しそうだ。
ジャンは、ドアを開けたままで中へと入っていく。
開けたままにしておけば、そこまで暑い空気がこの部屋に溜まることはないと考えたのだ。
そして、その考えが正しいとばかりに廊下の利き過ぎていた冷気がジャンの部屋のベットのすぐ傍まで感じられた。

早速、指でつまんでいた汗臭い服をシャワーの横の洗濯袋の中に突っ込み、同じくジムから着て来た服もそこら辺に脱ぎ捨てるとそのままベットへと座り込む。


「あっちいな・・・、くそっ。」


申し訳ない程度に、廊下の空調が冷たさを運んできてくれるとはいえ、やはり暑い室内。
顔をパンパンと軽く叩きながら、そのまま冷蔵庫の中を覗きに行く。
小さな冷蔵庫、その場に座り込むジャン。
冷蔵庫の中には、瓶入りのオレンジジュースがありそのまま一口飲んで冷蔵庫へと戻す。
口の端から少しこぼれたジュースを腕で拭い取って、ゆっくりと立ち上がる。

どこにも行かないで、冷房の利いてる図書館にでも行って昼寝でもするとか?
とはいえ、図書館があるのも街のなか。

最初に予定していたことからすぐさま離れていく男、ジャン・シルバーマン。
いまだに濡れている髪の毛をそのままに、ベットに座る。
そのまま寝て休日をすごすのは、どうだ?と一瞬考えるがこの暑さはそれを許してはくれない。
手を伸ばしてベットのボードにに掛けられた一応洗濯したての黒いTシャツに腕を通し、頭から被る。

「よ〜いしょっ、」

座りながら同じようにボードの黒Tシャツの下から出てきたポケットがいっぱい付いたベージュのチノパンを履く。
これが、休日ルック。
ジャン・シルバーマン流の私服なんて、そこまですごくない。
いたってシンプル。
そういえば隣の朝からばたばたしていた少尉仲間のやつも、昨日休みで私服姿を目撃したがその姿は、なんだか雑誌にでも載ってるモデルのような服装であったような気がするが・・。
そして、ルイスもおしゃれだった。

ジャンは、すでに着ている自分の一張羅である黒のTシャツの端を持って、眺める。

「おしゃれ・・・ねぇ。」

『この服とか、前もみたわ!』

今日はよく前の彼女を思い出す日である。
そう、いつもデートのたびに言われていたような記憶がよぎる。
だが、デートの度に良い服を着ている男もどうなのだろう。
そういう男が彼氏になってほしい女性は、軍人を選ぶべきではないとジャンはこっそりと思う。
それに、なかなか新しい服を買いに行くような時間がないと言い訳をしたくなるが、服装よりもおいしいパン屋なんかに行くことの方がどちらかと言うと、楽しみであるジャン。
たまにしかない休みに一生懸命服装を考えるよりも、いつものおいしい珈琲屋で時間を潰すほうが有意義であるとジャンは考える。

その姿に白シャツを腰に巻き、それに穴のあいた靴。
と、床に転がった穴の開いた靴に手を伸ばそうとするが、さすがに穴が開いているとわかっていて履く気にもならない。
その代わりにベットの下におもむろに手を突っ込んで大くてごついブーツを取り出してそのまま履きにかかる。


「さてと・・、出かけますかね。」


ベットサイドにある一応、勉強机とは名ばかりのごちゃごちゃと騒がしい机の上から新しいタバコの箱探し出し一個取るとチノパンのポケットへと入れる。
財布とライターも忘れない。



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寮からは徒歩。




何も無い休日ではあるが、チノパンの膝横のポケットにはいつものポケットベルが常備されている。
ヘンダーソンズまでははっきり言って車でなら近いが、歩いて行くとなると距離がある。

が、何度も言うようであるが今日は休日。時間は山ほどある。

歩いているうちに、図書館で寝ることは忘れてしまうだろうとジャンは読んでいた。
先週末にオープンしたてのコーヒーショップに、商店街の角のパン屋兼本屋、そして来週の買い置き。
ジャンの頭の中にはしたいリストがあった。
が、どれを先にしなければいけないと決まってもいない。

休みの日ぐらい、ゆっくりするさ。

ジャンは歩きだし、目の前の門扉がブザー音と共にゆっくりと開かれて行くのをじっと見つめる。

門扉と言うよりも、兵舎の塀の外は、いつもジャンに清清しい気持ちを与えてくれる。
長い塀の横の道を歩くのはいつでも一苦労であるが、こんな休日の晴れた日は大歓迎である。
塀の暗い灰色までが今日は明るく見えるから不思議である。
酒に酔った酔っ払いがつけた喧嘩の後は、なんて馬鹿な戯言をしてと、ジャンを笑わせる要素でしかない。

思わず、鼻歌まで出てしまいそうになる自分。
だが、目の前から見知った顔の同じく私服の兵士が来るのが見えて、真面目な顔を作りつつ横を一礼しながら通り過ぎる。

おお、やばい。
最近なかった2日の連休とは言え、浮かれすぎるのもどうかと思うぞ。俺よ!!

と、思いつつもにやける顔を元に戻すことは出来ない。
塀は、いつの間にか切れ目を見せ、その塀沿いにある大きな道路を渡るとすぐに街の中心を走る大きな道路へと行き当たる。
この道をまっすぐに行けば大きな時計台がある駅のコンコースに当たり、その駅を中心に街は広がりを見せる。
砂漠のど真ん中で吹きっ晒しの場所にある軍の施設からほんの200mやそこらで街に到達するのだから恵まれている。
他の西部、北部、南部の地区の軍関係施設は、文字通り極秘で場所も街から数百キロは離れ、休日にもなるとその移動距離を移動するだけで終わってしまいそうな勢いである。
その恵まれた街は兵舎とは全く違いいつも賑わい、明るい雰囲気を漂わせている。

前方の道は坂になっていて右へと折れるカーブを描いていた。
その道には多数の椰子の木が立ち並びそれを挟み込むように所狭しと赤や青の簡易テントが軒を連ねて、時々聞こえる大きな声が、店へと誘っている。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央