はちみつ色の狼
紋章の上にあしらわれた四つ星は、上位の位を表すことくらいジャンは知っていた。
余裕綽綽だったのは、だからなのかと少し恨めしそうな顔をする。
「東部地区第一執務室大佐、ジン・ソナーズ。0100時の会議を予定している。」
た、大佐!!四つ星が上位だとは知っていたが執務室の大佐だとは知らなかったとはいえ、
散々失礼な事をしてしまった、顔色が変わる。
「・・・!うっわ、すいません!!俺は、わ、私はジャン・シル・・」
「いい。それよりもここの執務室の場所はどこだ?」
名前も半ばに話を切り上げようとする偉そうな態度に、少しむっとするが、ここは軍隊
そんな人間のほうが、多いのがここ。
目の前の庁舎を指差して、そこですっと言う言葉と共に早足で立ち去る男。
男の姿は、数秒もしない間に執務室のある隣の兵舎の扉の中へと吸い込まれていった。
礼は何もなく、振り向きもしない男。
顔はいいのに、目つきも悪くて感じの悪いやつだ。
「・・・・・なんだ、あいつ。」
偉そうにっと呟くが、本当にお偉いさんなのだからしょうがない。
少しばかりかわいい、いや、大分かわいい顔をしていたが性格は悪そうだし、
もう一生付き合いなどはある筈がないとジャンは一人ごち、吸いかけていたタバコを口に入れるが
それはいつの間にかフィルターの根元にまで火が迫っていた。
タバコの残骸を壁に押し付けてもう一度、壁際に座り直し、地面を軽く一蹴り。
こうでもしないとなんだか、むかむかとしてしまう。
そしてまるであの男が兵舎の中に入るのを待ちわびていたかのように、突如
砂漠からも風もいつの間にか戻ってきたようで、顔に浴びる。
「っ!!」
砂が口に入る。
だから、口にタオル巻いとけって言ったのにと、頭の上で呟く声。
いつのまにか大型の軍用車で帰ってきたルイスが隣に体育すわりをしている。
本当に、いつでも音もなく現れる男である。
ぺっぺっと、口に入った砂を吐き出しながら立ち上がる。
座り込んでたズボンの砂だらけで、ルイスの目の前でわざわざ砂を払う。
「・・ざけんなっ」
「あ、ごめんごめん。小さくてわからなかった。」
風と共に舞う砂埃が、隣で座っていたルイスの顔面に直撃する、と同時に自分の方へと向かってきた砂埃がまたしても、口に入り込み、咳込ませる。
立ち上がったルイスに、蹴りを食らいながらその場に倒れこむようなしぐさ。
ルイスはそんな様子に、うっとおしそうな顔をしながら普通に車の方へと歩いていく。
いつまでも、倒れてるジャンに対してもう一度そこに蹴りを入れていくルイスと、その様子にくすくすと笑う隊員たち。
「・・いつまでやってんだよ。ジャン、行くよ」
「どこまでもお供いたします、荒野の果てまでも。」
むかつく事件の前に気が付いたことを身体を起こしながらルイスに確認をする。
「ところで、砂防止のゴーグルって人数分積んだ?」
ルイスは一瞬考えて、すぐさま。
「あ・・・・?!忘れてた。」
くそっいつもなら軍曹辺りがとぶつぶつと呟きながら、小走りに兵舎の倉庫がある場所へ向かうルイス。
その後姿を見送る隊員は、なんだか捨てられた犬のような悲しげな顔をして残されたもう一人の隊長の顔を眺める。
いつもの任務の場合、うちの本当の部隊の気の利いた軍曹なら任務の用意をして次の日には車を運転するだけで完了と
事は簡単にいく筈なのだが、自分が新人の研修隊長となれば用意はもちろん自分になる。
「あ、あと10分休憩!!!」
どこか抜けた二人の隊長と隊員たちの旅は始まったばかりである。