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はちみつ色の狼

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ルイスは大抵歩いて行き20分かける。その間、お互いに任務前のリラックスした気分を楽しむのだ。

「・・それにしても、良い天気だ。」
「隊長、何かいいましたか?」

隊員の一人がジャンを見て、また敬礼をする。
が、こんな地面に座り込んでタバコを吹かしている上司などはあまり威厳は無いのではないかと思うが、若い男は初任務の時のように緊張している。
最初は、この男のように緊張をしていたのだろうか?と思うが自分にはこの時期は無かったと考え直し、男の緊張を解そうと心ばかりの笑顔で向き直る。

「いや、なんでもない。・・・用意ちゃんとできそうか?」
「はい!!もちろんです。」
「それじゃ、」

さっと見た腕時計が11時を示している。



「11時15分には出発できるようにここに集まれるように。少し自由を許す、他の隊員にも伝えてくれ。」
「Yes Sir!」





その若い男が、他の隊員たちに声を掛け、辺りにいた者たちも思い思いの行動を取り始める。
ジャンのように少し場所を空けて座り込む者もいれば、遠くで馴染みの隊員と話をするものもいる。
自由時間なのだから、誰が何をしようと気にする必要もない。
軍人だし、何よりも大人の男として自分の行動に責任を持つということは当たり前のことなのだから。

その理論から、ジャンは壁に凭れ掛かったまま、少し瞳を閉じる。
夏に近づくこの時期日差しは強くむき出しの瞳は大打撃を受け、閉じられた瞳からはじんじんとその裏側へ痺れるような
痛みを少しだけ催してくる。
大分前の食堂の掲示板に、サングラスを使用と言うタイトルで張り紙がされていたが、買うタイミングも無く、
そんものを買うぐらいならビールの一本を買いたいと言う誘惑に負けてしまう自分がいた。
ジャンの青い瞳は、茶色の瞳を持つ者よりも少しだけ光に弱いのではないか?と自分で思っているが、
大体は代わりがないようであった。
ルイスは、砂防止のゴーグルを人数分入れたのだろうか?この強風の中素の眼で作業を続けていれば労災の騒ぎになりそうなのは
目に見えている。チェックをしておかないと考えながら首の間接を鳴らす。



一瞬砂漠からの風がやむ。


先ほどまで耳の中にまで入ってこようとしていた砂も騒がしかった砂漠からの風の音も止み、不意に無音のような状態になる。
先ほどまでのゴーグルの心配はどこへやら、瞳を開けると同時に、吸っていたタバコの煙が先ほどよりも静かに上へと向かいそして消えていくのが目に入った。
その様子をしばらく静かに眺めていたが、ふいにフェンスから通じる通路の扉が開く音が耳へと入ってくる。
普段なら全く気にすることの無い何の変哲もないただの扉の音が今は一際大きく特別に感じられジャンの意識をそちらへとやると、
なんてことはない、誰かがただ扉を開けて外へと出てくるだけなのだが。

だが、ジャンは息を呑んだ。

扉から出てきたのは、すらりと伸びたキャメル色のスラックスに白いシャツと言う、どこにでもありそうな姿。
が、その横顔は憂いを帯びているように見えるのは、何故なのだろうか?と首をかしげる。
壁沿いに座り込んでいるジャンの前を静かに通り過ぎようとするその男。
白いシャツから伸びる艶かしい首筋。
日焼け知らずの首筋は、知らず知らずのうちに何者かを誘っているようなそんなようにも見られる。
しかし、そんなことはこの際おいておいて、ここははっきりと何かを一つ声を掛けないと示しがつかない。
軍服でもない、支給された服でもない学生風の服装をしたこの男、民間人であろう。
ここまで入ってきたからにはそれなりの処置をとらなければならない。
だが、できれば穏便に済ませてやりたいと言う気持ちもある。

ジャンは、その場から立ち上がりお尻に付いた汚れをパンパンと落とすとその男の方へと歩いていく。
そして、そのすっきりとした、それでいて清潔そうな白シャツに包まれた肩をとんとんと軽く叩き、こちらへと振り返らせるように仕掛ける。


「ちょっと、ごめん・・、」



その通りにジャンの方へと振り返った本人は、切れ長の瞳を訝しげに、こちらへと向けていた。
男は、ソン所そこらにはいない美形である。
ルイスも美形だがほんわかした美人で、この目の前の美形は、はっとする何かを持ち合わせていた。
少ししか近くに寄っていないにも関わらず、男からは金木犀のような甘ったるい強い香りがし、東部出身者のような透き通るような白い肌に瞳は茶色と
童顔にも関わらず、美しいと言ったほうがピッタリくる顔。
桜ん坊のように赤みを帯びた唇は真一文字に結ばれ、165センチかそこらくらいだろうか?小さな身長からは想像できないような威圧感のある視線が感じられる。
思わず、その様子に見とれてしまう。


「・・・なんか、用・・?」
「!?」


ちょっとごめんと言った傍から何も話さなくなったジャンを見て不審に思ったのか、男の明らか面倒くさそうな、それでいて偉そうな言葉遣い。
そして、これ身ごなしの大きなため息でジャンは現実に引き戻される。
気を取り直して、自分の仕事をしようとするが、なんだかドモルジャン。


「え、えっと、こちらへは民間人は入って来てもらっては困るんですが・・・。」
「みんかんじん・・・?」


男は、その場で静かに腕を組みをしているジャンの顔をじっと見るが、
瞬間先ほどのするどい視線と威圧感は消え去り、目を大きくして驚いた顔になる。

「ああ、知ってる。」

静かに言う男。


「困るんです!」
「なにが・・?」

「だから、民間人がここに入ってきたら!!」
「・・本気で言っているのか、お前?」


男は、そう言いながらも顔はまだ余裕が見える。
驚いていた顔は、僅かながらも少しいたずらっ子の様相へと変化し口元には不敵な笑みまでも浮かべそうな勢いだ。
その不敵な笑みまで魅力的に見えてしまいそうなのが、恐ろしい。


「?・・・・本気です。」
「本気にしているなら、どうかしてる。」

またしても、人の寝首をかいたような顔で、ジャンと同じように腕を組む男。

「なっ・・?」
「ここは、そんなに簡単に入れるところなのか?」


この掛け合いで気が付くべきであるが、ジャンはまだ質問を続ける。
その小さな童顔の男は少しだけ苦笑を浮かべながら、ジャンの横をするりをすり抜けていこうとするが、
それを簡単に許すわけにもいかなくジャンは男の右肩を強くつかみ、もう一度制止する。

「・・・・そんことは、」
「ここまで入るのに必要なものは、ID、指紋センサーに、声識別。」

ジャンが吐息とともに呟くのと同時に、男は遠慮なく自らの胸ポケットをまさぐる。
警戒をするジャン。

一瞬の緊張。

もしこの男がテロリストなら?とか、こんなに近くにいる自分に恨みながらもベルトのガンホルダーにすばやく手を掛けその姿を見守る。
男はめんどくさそうな顔をして、胸ポケットをまさぐっていない方の手を降参のように、ジャンの目の前でひらひらさせつつ
そこから小さな黒皮の手帳を取り出すと、器用に片手だけで開きその内側をジャンへとみせる。
そこには、赤と金色で縁取られた国軍の紋章。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央