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はちみつ色の狼

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一瞬だけ見えたジンの眉間には皺が寄っていることを確認し、ジャンは一層引っかかるものを感じずには居られない。
やっぱり、思っていた通りに、彼はなんだかジャンを避けているのだ。
そして、それはきっと・・・、


「ああ、わかった!あんた根に持ってんですか?あのテントの話を」
「・・。」
「あんたのせいで何の意味もわかんなく死にたくないって言うあれ??」
「・・・・・・。」


肯定するかのような無言。


「図星ってとこか?」
「・・・っ!」
「ちょっと・・・、俺あの時も言いましたよね?俺のせいかもしれないし。」


ありえないことではあるが、絶対にありえないことともいえない事実。


「・・・それに、あんたあの時別にもう気にしてないって言ってたくせに・・・。」
「・・・気にしてなんかない。」


腕を振り解くのが面倒臭くなったのか、先ほどまで一生懸命に解こうとしていた反対の手が力なく落ちる。


「それに・・・」
「・・・それに?」
「あんたが、もし狙われててその巻き添えでも、今更後の祭りってやつでしょ?巻き込まれたよしみで最後まで手伝いますって。」


その言葉に先ほどジャンの登場時と同じようにまん丸の瞳で驚きと少し照れくさそうな顔になったジンであったが直ぐに表情を元の冷たい物に戻す。


「助けなんかはいらないし、実はお前が狙われてて俺が巻き添えかも知れないのに勝手な事は言うな・・。」


そういい放ちながらも、俯いた顔は少し照れているようにも思えた。


「・・あんたって、すっげえひねくれもん。」


ジャンが小声でそう呟くとフンと鼻を鳴らしてその横をするりとすり抜ける。
先ほどのジャンの言葉に対して聞こえないくらいの小声で呟くと直ぐにシャワーの中に入って行った。
その一言が聞き取れなかったジャンはシャワーを開けてまで聞き直す。


「なんつったんです?」


男同士とは言え、勝手にシャワーの個室を開けるのはどうかと思われたが行動を起こしてしまったのはしょうがない。
目の前に立つのは、すばやすぎる程の速さでシャツを脱いでズボンだけになり、そのズボンにも手を伸ばしているジンの姿であった。
いきなり開かれた扉から覗いた顔を見て、ぎょっとするジン。


「・・・・・なっ!!!閉めろ!ばか!!!軍法会議にかけるぞ!!!」
「・・・あんたが大佐じゃない事に心底感謝しますよ。只の先生様。」


にこりと微笑むジャン。
軍法会議は、大佐という役職の人がするもんでここで医者のジン・ソナーズが出来るわけが無い。
その言葉と、ジャンの笑顔にむかついたのかいきなりジャンが覗いているのにも関わらず、無理やり顔ごと扉を閉めようとするジン。

・・・・だが、力でジャンに勝てるわけもない。

それが解っているのか最初は片手で閉めていた扉を今度は両手でぐいっと閉めに掛かるジン。


「お・・・ま・・え、離せ!俺はシャワーを浴びるんだ!」
「・・んじゃ、なんてったか教えてくださいって。」


ジャンは片手で、それもその様子を見て思わず苦笑を浮かべながらも軽く開いていく。
くっそっと言いながら思いっきりドンと手を扉に突こうとしたジンであったが、ジャンによって思いのほかすばやく開かれた扉に手を突き損ねてそのままバランスを崩して同時に足を滑らせる。
青いタイルの床に踏ん張ろうとするのが見て取れる。
しかし先ほどまでジャンが使用していたシャンプーの残りが排水溝に吸い込まれずにあったのかジンの足の滑りをよくし、その踏ん張りは利くことが無い。
そして、あえなく小さな悲鳴をそのまま扉を開いているジャンの方へと倒れこむ。


「っ!!!」
「ちょっと・・・!」


一瞬であった。
息を呑んだのは二人とも同時だったろう。
ジンは、その瞬間に目を閉じ、床にぶつかる衝撃に耐えようとし、ジャンはと言うと彼が扉にぶつからないように、片手は個室の扉を押さえていた。
そして反対の片手でジンを抱きとめる。

おとなしく片手に収まっているジンの体は思いのほか冷たかった。

背中側をジャンに向けてそのまま抱えられてジン。
どこも怪我が無いことに、よかったと思いながら思わずため息を付く。

そして、何気なく視線を目の前にあるジンの背中へとやるとそこにあるのは、ジャンに抱きかかえられているためかぶらんと無防備な体。
軽いだけだと思っていた体であったが、意外と筋肉が付いていて着やせするタイプなのだとわかる。
ただやはり彼の首筋は細く、太陽に当たっても焼けないのか少し赤く色づいているのが見えた。

「・・・。」

真っ白な背中の中央部には赤い筋を見つけその部分に近い場所を触る。
その場所は、多分であるがこの間の爆風で負った傷だろうか、引き攣れてはいるが怪我の状態としては悪くは見えない。
だが、その横にその横の傷はなんだろうか?
大きな線がひとつ、右斜め上から左斜めに下にかけて一つの筋がある。
それは明らかに消えかけていて、ここ最近出来た傷ではないことを物語っている。
痛々しいというよりも、少し赤く染まってそこに傷があることを主張しているようで・・・、なんだか色っぽい。

なぜだか、その様子に思わず息を呑むジャン。

見慣れた男の体で、身長だってほとんどルイスと変わらない彼に対して・・。

正直、いかれてる。
さっきから、色っぽいやらえろいやら・・。

本当に、相当いかれてる。
眉をひそめながら、俯きながら首をかるく振る。

ジャンの手に触る彼の肌はしっとりとしているのと同時に柔らかい。

あの香りは・・・、どこからするんだろうか・・。

ちょっとした疑問。
そのまま、その背中に顔を近づけそうになる自分。
だが、その疑問に答えは無い。

そのうち二人の周りの世界は普通にざわめきが戻り始める。
多分、時間にしても数秒間。


「少尉、何してるんですか・・?」


と、普通に質問をしてくる後輩もいる。
そりゃ、そうだろう。
一方が俯いて抱きかかえられてもう一方が扉を押さえながら、・・何をしているか疑問に思わないほうがどうかしてるし、
周囲の様子に何も気が付かないで、もう少しで何をしでかそうとしていたのか考えると、顔が熱くなるのを感じる。


「え・・、あ、遊んでる・・・?とこ?」


なんとなく、疑問文で答えるジャン。
答えを聞いて後輩兵士は、ああそうですか?と言い残しなんの疑問も持たないままにそのまま去っていく。
それを見送った後、ジャンはジンを抱き起こしてやると目の前にしっかりと立たせて、肩をぽんぽんと叩いた。

「・・・冗談が過ぎました。」

タオル一丁で、直角に謝る。


「別にいいよ。」
「ところで、先生ってなんか香水とかつけてます?」
「?」

何を急に言い出すんだ?と言いたいような不審な瞳がジャンを見つめる。
見つめたジャンの瞳がなんだか獣のように何かを狙っているかのように見えて、ジンは少し後ずさる。

「え・・・、」

次の瞬間、ぞくりとする感触を自分斜め上に感じる。
そこには金色と言うよりは薄いはちみつの様な色合いをした柔らかそうな髪の毛がいるではないか。

「・・・・シルバーマン?」
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央