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はちみつ色の狼

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何を食べて生きているんだ?と思うくらいに下に組み敷かれていたジャンは重みを感じなかった。
あの時は、別段感じては居なかったが今考え直すと、すごい状況であった。
銃撃さえされていなければ・・・。

ほかに気の利いた台詞が言えそうなものだが、考えも付かなかった。


「・・・・。」


そういえば、あの銃撃事件以来相手に避けられているのか会うことは無かった。
たまに昼の兵舎の食堂で、カップ一杯の飲み物を机に置いて読書をしている姿を見るくらいで、別にジャンも避けられる相手に何かしら喋りかけるのも癪だとばかりに医務室近辺には立ち寄らないようにと自分でそう仕向けていた。

ただの気のせいだろう。
以前(しょうがなくだが、)飲みに行ったときも楽しかったことと、
生きるか死ぬかの状況だったからした勘違い。

そうだ、あの状況はただのつり橋効果だろうと自分自身に言い聞かせながら、ジャンはシャワーの元を閉める。


ふわりと良い香りが鼻につく。


今したシャンプーや石鹸やなんかとは違う香り・・・、
これは、所謂金木犀のあの、先生の匂い・・。


「・・・重症・・・、これありえないわ・・。」


ごちんと頭を壁に一度軽くぶつけて苦笑をする。
想像するだけではなくて、感覚まで遣られたか?


「はあ・・・、俺ちゃんと抜きにいかなきゃなぁ・・。」


こりゃ、・・・・相当溜まってるせいだ。
ボインで、金髪の華奢な色白のおねいさんとコンパのセッティングをルイスに頼もう!!!

握りこぶしを作りよしっとばかりに、そのままいつもの寮の自室でやる癖で頭の水気を飛ばそうとブルブルとその場で頭を振る。


「わ!!!!」

「えっ?!」


やばっ!!!ここって俺の部屋じゃなかったっけ・・・っ?!

思わず、顔を顰め肩をすくめる。
ジャンは今更自分の居た場所に気が付く。
その声は、自分の仕業でだれかがジャンがはなった大量の雫を水気を引っかぶった人物がいたと言うことであろう。
ここは一つ素直に一言誤ろうと振り回したせいでぼさぼさになった髪の毛も気にせずタオルも何も巻かずにそのままシャワーの個室から飛び出るジャン。


「ごめんっ!!俺あんま気にせずに・・・?!」

げげっ・・・・・、

「・・・。」

「・・・・水飛んで・・・きましたよねぇ・・。ごめんなさい。」


ばんと音を立てて、開いた扉の向こう側にいた人物の姿を見て、尻つぼみに声がどんどんと小さくなっていくジャン。
あちゃあ・・・、シャワー室だと言うのに場違いな白いシャツに身を包んでいる正面の人物。

思わぬところで、思わぬ人物と出会ったもんだな。
それも、タイミングが・・・良いというか悪いと言うか・・。


ジャンの吹き飛ばした水による犠牲者は目の前に立つのは、ジン・ソナーズその人であった。
ひとまず匂ってきた金木犀の香りについては妄想や幻覚ではなくそこにあった匂いだったとわかり一安心。

視線の先にいるジンは、ありえないくらいにびしょびしょに濡れて肌にシャツが張り付いている。
その姿はまるであの雨の日のようであった。

うっすらと湿らせた黒髪は、いつもよりも濃い漆黒色へと変わり、しっとりと顔に張り付いていた。
どうしてだが、その髪の一筋が彼の柔らかそうな唇の端にくっついている。

な、なんかこれって・・・・えろい。

ごくりと唾でも飲み込みそうな感じでじっくりとその顔を眺めていたが、すぐに考え直す。

いや、でも、その前に・・・、
そこまで、髪の毛に水を含んでいたのか?とジンの濡れ具合を見て、ジャンは目を一瞬疑った。
右手で自分の髪の毛を軽く触るが、そこまで乾燥しているわけではない。
それどころか、普通に濡れているといっていい。

しかも目の前にはジャンがシャワーの個室の扉から飛び出てきた時と同じ状態で、硬直をしているジン。


「・・・・。」
「・・・。」
「・・・・・。」
「・・?」


目がまん丸であった。
ジャンもその予想外の反応に、少し戸惑いを隠せない。

な〜んだ?この反応?

そのまん丸の瞳はかわいいという他ない。
元から童顔な顔を尚も、童顔へと見せ多分男女問わずこの表情のジン・ソナーズに出会った人間がいれば抱きしめたくなるくらいにかわいいものであった。

「・・・せんせ?」

その反応に、一応声をかける。
自分は水しぶきを思いのほか『大量』にかけてしまったことを申し訳ないと思い、素直に謝っているのだ。
その掛かった本人が、先ほどまでの自分が想像していた相手だなんて一っ欠片も思っていなかったので、その本人を目の前にして驚くとしたらこちらも同じである。
だが彼はそれを無視するかのようなそぶりを見せる。
それどころか、視線がジャンの顔から段々と床へと下がって行き、俯いたまま床に穴が開くのではないかと思うくらいに俯いてしまう。
自分も視線を彼が見た方向へと同じようにやると、答えは・・、
ああ、・・・・これねと、頷けた。

やっと自分がまっ裸である事に注目が向いていることに気が付くと、ジャンは個室の扉にかけていたバスタオルを手に取り腰に巻きつける。


「・・・すんません、ほんと見苦しいものみせて・・。」


へらっと笑うジャン。
タオルを巻きつけたのを確認したのか俯いていた視線も進行先へと戻し、自分が出てきたシャワーの個室へと入っていこうとするジン。

なんだよ、返事もなしか?

とはいえ、・・・スポーツなんか嫌いそうな人間に見えるが、なんでジムのシャワー室にいるんだ??
丁度、自分の目の前を通りこしていこうとしたとき、ジャンは思わずジンの腕を掴む。
細い手首。
その手首は、もう少し力を入れれば折れそうなくらいに細かった。
さっきも思ってた通りに、まだ2日間の休日は始まったばかりで時間は山ほどある。


「・・・・・・?」
「スポーツすんのに、その格好っすか?」
「・・・。」


その言葉と、掴まれている腕によって足を止めるジン。
ジャンはおとなしく立ち止まっているジンの姿を少し眺める。
ジンは、何時も来ている支給品の白いシャツに黒い制服ズボンと言うありきたりのどこにでもある仕事着ルックである。
ジムに来る際にトレーニングウエアを忘れたとは言え、その格好でトレーニングはないだろうし。

仕事の途中できたとか?
ジムで急病人が出たとか?
最初に思ったとおりに、その格好でスポーツはないだろう。


「なんか、運動とか苦手そうな感じに見えたんですが、・・・。」
「・・・運動は嫌いじゃない。」


自分でも意地が悪い言い方だな?と思いながらも、口に出す。
しないだけだ、と素っ気の無い答えが小声で帰ってくるが、それにもかまわない。
ようやく、口を開いたジンにジャンは思わず微笑んで、質問を重ねる。


「んじゃなんで先生、ここにいんの?」
「別に良いだろ・・。」
「?」


必要以上に喋らないようにしているのか、ジンはそっぽを向いてしまう。
その様子に引っかかるジャン。
ジャンは、そっぽを向いたジンの視界に入るようにと意地になるが、ジンもそれを知ってか同じように視界にジャンが入らないようにと腕を掴まれたまま動く。

・・・なんなんだよ?
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央