はちみつ色の狼
シャワーは思いのほか、すいていた。
ジム施設のすぐ横にあるシャワー室は、寮の物よりも数段水圧がすごく威力があり髪の毛の間なのか頭皮と言えばいいのかそのすごい水圧で吹っ飛ばしてくれておかげで寮の水道代が浮く。
折角巻いたバンデージを外して、手の中に丸める。
先ほどシドの目の前で脱ぎ損ねたシャツをすばやく脱いでタオルの掛かっているほうとは別の肩にかける。
シャワー室は、電気が付いているにも関わらず何気に薄暗かった。
隣のジム部屋は窓があるのに対して、この部屋には窓が少ないからだろう。
まあ、でかい窓にしてもそこから見えて嬉しいものは何もないであろうが。
タイルは、少し湿気を帯びて滑りやすくなっているようにも感じる。
湯気が十数個ある個々のシャワー室から上がり、あたり一面を鬱蒼とした雰囲気にしているようにも感じられた。
あの休憩で、余裕で2ラウンド目突入できたのになぁ・・。
まあ、そんなことを考えても後の祭りだけどな。
空いているシャワーの個室を探し、ジャンはゆっくりと歩いていた。普段であれば、普通に裸の大男がそこら辺を歩いているこの場所を今日はそんなに人が歩いてはいない。
男女分けられたシャワー室は、ジム部屋のロッカーから入れるようになっておりそのシャワー扉の近くには、小さなサウナが設置されている。
ジャンはサウナの目の前を通り過ぎていく。
運良く空いていた個室に入り込むと肩に引っ掛けていたシャツと、タオルを扉に引っ掛けて少し狭い場所でズボンを脱ぎに掛かる。
思ったとおり、スェットも、中のパンツもぐしょぐしょに濡れて気持ちが悪い状態になっていたが、それを脱ぐと意外と爽快感に包まれる。
ゆっくりとシャワーを回すと同様にゆっくりと出てくる水。
最初は、水で、次はお湯。
ここのシャワーは、融通が利かない。
その水からお湯への待ち時間にジャンは、以前怪我をした肘の傷を確かめるがその部分はもう包帯なんかを必要としないくらいに治っている。
そしてその部分の痛みもいつの間にか治まっていた。
腕を上下へと曲げ伸ばしするジャン。
それでも傷は破れることもなく、皮で引っ付きもう医師を必要とは思えなかった。
自らお湯へと変わったことを、足の指先で確認しつつジャンは自分の体をお湯の下へと移動させる。
拝借とばかりに濡れた手のまま扉の上に置かれた誰のものかは解らないが誰かが備え付けた何個かあるうちのシャンプーを一つ手に取り蓋を開けると匂いを嗅ぐ。
そこまで甘い女性用のような匂いがしないことを自分の鼻で確認した後、ジャンは勢い良くシャンプーを頭に付けるとごしごしと力強く洗っていく。
頭の先から足の先まで・・・、シャワーを流しっぱなしにそのまま洗っていくのがジャン流で、頭のシャンプーで体を擦るのは小さい頃に父親に教わった必殺技であった。
「・・・ふへぇ・・・。」
思わず、漏れ出す吐息。
裸の体すべてについていた大量の泡が、お湯に押し流されて頭から足元へとゆっくりと流れていく感触がまた面白くて、きもちいい。
自然と閉じられる瞳。
泡が取り去られた額そして、まつげを伝って落ちる水滴。
暖かい湯がジャンの体を包み込み、熱い湯気が天井へと立ち上っていく。
手を青いタイル状の壁に着き、そのままシャワーを俯き浴び続ける。
先ほどまで伝っていた汗が洗い流されて今は新品気分でジャンは、上機嫌になっていた。
腕部分から滴り落ちる雫が、作られた筋肉へと伝い、床へと流れ落ちていく。
朝の眠気もいつの間にか吹き飛び、気持ちを爽快してくれる。
勢い良く打ち付けるシャワーの水流はいいマッサージのような効果もあるのだろうか?
ほんと、気持ちよすぎる!!!
その優しいぬくもりの余韻から抜け出すように、瞳を開けるジャン。
まつげに垂れ下がった小さな水滴が瞳に写る。
そのまま、下を見ると割れた腹筋。
そういえば、この何ヶ月かは忙しすぎてビール腹と言われるような余分な肉は消えてなくなっていた。
それどころか、なんだかいらない場所の筋肉や脂肪が消えてまあまあ引き締まった体になったようにも思える。
あんまり、筋肉隆々でも気持ち悪いだけだしな。こんなもんがいいかも。
ジャンは、俯いたままで先ほどまでタイルの壁に付いていた右手で自分の左の腕の手首から肩までゆっくりとさわる。
「左も、筋肉つけないと・・・な・・。」
自分で触った左腕はまぁまぁの筋肉が付いているものの、右腕には負けている。
右利きのジャンが銃を撃つので右手に筋肉が付くのは当たり前ではあるが、やはりその分反対の筋肉も付けなえればバランスの取れた射撃は難しい。
反動を抑え切れなければ、銃の威力を損なうどころかうまく当たりもしなくなる。
だが、簡単にいえば利き腕に筋肉が付くのは世の定め。
逆の方向へと筋肉をつけるのは、一苦労。
そして、ゆっくりと視線を下ろすと割れた腹筋の丁度真下に、最近使われていない息子。
泡で一緒に洗われて汗も汚れも消え去ってさっぱりと爽快に見える彼だが、何を思っているだろう。
使わない自分をふがいないと思ってるのだろうか?
手を伸ばして、触るがなんの変哲もない。
ジャンは、上に上げたり下に下ろしたり。
「おい・・・、お前も何とかしろよ。」
もっと、魅惑的な感じになるとか?
どんなんが、魅惑的なんだ・・・、まず。
黒色系のやつは、白色の俺達よりもでかくて長いと言う噂も聞いた事がある。
だが、そういうのを求めているわけではない。
それに、どうも自分にそんなものが付いているのが想像つかないし、気持ち悪い。
「はぁ・・・・、」
ジャンは、その部分から手を離すともう一度頭をシャワーをかぶる。
天井を見るように上を向くと勢いのある湯が、顔を叩く。
そういえば最後にセックスしてから二週間・・、いや、もう3週間にもなる。
ぼんやりと考えるジャン。
彼女のあの柔らかい肌の感触は今も手のひらに染み付いている。
吸い付くような肌の感触は、男のごつごつとしたものとは、全くの別ものでいつまでも触っていたいと言う感情にさせる。
付きあっていた彼女を虐げて扱ったことなど、ただの一度もなかったしどちらかと言えば優しく丁寧に扱っていた。
そういえば、前の彼女なんか普通に綺麗で可愛かった。
料理も得意で、ボインでもあった。
今日みたいな休みの日なんて、彼女の部屋でのんびりと過ごす事が日課であり、
手を伸ばしたその先にはいつでも少し陽に焼けたボインがあり、柔らかく少し薄く色づいたその場所をジャンの太い指が掠めるとか細い声が聞こえる。
それは普段の彼女の声とは比べ物にならない程、セクシーで股関を直接刺激する。
節くれだった、なんの愛嬌も糞もないジャンの指がまるでバイオリンか何かの弦を弾く弓のように奏で響く。
真っ白なシーツの上で揺れるたおやかな胸に、潤んだ瞳、長い金髪・・。
想像しただけでも、そそるシュチュエーション。
ボイン好きのジャンにはすばらしく出来た彼女であった。
と言っても上手く行かない事も色々とある。
デートをしようにも、それを見越したように夜勤が入り会えなくなるの繰り返し。