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はちみつ色の狼

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真っ直ぐに自分のロッカーへと向かい、開けられたロッカーの中から大きなタオルを取り出すと自分の頭の上へと乗せ、そこら辺にある誰も使っていないであろう丸椅子を持って来る。

「よいっしょ・・・・。」

思わず出た言葉がおっちゃんだな?と思いながらも、トレーニング中の人間が見える位置で座る。

あいつは、良い動きをしてるな・・・。
あのへっぴり腰は、どこを鍛えてんだ?
すっげぇ、空振りしてるぞ。

ジャンはそのまま顎に手をやり崩れた体勢を作る。
だが、ぼけっとしながらも確認を怠らない。
別に、それをみてどうしようというわけでもない、自分には自分のトレーニング方法もあるし、変な鍛え方をしている奴にとやかく言う義務も今は休み中なのでないだろう。
ただ、見ているのはたのしいし、それをすることで疲れた体を休めることも出来る。

すばやいヒットで、スピード感溢れながらも重量感のあるパンチ。

良い感じでトレーニングをしているやつを見たら、それを真似るのも楽しいかもしれない。
ジャンは、少尉にしては柔らかく頭の持ち主のようで、他の少尉達がめんどくさがるような後輩指導も面倒臭がらない人物なので、話しかけられても気さくに答える。
そして、後輩でもそいつが良い動きをしていたらご教授願おうと言うような精神を持っている。


「シルバーマン少尉!!」
「はい?」


真剣な観賞の途中に急に呼ばれて誰だ?と不審げな顔で横を向くと、そこには情報部のアキラ・カリーノが八重歯を見せて立っていた。
一瞬、動きを止めたジャンであったが、


「うっわ、お前久しぶり!!アキラ!!!!」


思わず、椅子から立ち上がりそのまま小さな身長の後輩の頭をごしごしと撫で回す。
久しぶりに見たアキラは、以前にも増して元気そうな笑顔を浮かべていた。
やめてくださいよっと言いながら、ジャンの腕を振り払う。
無理やり逃げ出したアキラの頭はジャンの撫で回しのせいで、ぐちゃぐちゃに乱れてはいた。
ルイスと同じようにクルクルと巻いた茶色の髪の毛が揺れている。


「最近、実家に帰ってたのしってるでしょ?」
「知ってた知ってた、お見合いだっけ・・・?」


お見合いなどではないことは百も承知である。
情報部である彼が、ただの一回だけ演習で世話になったジャンを慕って彼の元に、実家に帰る為に休みを取るという事を報告しに来てくれた事もあり、頭の片隅で心配をしていた。
彼の父親が、事故にあってその手伝いの為に一時休職して、実家に帰っていたのである。
最後に、会ったときはその前日で悲しそうな顔が目に付いたが、今はそんな事は嘘のようである。


「ええ!違いますって!!!!・・・・前にも言ったのに・・、」
「ははは、」
「・・・ったく、先輩、全然きいてねぇ!!!」

肩口を殴るアキラ。
ジャンは、それを怒る様子もなく。少し微笑んで、質問で返す。

「じゃあ、・・・・お前の父さん元気になったんだよな。」
「おかげさまで!」

「・・・報告だけですみません。」
「いいよ、また飲みにいったら話聞かせてくれよ?」
「もちろんですよ!」

んじゃ、俺トレーニング終わったんで、お先にですとアキラはジャンに会釈をすると荷物を片手に纏めて、扉へと向かって歩いていく。
そして、扉を開けるかあけないかのところで、また振り返りジャンに深々と会釈をして手を振りそのまま小走りに走っていった。

おもろい奴だよな・・・、アキラ。

その小動物のようなすばやい動きに苦笑をしながら立ち上がる。
彼も今まで自分が休職していた分を取り返したいんだろうな?と感じて、別段その行動には疑問も何も浮かべなかった。

そして、立ち上がりがてらにその濡れて冷たくなったシャツを脱ごうと腕を抜こうとした瞬間に、
先ほどアキラが立っていたよりも近い位置からか細い声が聞こえた。


「・・・・やっぱり少尉は、人気ありますよね。」


びっくりしてそのままの体勢で後ろを振り返るといつの間に来たのか、真横にシドが立っていた。


「それに、いい筋肉ですよ・・・。」


ぶわっと捲し上げたままのシャツの下の素肌に触る指先の感触。
脇の下のあばら骨の筋をその骨の通りに辿って行くその指。
思わず鳥肌でも立ちそうな触り方に、ジャンは思わず脱ぎかけていたシャツを下へと下ろす。

へ・・・?なんだ、今の?


「どうしたら、そこまで筋肉をつけることができるんですか?」
「・・・毎日の筋トレ、と食べ物。」


触ったときとは違う感じで、ジャンの隣のロッカーをリズミカルに叩く指先。
気のせいか・・・?

先ほどの触り方はただの勘違い。
目の前にいるシドは、笑顔でジャンが先ほど座っていた椅子のを自分の方へと引き寄せて座った。
ジャンは、その様子を見ながら声をかける。


「お前も結構いい動きしていたよ。」
「ありがとうございます!」


実は、そんなに見てはないんだけど。


「そういえば、・・・」
「なんですか?」
「リードとは、友達なのか?演習の時にちらっと見かけてさ。」


ごしごしと汗だくの頭をタオルで拭きながら、シドに視線をやる。
シドは、この話題があんまり気に入らないのか少しむっとした表情を浮かべていた。


「あいつは、ただの知り合い。俺が中央で居た頃に何度かあった事があったかな。」
「中央・・・ねぇ。」
「なんです?少尉はリードが気になるんですか?」

「・・・・・そんなことないよ。」


ジャンは、少尉の割りに話しやすいので有名であるが、シドは少し度が過ぎているように思えた。
ジャンの座っていた椅子に座るのは、誰も座っていないのだから勝手だがなんだか敬語不十分のジャンからしてもいけていない。
シドの身長は、ジャンよりも約5センチは低いだろうが、だが態度の横柄さはこの軍隊にはあんまりいないタイプの人間である。
もう少し、上司にもまれたほうがいいんじゃないだろうか?と少し心配をしてしまう。
シドのじとっとした瞳が上半身を眺める。


「あ、・・・俺、シャワー。」


ばっと、そのまま立ち上がって話すジャン。


「・・・じゃあ、俺も行きますよ!」


と、シドも自分のロッカーへと走りタオルでも持ってついて来ようとするので、ジャンは慌てて言う。


「お前、トレーニングしたらもっと良い筋肉になるよ?・・・俺、一人で行けるし、ね。」


そりゃそうだ、子供じゃあるまいしと自分で言ってから気が付き、二人で行きたくねぇよ!!と突っ込みを入れる。
だが、まだ個室のシャワーまで付いてきそうな勢いがあるシド。
急いで靴を脱いでロッカーへとしまい立ち上がると、シャワーへと指をさす。
「じゃあ」と笑顔で言うと、シドの視線がまた目に入る。

どこを、見てんだ・・・?

シドの返事もないまま疑問とその視線に、耐えられなくなってしまったジャンは、シドの横をすり抜けるようにシャワーへと向かうことにした。















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作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央