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はちみつ色の狼

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16 Days off.-1-






朝の気だるい雰囲気の中、ジャンは食堂にいた。
寮の食堂と言えば聞こえはいいが、簡単に言えば只の台所である。


「眠い・・。」


朝から隣の部屋の住人が今日からの演習でも忘れていたのか、ばたばたと激しく暴れまくり用意をし、最後の最後のドスンとドアに何かをぶちあてるような衝撃的な音で目が覚めた。
昨日は寝るのが遅かったので休みの日くらいは昼間まで寝たいなぁと、ぼけっと考えながら、口の中にトーストを突っ込むジャン。
もしゃもしゃと口を動かし、喉の奥へと進めていくがトーストによって水分を奪われたのか、それ以上進んでいくことは無い。
珈琲を一口飲んで、大きく吐息をつく。

目の前の机の上には、焼いたパンが2枚とオレンジが一つ。ついでに、インスタント珈琲が、一杯。

寝ぼけた顔を何度かぱんぱんと叩くが、眠気は何処かに行く気配はない。

食堂の中は、静かなものである。
やはり、日曜の朝の早朝(休みにしては早朝、普通の人間なら遅い朝。)と言うこともあるのかこの場所に来る人間はまばらで、休みの人間は殆ど実家に帰宅したり飲みに行ったまま帰って来なかったりがここでは普通で、こんな風に休みにこんなとこで居るある意味不健康な人間はジャンくらいであった。
一週間前の演習中のテントの火事で大目玉をくらったジャンと、ジンは上司であるエレノア直々に、詰問され反省文を夜中まで書かされることになる。
ただ、演習中の事故?あるいは、銃撃については、証拠もない今、不十分として口外も許されないと言う不測の事態で、ジャンはなんだか腑に落ちないことがいっぱいあった。
自分で言ったとおりに、長い話をした結果、こんなことになるとは・・・。

笑いも出ない。

なんだって俺が長文の反省文で、先生は美人エレノア大佐と話してんだ?それもあんな何時間も。
最初の数日は、反省文と考えすぎの為に寝不足なのかぐるぐると回る頭。

しかしそのうちに日々の生活は戻っていた。

まあ、言っても色々と在ったのはジャン・シルバーマンとジン・ソナーズのどちらかの暗殺未遂事故くらいで。
無関係なほとんど同僚達はテントが燃えた事実なんかはすっかり頭の中から抜け落ちているかのように平穏な生活が繰り返されていた。
ただジャンもその内の一人になっているのは言うまでもない。
その場でははっきり言って疑問が渦巻き、二、三日は頭の中に?を浮かべてはいたが、その内考えるのも面倒くさくなったのと、考えてもなるようにならないとしか思えなくなってきたのも一つの要因であった。
ジンはと言うと人づて聞いた話に寄ると、未だ後任の医師が決まらずここで新たに医師が来るまでの間の代役としている事が決定した。



「眠たい!!!!!くそっ」


トーストを勢い良く口から引きちぎってそのまま机に載せると、どごんと大きな音を立ててジャンは机に突っ伏した。


「ジャン・・・荒れてるね・・。」


頭の上から降ってきたのは、知った声。
声のする方向へと突っ伏した状態で視線を遣ると、手をひらひらとジャンに向けて振っているルイスの笑顔が見えた。
ルイスは、休みの日にしてはかっちりとした所謂よそ行きの服に身を包み、赤いくせのついた髪の毛にはムースかワックスをつけている。
しっかりと決まっていて、さすがルイスと言う感じ。
何は、さておき・・・。


「ルイス、俺は荒れてんのよぉ・・・。」
「しってるしってる。」


見りゃわかるよ、残念ながらと続けるとルイスは、ジャンの横の椅子を引きゆっくりと座る。
ジャンは、泣きまねをしてルイスに見せるが、ルイスはそんなジャンの頭をごりごりと撫でる。


「そういうのって正直、うっとおしいよ。」


ルイスは、そういいながらジャンの珈琲を一口飲んで机に置く。


「・・・・つめたいわぁ、ルイスちゃん。」
「気持ち悪いよ、ジャン。」
「・・・ごめん。」


ルイスの凍りついたような冷たい笑顔に、ジャンは素直に謝る。
ルイスは身長が低い性か、小さい自分から男に甘えられることが多く、この軍隊に入ってからというものその率が並外れて多い。
それを嫌ってか、その真似をするだけでも気に入らないのかジャンがそれを真似るたびに、冷たく言い放つ。
そのまま冷えかけた二枚のトーストを指の先で突っついた後で、「今から、これ?」とボクシングのポーズをしてジャンに二三発パンチを寄越すルイス。
それを受けとめて冗談気味にルイスにアッパーを決めるジャン。


「休みだしな、俺どこもいくとこないしね。」


実家は汽車を使って4時間は掛かるし、この時期は旅行者で溢れかえっていてそんなところには近づく気すらうせている。
口の中に入ったトーストの切れ端を噛みながら、小さく返事をする。
ルイスはどうするんだ?と尋ねては見たが、服装を見ると、デートと言うのが目に見えてわかった。
顔もなんだかウキウキしているようにも見える、羨ましい限りだな。


「見ての通りだけど・・、ジャン今夜飲みに行かない?」
「ああ、いいよ、一緒に行く?」
「用事。」
「んじゃ、先いってるわ、」




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昨日までの雨が嘘のように、今日は晴れている。


曇りはいいが晴れは何かと痛い。

まず太陽が照りつけ肌がじりじりと痛いし、渇いた風が砂を巻き上げて砂嵐のように頭から殴り付けるのも痛い。
昨日から痛い三昧だな。ジャンは寮からここまでの数メートルと言う短い間に頭の着いた砂を払いのけ、ジムのある建物へと入っていく。
隣は丁度、医務室のある建物で急な怪我にも対処してくれる場所でもある。
が、ジムで怪我をする人間はよっぽどである、とジャンはこっそりと思っている。
体を動かしてなんぼの軍隊で何をしでかしとんじゃ?と皮肉混じりに言いたくなるが、体力ではなく、制御力に長けていたり、頭がいい人間にはそれが必要が無い事実もある。
だから大きい声では言えないし、体力の無い人間がつける為に来たと思えば言うほど気にもならない。
ジムは二重扉になっており、中扉を開けると其処にはすでに大勢の人間がトレーニングに励んでいるのが見えた。
長方形の形を取る明るい感じの室内はルームランナーに筋肉トレーニングマシン中央部には仮設のリングがあり、レスリングやボクシングなどの格闘技が好きな時に出来るようになっていた。
端の方にはサンドバッグにパンチングマシンなども設置され居心地の悪さは差程ない。
知り合いの奴に挨拶がてらちょっかいを出しつつ、目的の場所であるロッカーの前へと到着した。


「シルバーマン少尉。」

「はい?」


聞き覚えのない声。
ゆっくりと顔を上げるとそこには、リードの知り合いだという男であった。
一瞬わからなかったが、じっくりと見ているとそういえばと気が付く。
演習の朝に一度だけ見た男だったが、本人はジャンのことを知っているようであった。


「・・・ええっと、」


・・・確か、名前は聞いてはいない。
遠くから見ただけで知り合いでもない。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央