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はちみつ色の狼

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3 Start time!




数時間後書類を纏めあげそれを執務室に提出したジャンを待ち受けていたのは、砂漠からの強い風であった。

昨日を思うと、湿気のある空気も梅雨のようにうっとおしい雲もどこかへと流されたのか、今日は一転青空が広がり、雲ひとつ見えない。
暗い場所から突然明るい場所に出て、目がしばしばするのを感じながらもその日差しの気持ちよさにうっとりとさせ、
今まで部屋の中にいたのが損をした気分にさせるのは言うまでもない。
軍隊のユニフォームで行くのも少尉と言う立場上良かったのかもしれないが、ルイスの言う砂漠地帯の宝探しと聞いた直後思わず自分の自室で
お気に入りの黒のTシャツに着替えて来てしまった。

ジャンの普段働く西部地区軍基地のある場所は、トロージャ地区と別名で呼ばれ古くからトロージャと言う名の砂漠のすぐ近くに位置していた。
トロージャと言うのは、トロールという御伽噺に出てくる怪物の名前から来たと言われ、その謂れの通り砂嵐でも来ようものなら、皆が皆トロールのように灰色のモンスターのような姿になってしまうからだ。
今日もその謂れを実践するかのように建物の外に一歩出ただけで、もうすでに髪の毛の先から靴の先まで砂をかぶっているのか、
まだ一度も使っていないのに首に巻かれたタオルもなんだか砂っぽい。
頭を犬のように振るって体についているであろう砂粒を落とそうとするが、すぐさま無理と感じる。
それだけこの地域の風が凄まじく次から次へと砂粒が飛んでくるからだ。

書類整理中にルイスが言っていた集合場所に手をポケットに突っ込んで歩いていく。
時々、同じ部の男達が通り過ぎ軽く挨拶を交わしながら、笑顔を浮かべてその辺にいるはずのルイスの姿を探す。
彼は、すぐ先の後門の傍で何やら作戦を練っていた。
地面に座り込んだかっちりとしたユニフォーム姿の男達と、ルイス。
男達のユニフォームはまだ新しく所謂仕官学校に入りたての二等兵のような感じでまだまだういういしさが顔に残っている。
真面目な顔つきで真剣にルイスの話を聞く隊員達に、なぜか懐かしさを感じる。
こんな時代がみんなあったんだよとうんうん頷きながら近づいていく。
ルイスを囲むように10名ほどの部下が集まり、その手には資料のようなモノがある。
少尉になると自分の部隊の仕事の他にもたまに新人の研修という仕事も入ってくる。
この任務もその一環で、籤運の悪いルイスが先週の執務会議で引き当てた。
こちらには誰も気が付かないのでジャンはそのうちの一人の部下の後ろからその資料を覗き込み、見せてと一言ぼそりと呟くと
男のほうは少し不審げな顔と同時にびっくりしながらもおずおずと差し出してきた。
その一枚の紙に書かれているのは、トロージャ砂漠の中心に位置する連絡中継施設であった。


「お宝探しって・・・もしかして・・」


その声で、やっとジャンに気がついたのかルイスはひらひらと手を振る。
その地図を見て閃く事といえば、毎年この時期恒例のあれ。
これは、着替えをしてきて正解だったのかもしれない。
ルイスは、自分の腕時計を見えると新人達に敬礼をし、その敬礼した手をそのままにジャンに向き直す。
その様子を見ていた新人隊員たちは、ルイスに習ってジャンにまで敬礼をする。


「こちら、ジャン・シルバーマン少尉だ。くれぐれも、粗相のないように。」
「はい!!!」

「今日の任務は、」
「・・・所謂、雑用?砂嵐で埋まったソナーとレーダーを探し出して動かす任務。」
「やっぱり・・・。」

この時期、月に2度は吹く南からの暖かい風にのって来る強烈な乾いた風がもたらす砂嵐で、砂漠に設置してある、レーダーなどが故障することは多々あり、
その修理と言うか砂を払う役を仰せ使うのはこの場所に位置する軍基地に配属された軍人の定めなのであった。
その施設のソナーや、レーダー他にもパラボラアンテナが設置されており、それを通して電話、テレビ、軍関係の機密などの情報提供、傍受ができるのだ。
まあ、連絡中継施設とは名ばかりで、実際には軍だけが所有する場所ではなく、この地域に住むものの大事なライフラインともいえた。
本当は、軍配属の士官学校上がりの一年生の仕事になるのであるが保護者と言うか責任者として指名されたのが、今回月回りで新人担当をする当番であるルイスの役目であった。
面倒くさい仕事が回ってくる物だよっと昨日までは人事のように思っていたが、自分がその輪の中心に立ってしまうとそれはとても、思っていたよりもずっと面倒くさいことになってしまう。

未だにその新人連中の輪の中心でスコップを肩に担ぎ、海賊のようにタオルを頭に巻いた同僚を見て思わず噴き出す。
海賊巻きのタオルから少しはみ出したルイス特有の赤毛のカールが、顔の中心へと集まり本人にうっとおしさを齎しているようである。
ルイスもまた黒のかっちりしたユニフォームではなくピンクのかわいいTシャツを着用している。
似合っているっちゃあ、似合っているが。また、その格好で真面目な顔をしているのがまた笑いを誘う。


「しっかし、お前・・・それはないべ。」


ルイスがジャンの頭にスコップを振り下ろす真似をするが、それをごめんごめんと軽くあしらいながらも、危ない危ないとその攻撃が届かない場所まで一旦遠ざかるジャン。
気心のしれた仕官学校時代からの友人同士で、この部署での副官と上官という間がらである。
いつも身なりをきちんとして、兵舎の中でも一二を争う美形であるルイスが、一歩こういった外での雑用に追われることでこのような馬鹿な格好になるのを見ていつも笑いがとまらない。
ルイス曰く、仕事中の着る物に気を使っても一文の得にもならないと言うことだ。実は、隠れファンが多くたまに盗み撮りをするファンの写真にいちゃもんをつけるが、本人公認なのか、
変な写真が出回ること以外は気にしている様子はないが、何かの手違いでこの土方のような格好の写真が出回ってしまえば本人は激しく気を揉むに違いない。
その二人の様子をみて緊張が解れたのか、隊員たちは少しだけ和んだ笑顔と無口だった隊員は少しだけ喋りだした。

「みんな静かに、今日一日という短い間の隊かもしれないが心して任務に取り掛かるように。いいね?」

大きな声で、みな同時にはいっと言い、それに続いてルイスは小声でジャンに呟く。

「はい。・・・んじゃ、車を前に出してくるよ。」
「ああ、わかった。」
「俺がいない間に、隊員のみんなに忘れもの無いかトイレないかとか聞いて隊長さん。」
「隊長って・・・。わかってんじゃないのか、・・そんくらいは・・。」

ルイスが小声で呟くジャンを尻目に、足早にその場を後にしジャンは子供じゃないんだからと思いつつも、
その場を見回すとその場でルイスの呟く言葉を聞いていた隊員たちが、
忘れ物が無いか確認したりトイレへと小走りに行く姿を見て少し微笑んでしまう。
こうしてみると、新人のこいつらはただの幼稚園児でルイスはまるで先生のようだな。
ジャンは、胸ポケットから取り出したタバコに火をつけ、口にくわえるとその辺の壁にもたれ掛かる。
ルイスが車を取りに言ったのは兵舎の裏手にある駐車場でその場所へはだいたい走っても10分はかかり、
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央