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はちみつ色の狼

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少しいらついたような表情でジャンを見るジンだが、この際しょうがない。
ジャンは、内側からやっとで出てきたジンの細い手首をすばやく掴むと、力任せに思いっきり自分の方向へと引っ張り上げる。
梯子を掴んでいた手はすぐさま離され、うっと小さなうめき声が聞こえたものの細く軽いジンの体がするりと扉を通りぬけて、外へと勢い良く飛び出して引っ張っていたジャンへと追突をし、二人は屋根の上に転がる。

そんな死なくて良かったという余韻に浸るまでも無く、その直後ジャンの瞳の端には一筋の銃弾が扉からすっと出てくるのが見えた。

間一髪・・、だな・・・。

ひどくなりつつある雨の中、二人は抱き合うような体制のままに一瞬自分達の置かれている状況を忘れそうになる。
ジャンの手の中には未だにジンの細い手首が握られている。
思いっきり引っ張った際に、痛めたのだろうか近くにある瞳は驚きと痛みのような表情が同時に見て取れた。
状況としては、美人に踏み敷かれた筋肉男のような感じである。

「・・・・・。」

が、そのまま鳴り響いている銃声に二人はすばやく身を起こすとそのまま天井部分にめり込まんとばかりに開かれた重い鉄の扉を閉めようとがんばるが、びくともしない。

体勢が悪いのだろうか。

扉の丁度真上から力を込めないと閉まら無さそうなその扉を、二人はまだ力の限りにひっぱり上げようとする。

が、次は雨で手が滑ってうまくいかない。

2発の銃声が響き、扉の鉄部分へと当たり大きな音をさせている。
滴る雨粒も額から瞳へと、作業の邪魔をする。

くそっ

一発目はすぐ傍の非常用ランプのカバーに当たりその破片を下へと落とし、もう一発は何か鉄製のものに当たったのか激しい金属音を鳴らしていた。
そして、もう2、3回ほどチュンと響く独特な音を背後に聞きながら二人は、扉を持ち上げることに成功する二人。
ぎぎっと、古い鉄を擦り合わせたような音と共に、引き起こされる扉、

「ちっ」


そして、最後に背後に聞いたのは小さな一つの舌打ち。

ジャンとジンは其の後、扉から手を離した。
扉を開けたときと同じように耳を劈くような鋭い、そして大きな音を立てて扉は閉められた。




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落ち着きが無いくらいに、ジャンはテント内をぐるぐると熊のように歩いている。
服装はさっきとなんら変わらない、濡れた姿のまま金色の髪の毛から雨の雫を思いっきり滴らせながら歩いている。
テントの床には、ジャンの濡れた服のせいでか、何周もの弧が描かれていた。
でかい男が医務用テントよりは少し大きいとは言え、こんなに小さなテントでうろうろとうろついていれば、なんだか居心地が悪いのであろう。
ジンはそこらへんにあった椅子に座り込んで、その大男を薄めで睨みつける。

あの直後、屋上から降りるのも一苦労であった。

一応、人気のない場所を選びながら行くと言う点で、わざわざ遠回りになる外を通ったりしている内に本気で頭の先からブーツの中、そしておまけにパンツの中もずぶ濡れになってしまった。
その後も、一番安全だと思われる部隊長用の本部テントへと走りこむ。
犯人は、地下トンネルから出るとしたら、あの地下からの梯子を上るか、壊れた倉庫にあった換気ダクトを通るか、未知の場所にあるであろう場所から出るしか道は無い。
犯人には、悪いが残念ながらここに来る頃には演習が終わりを迎え、先ほどのように大それたことは出来はしない。
おそらく、手は出しにくくなるであろう。だが、もしも相手が複数犯であれば・・・。

ジャンは、悪い予感を振り払うかのように、自分の顔を両手でパンと叩いた。

はぁ・・・、くそっなんなんだよ、まったく・・・。

口の中でぶつぶつと呟きながらも、足を止めることはない。
ブーツの中の雨水が、じゅくじゅくと気持ち悪い音を立てている。

今は、この場所には人気は全く無い。

それもそのはず、今はまだ演習時間中なのでもしもここで先ほどのような銃撃になろうが、誰一人として気が付かないであろう。
先ほど、ここに入る前に確認したのだがこの場所から見える筈の医務用黄色テントはいまやもう姿も形も見えなくなっている。
消毒剤の爆発で燃え尽きたのだろう。
しかも、この雨のおかげで先ほどの爆発が広がるということも無く、被害は小さく押さえらている。

テントに打ち付ける雨。
音は、先ほどよりも激しさを増している。


「・・・少し、乾かせ。風邪引くぞ。」


こんな時に、なんて冷静なんだ?

そんな疑問を感じつつ、視線をジンに移すが、彼の方も大分参っているようでその辺にあったパイプ椅子に座ったままで俯いている。
いつの間に探し当てたのか?ジンはタオルを頭の上から被っている。
ジャンはそんな疑問に少しだけ顔を傾げるが、それでも立ち回る事はやめない。

手には、愛用の黒光りしたグロッグ。
黒いマスクをした男は、比べ物にならないにはならないほどの代物を持っていた。

「アサルト・ライフル・・・」
「・・・・はぁ。」

口にして、考えをまとめようとする。
アサルトライフル正式名はM16、この軍でも使用はしているがジャンの知る限り今回の演習には、使用されていないのが実情である。
戦場では、それはもちろんかなりの確立で使用される小銃である。

うろうろとテントの扉付近を監視しながらもジャンの口は動いている。
それも、止まることをしらない。

「型は、89式で5.56mm。」

形が、どうこう言うわけでもないが、強力な銃ということに変わりない。
300m先までも撃てるいわば、スナイパー銃でもあり、短射も連射も出来る銃である。
先ほどは、短射で狙われていたが、あれが連射であればと考えると身震いがする。


「シルバーマン、・・・・、」


タオルの隙間から少しだけ見える筈の黒い瞳は、今は硬く閉じられているがその表情は少しうんざりしたというものにも見える。


「・・・はい。」
「それらを聞いて、俺にどうしろと?」
「・・い、いや別に・・・、」
「それを伝える相手は、エバ中佐やエレノア大佐にしろ・・・。まったく、」


まだ、話し続けているジンの言葉はもうジャンの耳には届かない。

黒い髪の毛から滴り落ちる雨水に、その水でしっとりと濡れ祖ぶった白いシャツが細く白い肌にぴたりと引っ付いていて、なんとも悩ましい。
今は、もうタオルでドライされてその姿は見る影も無い。

目の前の人物は、本当に”ただ”の暗殺か何かというように今も無表情に、頭をタオルでごしごしと拭いているし、
自分もそれをそれだと知られないようにテントの中を右往左往している。


「あの人物は、本気で殺そうとしてましたよ・・。」
「ああ、そのようだな。」


大佐と名前の付く人は、ああいう攻撃に慣れるんだろうか?

ふと生まれる疑問。
この人物といると本気で疑問だらけの人生になりそうだな。
ジャンは、そんな風に思いながらも、自分の考えからは逃げられない。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央