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はちみつ色の狼

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想像上だけでも、すべすべの素肌を持っていそうなこの人物に皮膚炎の毛など、毛頭見えない。
赤く腫れあがったあせもなど、在ってはならない。

そんなしょうもないことを考えながらも正直なところこの男は我慢の子だと感じ取って、ジャンはその衣擦れのする背後へと回ってその右手が触っているだろうと思われる場所へとジャンは回って手を回す。
ここらあたりだろうとあたりをつけて手を触れると、ジンはその感触に身をよじる。
背後からでは表情などは読めないが、手に触れた部分は布が裂けてぬるりとしているのが感触として手に残った。
思わず、顔を顰めてしまう。
軍人の自分が怪我ならまだしも、なんだってこの人が!
つうか、


「なんで!!怪我・・・してんのに、もっと早くに言わねぇんだよ!」
「・・・お前、敬語は?」


気にするのは、そこですか?
複雑な気持ちになるのは、置いといて。
ジャンは、手を其の場所から離すとジンの袖口を掴み少しだけ怒り口調で自分の方へと引き寄せる。
彼の表情は変わらないが、言いたいことは言う。


「そんなこと言ってる場合じゃないってわかってんでしょ?!」
「そんなことをしている内に行けるだろう、さっさと梯子を上れ・・・。」
「・・・。」


正直、強く言われると言い返せない。
其の通りである。

ジャンは、心配して損したとばかりに、忌引き返して赤ランプが一段と光る梯子へと手を伸ばす。
健康体で、運動馬鹿の自分からするとこんな上るのはおちゃこのさいさいと言うところであるが、20mは、かなりの距離である。
そして、心配して損しがてらに考えるとジン・ソナーズの肩口の傷は小さいかもしれないし、大きいかもしれない。
そんな人間がのぼり切れるかどうか・・・、だがジン・ソナーズは一応大佐という身分の持ち主体力は実は見た目以上にあるのかもしれない。
何より彼自身が医者なのだから自分の身くらいは自分で何とかする・・であろう、と思いたい。

だが、ここでは身分、役職関係無しに落ちたら痛いだけじゃすまないし、それ以上に死ぬ。

20mで済めばいいけれど、そのまま地下にどんと落ちて、そのあとに20m落下なんて笑えない。


こんなことなら、酒もタバコも控えておくべきだったなぁ。

最初の梯子に指を掛けたとき、手に伝わる自分の重みでそう感じずには居られなかった。
ただの演習が、こんな事になるなんて昨日の夜には夢にも見なかった。
演習だって、ただの雑用要因だから普通の職務の時よりも多めに飲んで、今日に備えたのだ。
体は酒でおもい、おもい。
思わず出そうになるため息を押し込めて、ジャンは重たい足も同じように最初の梯子の段へと引っ掛ける。
そして、こう呟いた。


「ゆっくり上っていくわけには行かないんで、まきで・・・」
「はいはい・・・。」
「今から赤ランプも消して行くんで、暗〜くなります。」
「・・・いちいち説明は要らないから、思うようにしろ。」


ジンは、ジャンの言葉は不要だとばかりに、ジャンの後ろ姿を眺めている。
付いていくしか道がないので、説明がいらないのはわかるが一応、説明をしておくに越したことはない。
ジャンは、一段、また一段と梯子の上へと手を伸ばして進んでいく。
下を向いて大丈夫か?などと声を掛ける余裕も無いので、時々スピードを緩めては、下から聞こえる手すりの擦れる音を気にして上っていく。
擦れる音があるということは、下に落ちてはいないということだ。


5段ほど上ったところで、最初のランプが目に入る。
視線の先の赤ランプは、規則正しく音も無く点滅している。
ランプの点滅する速度は、大体2秒に一度。
すべてのランプが同じ速度で点灯しているようである。
不思議なのは、この工場はいまや誰も使用していないと言うのに、なんだってこのランプだけは点灯しているのか?ということだ。
多分、答えは簡単で非常用というものだのだから普通の電力供給の場所では無い所から補助電力を供給しているのだろうが。
さてと、ジャンは自分の頭の中でそう呟いた。
そしてゆっくりと左腕を梯子へと用心深く絡ませながら、ランプへと手をやる。

ランプは、この位置からさほど遠い場所にはない。

注意深く自分の左横に来たランプのカバーを外す。
指には、さほど熱さは感じない。
こういうランプは、普通手に持ったら暑さを感じることがあると思うのだが、特殊な素材なのかただ単にジャンの手の皮膚が分厚いからなのか
別段苦労もすることなく、そのまま中にある球をくるりと回してライトを消すことができた。
そのままカバーを持っていくのも、球とカバーを下に落とすにも激しい音がなるからライトも捻り切っただけで元の位置に戻す事にした。

普段の筋力トレーニングでも、自分の体重を支えるのは難しいのにこんな極限状況でなんてもっと厳しい。
自分の体重を二本の腕だけが支える。

ふたりは、もくもくと上っては先ほど同様にランプを消してはのぼり、消しては登るの連続である。
トンネルの内部にくぐもっていた煙もいつの間にか何処かへと抜けて、今は随分と息苦しさもない。
ただ、少しだけゴムの焼ける匂いが鼻を突くが、あとは言うほどもない。


「・・・はぁ・・。」


手も大分、だるくなってきた。

梯子も上部へと差し掛かり、ジャンはため息混じりに手を上へと上へと伸ばしていく。
だが、ジャンははたと動きを止める。
あと、4段も鉄の棒を上れば次の赤ランプに到着するであろうところであるが、ジャンは動きを止めるしかなかった。

どこかで鳴り響く小さな音が耳を突く。

ガラスのような砂粒のような、じゃりじゃりと言う小さな音。
地面を擦り合わせるようなその音は、こちらへとどんどんとちかづいているのは気のせいだろうか?
あと、4mもしないうちに天井部分で、其の部分から外へと脱げだしこの状況を終わらせてあとは冷たいビールで一杯と行きたいのに。

それがかなわない・・・。

ここから20mも下のトンネル部分からエコーのように響く人間の足音。
下に続くジンもそれに気が付いているのか、ジャンと同じように息を潜めて梯子にしがみついていることだろう。

静かに上を見上げる。

あと2回ほどの点滅ランプを越えればすぐそこに、地上の世界が待っているのというのに、二人はそこから進むことができない。
音は、着実に近づいてきている。

そして、相手は100%の確立で銃を所持している。


「・・・・・。」


足音の持ち主は、ジャンとジンが上ってきた梯子の近くにある赤ランプの手すりの目の前で止まっているようである。
20mは相手から離れた上部にいるものの光があれば狙い撃ちされて死ぬか、手を滑らせて死ぬか。
二つに一つの選択である。



そう考えているうちに、赤く光る眼のような光がちらちらと地下部分を照らし出す。


その赤い点は、すばやくそして縦横無尽にうごめき地中深い穴の中へと姿を消す。
レーザー照準のついている銃を所持しているのだろうということだけが遠目でもわかる。
銃は、ロングサイズの照準付き、ただそこに暗視ゴーグルがあるかどうかでこちらの体制にも影響が出てくる。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央