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はちみつ色の狼

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視界にあるのは、手すりの赤いランプが数メートル感覚で大きな円形を描いている姿。
10m四方の大きな穴の淵の手すりに一箇所だけ間が開き、そこに例の梯子がぶら下がっている。
下には赤いランプもない、限りなく暗闇に近い。


・・・・・・・光もない。


・・・・助けも来る可能性もない。


時計を覗き込み、そのライトのボタンを押すジャン。
時計は、1時50分を指し示している。


・・・・・・演習が終わるまで、おおよそ3時間とちょっと。


・・・逃げるのが先か、死ぬのが先かってか?


左手で、淵にある手すりを持ち、その中心に視線を遣るがその視線の先にある暗闇はなんの変化を見せることはない。
そして、その視線をもう一度自分達が来たまだ少し炎の残骸が残るトンネルに向けるジャン。


スプラッターやホラーなら、もうそこまであいつらがやって来てるとこだな・・・。

ぶるりっと一つ身震いをする。
あいつらなんてものが居ないなんてことは鼻からわかってはいるが、銃撃の主は必ずその先にいる。
炎の鎮火を待っているかもしれないし、もうすでに燃え広がるテントと倉庫の残骸に侵入しているかもしれない。

静かに俯き、顎へと手をやる。

さっきの銃は確かに、軍で用意した銃でスナイパー使用の9mmであった。
ただ中の弾は本物で、ペイント弾では決してない。
テントに開いた焦げ跡にしても、机にめり込んだ銃創にしても、それを示していた。

だが、9mmなんてよく軍でだって、そこらのマフィアだってよく使用する銃で、そこから犯人を特定するにはその弾を取り出し弾についた指紋だとかいろんな事を照合する必要がある。
・・・ただ火の海だし見つからないだろうし、運が良くても溶けてるか。


「・・・っ・・、」


瞳を閉じて思わず頭をごしごしと掻き毟る。
今、こんなことを考えても逃げることに役立つとも思えないし、
別にそれでいい考えが出ないと解ってはいるのだが・・・。

だが、考えがまとまらない間にも、時間が経って行く。

相変わらず静かにただ立ちすくみ、その場から動かなくなったにもかかわらず、ジンからは何の疑問の言葉も生まれない。
こんな状況になれば真っ先に文句が出てきそうな人なのになぁと、不審に思いながらも考え続ける。

手元には、手すりと同じく真っ暗な深淵とリズミカルに付いたり消えたりを繰り返す危険を知らせるランプ。



「う〜〜ん。」


下や、上と忙しくくるくると回る頭。
そして、今静かにその動きがとまった。


はあと、大きなため息のようなジンの息遣いが背中から聞こえたとき、
ジャンは意を決したように、そのまま振り返るとジンに小さく呟いた。


「俺考えたんですけど、これ以上地下にもぐっても・・・、助けは来ないかと。」
「・・・そうかもな。」
「んで、あそこに・・・、」


ジャンが指差した方向には、暗闇の大穴の手すりから赤いランプが繋がる上への梯子。
以前は、気が付かなかったが、そこには確かに上へと伸びる細い梯子が、20mほどの天井にある四角い扉のような所へと繋がっていた。
ランプがあるということと、梯子が付いているということは、出口か入り口だがなんだろう。
そして、それは着実に地下ではなく空へと繋がっている。


「降りると思ったら、・・・上るのか?」
「逆に地上に上がって演習に混じろうかと・・。」
「・・・それは名案だな。」

棒読み。

なんだ、その言い方。

白々しさが溢れているような、あんまり気にしちゃ居ないような感じも取れる言い方。
ジャンは、思わずそれにカチンと来て、眉間に皺が寄るのを感じた。


「・・・・・、本当にそうおもってるんっすか?!」
「・・・・。」
「・・・・。」


助かりたいと思うのであれば、自分も答えを探したり真剣に話し合いに参加をするべきだと、思いそう強く言ってしまったジャンに、ジンは何も答えない。
ただ、聞こえるのは先ほどと同じように大きなため息と、何か布を擦り合わせるような音。


「あの、先生・・。」
「この場合、何もおもいつかないから、お前が答えを出せよ。」
「・・・死んだって、俺のせいだとか言う文句聞かないっすよ・・・。」


化けて出ない限りそれはないのはわかっちゃいるし、死ぬとしたら二人とも同時にお陀仏なのだから文句は聞くことはないだろうけど。

何かが音を立てる。

目が慣れて来たと言えど、だいたいのものぐらいしか見えない視界はこれ以上回復することはないし、
唯一の光と言っていい、時計のライトだってこのままつけていればもしかすると標的になる可能性だって出てくる。
光の先には、こちらへと背中を見せているジンがいた。
暗闇ではよくは見えないが、先ほどからずっと背中を抑えている様子。
がさがさという音の正体はジンが背中付近のシャツを触っている音が大きく感じられたからである。

その眉間の皺は、先ほどよりも深くなっているように感じる。
ためジャンは、溜息のような大きな息はジンが背中へと腕を伸ばし、がさがさという音が聞こえてくる度に出てくる気が付いた。


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かさかさと乾燥した音が、気になりだして数分。
放っておいていいものか?と言う言葉が、頭の中にもやもやと回りだしてから長くなったそのとき、
ジャンの口から思わず言葉になって出てしまう。


「あんた、大丈夫ですか・・・?」


不気味に静まり返ったトンネル内に、ジャンの声が小声にも関わらず響きわたる。
その響きに思わず自分自身でびびりながらもその音を立てている方向へと少しの勇気を振り絞って振り返って見るジャン。
赤い危険ランプの光を受けたジンの表情は、尋常でないほど歪んでもおらず、ただ無表情にこちらを眺めている。
ただ違うとすれば、その唇が硬く結ばれおり右手が後ろへと回されていることぐらいか。
思わず、首を捻る。

「?」

なんで、んな時に利き腕を後ろ手にして・・、この人の考えはわからんぞ。
ジャンは、無意識のうちにポケットの中にあるはずの家の鍵を触る。
早くこんな所を出て、家に帰るか酒場で一杯やりたい。
事件に巻き込まれたにしろ、なんにしろこんなとこで死ぬのはごめんだ。
あああ、くそっ!
考えはまとまらない。
そして、また真っ暗闇の中聞こえてくるがさごそと言う布ずれ音。
意を決したわけではないが、こんな時間の無い中こんな問答をしていてどうなると自分でも感じながらも聞かずには居られない。

気になることは、素直に聞け。


「・・んじゃ、聞きますが、そのがさがさは何ですか?」
「・・・・。」
「怪我とか・・?」
「平気だ。」


普通に呟かれる言葉。

それが示しているのは、どういう意味なのかいまいち掴めない。
表情が見えればたいてい通じるのだが、今はそんなことも出来ないのだから仕方はない。
でも、平気なんて言う人でもないので、これは尋常ではない。
平気と言うことは、怪我してて平気なのか?それとも、なんにも怪我してないのに、ただ単に背中が痒いから掻いてるとか?
後者では絶対にないだろう。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央