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はちみつ色の狼

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ジンも、言葉を途切れさせたジャンの視線の先を追うように、不審な顔をしながら自分も振り返る。
その直後、大きな爆音と共に、熱い熱風がダクトのトンネル上部を焼いていく。
大きな振動がトンネルを襲い、伏せてという言葉がお互いに通じたかどうかは別として二人は、思わずその場に伏せ、その爆風をやり過ごす。
ぎゅんと周囲の空気も爆風が燃やし尽くしたのか、耳の中の気圧が下がり痛みを感じる。

ただ暑い。

思わず口元を自分の袖口で押さえつける。

そして、息が・・・、つらい。


瞳も閉じて、ただ考えることは「なぜ」。


『なぜ、こんな状況になったのか?』
『なぜ、誰かから銃で狙われているのか?』
『なぜ、ここまでして殺そうとしているのか?』

『よっぽどの恨み・・・。』


そんな、恨みなんかとはおおよそ遠い世界に住んでいたと自分では思っていたジャンであったが、もしかすると自分は恨まれるような事をしている人間だったのかもしれない。
同僚のルイスには、いつも『恨んでやる』と冗談半分に言われていたが、それもこれも本気だったのかもしれないし、以前に飲んだ不味い珈琲の店主にも意外と恨まれているのかもしれない。

数分後、皮膚に感じる気温が先ほどよりも低くなるのを感じて、伏せていた頭を上げる。
焦げた匂いが当たり一面に充満しては居るが、さすがに空調のダクト、空気はもうすでにどこかへと流れているようであった。
手元にあった筈のフラッシュライトはどこかへと消えていたが、爆風で燃やされた残骸がそこら中に散らばっているおかげで周囲の様子が手に取るように解る。
トンネル内部の暑さは先ほどよりも緩んでいるものの、二人が来たダクトの先は未だ炎に包まれているのが映った。
ダクトのすぐ出入り口にあった筈の羽根は、一部分が妙な具合に蕩けてトンネルの下部へと張り付き、それ以外の部分が爆風で吹き飛ばされて周囲に散らばっているのだろう。
外にあったテントなんて見るも無残なものになっているだろう。
燃えて跡形となくなっているかもしれない。


そして、同じく映るジンの後頭部。
ぴくりと動いたその部分に少しほっと安心感を感じる。
今の爆発で死んだとしてもおかしくなかったのだ。


『第4類・・・』なんとかとジンが言っていたが、エタノールが爆発したのは言うまでもないが、隣に位置する倉庫に他にも引火しそうな車用のガソリンは、演習に使用するガスなんかも一緒に置かれていたのでそれが一緒に爆発を引き起こした可能性もある。
とりあえず、五体満足でここに倒れてはいるが生きている自分達がとても奇跡的に思えた。



危なかったな・・。




制服の分厚い布がその爆風から守ってくれていたのか、やけに重く背中にのしかかる。
そういえば、先ほどのエタノールの瓶の箱の上に自分の制服を掛けていたジンのことが思い出された。
あの制服とペットボトルの水とで、幾分か爆発は抑えられたのかもしれない。
ジャンは、そう思いつつ自分の制服が自分の体を守っている事実をまた思い出した。

そういえば今、白い薄っぺらいシャツ一枚しか着ていないあの人は大丈夫なのだろうか・・・・、

ジャンは、はっとしてそのまま自分の真後ろで同じように爆風をやり過ごし、
起き上がるそぶりを見せているジンへと視線を送る。
ジンは、普段と変わらないような表情を浮かべながらそのまま立ち上がると、ちっと言いながら自分の肩付近を押さえている。
白いシャツは今はところどころ焦げ付いているが、そこまで酷く燃えている様子はない。
多分爆発の直後に伏せたのが良かったのだろう。
トンネル上部に抜けていった熱風は、少し二人を掠っただけでそこまでの致命傷になることはなかったようだ。
が、ジンは酷い顔をしている、眉間に寄せた大きな皺と少し煤が付いているのか黒い顔がここは戦場なのか?と思わせるようなものである。
思わず、その顔に手を伸ばすがその手はすぐさま振り払われ、きっときつい表情がジャンを見つめていた。
そして、「妙な事になったな。」と呟いた。







「・・・そうっすね。」




割合、小声でそういうと二人はトンネルの壁へと手を付いて、その場に立ち上がる。
付いた壁は、まだなんだか生ぬるい温度を保ち、トンネル内部も異様な匂いに包まれていた。
明らかに、やばい匂いがぷんぷんだな。
鼻がひん曲がるまでは行かないにしても、焦げたゴムやらプラスチックの匂いは体にいいともいえないだろう。
まばらに散らばった炎の光で照らし出された自分の姿。
ぱっと見たところ上着の袖あたりも腰辺りも少しの焼け焦げはあるものの、別段支障はない。
怪我の程度も確認をするが、別段痛みを催すことも無い。

また足を進める。
自然と足早に変化していく。
爆発があったからといって、後ろから来る人物が来ないとも限らない。
死んだかどうかの確認くらいには来るかもしれない。
遺体がなければ、倉庫の奥底にあったダクトに気が付くのも時間の問題と感じられた。

ジャンは、思わず汗を拭く。

暑さからくる汗でももちろんあるが、多分これは冷や汗だ。

自分の考えが確かであれば、相手は必ず・・・来る。
演習中でどんぱちが周囲に聞こえないとは言え、必要以上に撃ってきたあの様子からみて相手は二人のうちどちらかか、自分とジンのどちらかに確実に死んでもらいたい人物であろう。
背後からは、深い息遣いが聞こえる。
ジンは、少し早足になったジャンに遅れまいと付いてくる。
足の長さから言うと(この場合リーチ)、ジャンの早足は後ろの人物の競歩くらいのスピードかもしれない。
だけど、そうだからといってゆっくりと歩調をあわせて行く訳にもいかない。
歩みを進める二人。


ほんと、参ったな・・・。


足音は、まだ二人分。
耳を劈くような爆風の衝撃でおかしくなっていた感覚も元へと戻り、今は小さな物音まで聞こえる。

ぱちぱちと何かがはじける様な微かな音に、どこかから落ちてくる水滴の音。
ぴちゃんと数回にも分けて繰り返されるその音。
これも、以前には無かった音の一つだ。

一瞬で、薄気味悪い場所になっちゃったな・・・。

足元に散らばる爆風で飛ばされたプラスチックや鉄くずの欠片がそこら中に散らばっているのだろう。
足を進めるたびに、その靴底になにか硬いものや柔らかく解けた感触がある。

炎の揺らぎも先ほどよりも消え、辺りが爆発の前のように暗くなってきた時、二人の目の前に大きな大穴が現れた。
瞳も暗闇にもようやく慣れてきた。

長時間と言うわけでもないが、少しの間でも暗闇の中にいたからだろうか目の前が見える。



ぽっかりと口を開いた大穴の淵には、鉄の手すりが以前と同じ状態で張り巡らされ二人を待ち構えていた。
赤い非常ランプが、ゆっくりと点滅をしてこの場所があまり安全でないことを教えている。

そして、ジャンはちょうどその目の前で少し立ち止まり、周囲を見回す。
その背中にジンの頭が追突し、それと同時に小声で「・・・ご、ごめん。」と聞こえた。


「こっちこそ、すんません。」


小さな声でそういうと、また周囲を見回すジャン。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央