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はちみつ色の狼

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一口飲む毎にカップを置いて、はあとため息のような吐息はいている。
その様子を見て呆れも入りつつ小さく笑うジン。


「そこまで美味しいものなのか?」


置いたカップの中身を覗き込みながら直ぐに渋そうな顔をしてジャンを見る。
ジャンの大きな手のひらに包まれた大きなカップ。
中身はバニラの柔らかい甘い薫りの漂う液体。
たぷんと揺れる珈琲は普段の黒いだけなのにミルクとバニラによってふわふわと少し白く濁っている。


「・・・ん。旨いっすよ。飲んでみたら?」


一口また飲んで言うが先か、ジャンの手の中のカップをその手の上から握りこんで唇を寄せてごくりと一口。
そのまま眉間に皺を寄せて苦そうな顔になる。

うっわ・・・・。

飲んで苦そうな顔をしたことよりも、先にたつのはジンの手に握りこまれた自分の手。
そして、近づいてきた唇。
至近距離で見るその顔は、皺なんて一つもなくすべすべしていて何かスキンケアでもしているのか?と疑いたくなるような綺麗な肌である。
少し冷たい指先がジャンの手を触りすぐに逃げ出してく感覚。
心地よいその感触に一瞬、時が止まったように感じるが・・・、そんな状態ではジンに不振がられるのは目に見えている。

これは、気になるどころの騒ぎじゃないぞ・・・、俺。
このままじゃやばい。

テントとはいえ、締め切られた空間に気になる以上の相手と二人。

ふるふると頭を少しだけ振り、正気に戻そうとするジャン。

なんとか話を元に戻そうと、・・・な、なんの話で珈琲だったっけ?!
真っ白になってしまった頭の中で整理をする。

も、しかすると・・・、


「・・苦手とか?」


ただ話を戻す為だけに振ったその話題でなんだか、弱みでも握られたかのように苦そうだった顔を渋い顔に変えて、何が悪いと言いたそうである。
正直、別段何も悪くない。
ただ、なんでこんなに甘いのに嫌いなのかが、ジャンには理解しがたかったし少し好感を覚えた。
西部や中部とかを別にしても大佐みたいな高官になると珈琲を嫌うこの上司が少しいとしく思えるし、なんだか人間味があるようにも思える。
こんな暑い場所で涼しげな顔で座っていられるのは、人間味というのを通り越して非人間じみてはいるのだが。


「・・ああ。匂いは甘い癖になんでこんなに苦いのかがわからない。」
「紅茶だって苦いのあるじゃない?」
「その苦い紅茶が根本的に苦いじゃなくて、渋いの間違いで、とにかく根本的に下手な淹れ方だ。」
「・・・はぁ。」


紅茶なんて自分で入れたこともない、時たま入った店に不味そうな珈琲しかなくてしょうがなく頼んだ紅茶がこれまた微妙なものだったというわけである。
まず、淹れ方なんてあるのか??紅茶なんて、ティーバックとか、葉っぱをお湯に入れて作るだけだろうに・・。

言いたいことを見破ったのか、先ほどとは打って変わって偉そうな表情へと変化する。


「紅茶の淹れ方というのは、まず・・・、」
「せんせぇ・・、」
「なんだ?」
「その講義は、長くなりますか?」


そのジャンの悪びれたと言うよりもおちゃらけたその言葉の後に、冷たい視線が注がれる。
フンと一つ鼻を鳴らしてその場から立ち去るジン。

「そういえば、なんでへリングの奴ここに来たんっすか・・?」

何気ない振りをしながらも、その噂の奴が持ってきたであろう珈琲のカップを少しだけ睨みつけながら
こちらへと背中を向けて消毒剤の数を数えだしたジンへと質問をする。


「・・・さぁなあ。」


気のない返事と共に、振り返るジン。


「お前と一緒だろ。」
「・・・あいたた。」
「お前だって何の用事があるわけでも無いのに・・・、ここにいる。」


目の前に突き出された消毒薬の瓶。
透明の液体はジンの手の中でゆらりゆらりと、とぷりとぷりと揺れ動く。
まるで誰かの心の動きでも表しているかのように。


「と、とにかくっ、」


ジャンは、目の前に突き出された瓶を横へと押しのけてジンの顔をじっと見た。


「俺をあんな奴と一緒にしないで下さいっ!」
「・・・・・っ!!」


急に立ち上がって大きな声を出したジャン。
もしも、この場所が本部のあるテントの隣であればこの少尉の声で何事かと驚いて見に来る者もいただろうが、
この場所は幸運にも、すべてのところから遠い。
その行動に一瞬驚いた表情を見せるが、なんだか必死の形相だった為ジンは思わず苦笑をして噴出していた。
ははっと、急に笑い出したジンと何がそんな笑いの壷を付いたのかがわからないジャンは困惑した表情を見せている。
その困惑した表情を見てまたもや大爆笑をするジン。

「お前の顔、・・っ」

笑いすぎた為か少し瞳の端から漏れた涙を拭ってはぁはぁと俯いて息を正している。


「その金髪とその顔が昔かってた犬を思い出させるよ。あいつも、よく吼えてた。」
「わん」
「・・・お前よりも大分利口だったけどな・・・。」


少し笑顔でまたジャンを見つめなおすジン。
切れ長の瞳がこちらを見つめなおし、東部独特なエキゾチックな雰囲気を漂わせた表情が向けられる。


「・・・あ、あの先生っ」

思わず出る声。
何かを言いたいわけではない、その笑顔をそのまま見続けていたいと願うあまりに口をついたのだ。
だが、その考えとは裏腹にジンの顔は訝しくなる。


「・・・・なんです?」


なんでだ?と自分に尋ねたがジャンには、思い当たる節がない。
これも先ほどの笑いの壷と同じくわからないことばかりである。
首をかしげるしかない大男に、それを睨みつける小男。
ジンはいつの間にか手に持っていた消毒薬を机の上におき、仁王立ちをしている。
ジャンは大きな体を最大限に小さく萎縮させて、自分の身の回りの悪い事を探し出そうとするが何も思いつくことがない。


「・・・なんでお前濡れてるんだ?」
「・・・は?」
「なんで濡れているのかと聞いているんだ・・。」


まるで上層の大佐から詰問を受けているようだと感じずにはいられない。
いや、ジン・ソナーズは身分を隠しているとは言え、明らかに大佐なのであるが・・・。


「いや、ちょっとさっき・・」
「汗か・・・?汗だったら寄るな・・。」
「ち、ちがうって!!」
「そうだろ、お前臭いぞ。」
「・・・・!!」


「冗談だよ・・・。」


そう呟いて、また大爆笑をするジン。
それを見てなんとなく居心地の悪くなったジャン。


「・・・センセイ俺をカラかってそんなに楽しいっすか・・。」


不満げな声、呑み終わったカップを机の上において


「・・・つうか、暇でしょ??」


聞かなくても解るだろうと周囲を見回し口を開くジン。


「・・・暇も、暇。ただ座って来るはずの無い怪我人待ってる俺の気持ちにもなってほしいなぁと正直思ってた・・。」
「・・・そりゃ、すみませんでした。」
「こんな任務、看護師でもできるだろうに・・。」


なんで、俺が?と続きそうな言葉を言いかけたがその先は言わない。
そりゃ、先生が同行が義務だからとジャンが言いかねないと気が付いたからであろう、すぐに口を閉ざす。


「・・そういえば、なんか忘れモノしたらしいけど。」
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央