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はちみつ色の狼

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「ああ、50人も来るとは思えないけどな一応、消毒液を補充しておいた。」


手元にある消毒液の瓶をゆらゆらと手で振り、そばらにある箱を指差す。
指差した先の箱には、消毒薬が大量に収められていた。
その消毒液のラベルに見覚えのあるジャンは、思わず腕を押さえてのけぞってしまった。


「・・・・・!」


腕の傷の消毒薬!!!


あの衝撃の痛み、忘れようもない。
その様子で気が付いたのか、前の傷に使用した消毒薬の件を思い出したのかジンは苦笑しながらぽつりと言う。


「あ・れ・は、お前の傷が汚れすぎてただけだ・・・。」






『ウウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。』





大きく長い音。

まるで空襲警報のような音。


演習開始、5分前のサイレンが鳴り響く。










大きな空気も切り裂きそうな大音響。







このテントの近くにもサイレンを鳴り響かせる装置でもあるのか、大音響がテントの布を震わせている。
こうもでかい演習場所ではジャンを含めて時計を持たない兵士もいるであろうし、全員が全員演習の場所の近くで待機をしているわけでもない。
やさしさと言うわけではないが、各人がおのおのの配置場所に戻らない限り始まらない演習においては大事な事である。
朝と昼とで変わる演習の配置変換もこの時間で済ませられるというわけである。

ジャンは、ゆらりと立ち上がるとポケットにしまってあった、くしゃくしゃの最後のタバコに手元で伸ばして、唇に挟み込む。



「さあてと、俺もそろそろおいとましますよ。」



タバコをくわえながらも器用にそう喋るジャンの唇を興味深そうに眺めていたジンであったがその声に弾かれるようにそうだな、ずっといると消毒してやろうかと思ってしまうからなと小さく笑顔を浮かべ、さらさらっと手を二三回振ると消毒薬の瓶を机の下の大きな箱へと戻した。
わざとらしく肩を上げて怖い怖いと小声で言ってテントの出入り口の布を上げようとしたとき、ばしゅっと何かが当たったような独特の音とともに、揺れるテントの布。




「・・・??」
「な、なんだ?」




二人は、瞬時に顔を見つめあう。

そしてその直後、これまた同時に二人は、その音が聞こえて来たであろう方向へと視線をやる。
何のことはない、ただ揺れたテントの布。
先ほどのサイレンの大音響の震えもまだその場には残ってたのであろうか?と感じさせるような揺れ。
だが、そのサイレンの音もいつの間にか消え去っている。
ジャンは手で押さえていた出入り口の布をそっと離して揺れた布地の方向へと歩いていく。

その揺れたであろう布地の近くには、用意されたライトが置かれていた。

診療中の手元を照らす為の小さな机の上に置く用のライトであるが、こんな昼日中に使う必要はないであろうと今朝テントの用意をしたときには感じていたが、
だが、ここでは役に立ちそうに思えた朝とは違い太陽の光が正面の建物に当たりこのテントにまで届かなくなってしまった状態では少しだけ薄暗く感じてしまう。
薄暗くなり自分でもかなり目には自信のあるジャンであったが、テントのひだにある影にはさすがに
気のせいか?と思いつつジャンがそのライトのボタンに手をやろうとした瞬間にまた先ほどと同じようにくぐもった音が聞こえた。
何か気のせいだろうと思われるようなくぐもったような音でもある。

だが、よく見てみるとその場所には小さな焦げた穴。

そして、同時に飛び散ったライト電球のガラス片。
咄嗟に手をよけるが、ガラス片はジャンの手の甲を掠っていた。
噴出すまでは行かないが、滲み出す血液。
一筋の赤が右手の甲の左から右へと線を描いている。


「っ!!!」



ジャンはその手の傷にはなんとも思わないが、
そのライトの電球が弾け飛んだのを見てそのまま、さっとその場にしゃがみこんで遠くで同じく床にしゃがみこんでいるジンへと視線をやった。



「なんだ・・・、これ?」
「しるか・・。」



また同じような音がすると同時に、先ほどと同じようにテントが揺れ次は中にあった消毒液の瓶が倒れ落ちる。
がしゃんと大きな音を立てて消毒液の瓶が床の上ではじけとんだ。
床に広がる透明の液体。液体は気体となりふわふわとした蒸気になり天井へと上っていく。
が、その蒸気を誰もゆっくりと見ていることはできなかった。


その明らかに銃の発射音は、どんどんとこちらのほうへ近づいているのだ。



「うわっ!!!」
「ちょっ!」



頭を隠しながら、ジャンはジンの頭を一番安全であろう鉄で出来た箱の後ろへと押し込めるが、これでは頭かくして尻隠さず。
そのうちにここまで来た得体の知れないモノに当たって一貫の終わりであろう。


が、本当にこれはどういうことだろうか?
こんな事が起こりえない状況で、ジャンの頭はフル稼働する。

十分にそれも何度も弾詰めチェックを行い、新人じゃあるまいしこんな初歩的なミスを犯すはず無い。
何よりそのマガジン設置の際、室内は関係者以外立ち入り禁止であり充填するペイント弾の他はその室内には存在すらしなかった。
ジャンは、さっと立ち上がるとテント内に片付けていた空きの木箱を確認する。その中には、弾のたの字もない。
綺麗さっぱり、演習が始める前の状態のように片付いている。
トラックに詰め込んだ小銃、ライフル、マシンガンすべての銃に使われるマガジンをすべて簡単に交換できるようにともともと何もマガジンのついてない銃をそれぞれに渡し、同じくそれぞれに緑のテープが張られたペイント弾入りのマガジンを全員に渡した。
用意したペイント弾用マガジンは、全て無くなり仕舞ってあった箱は空である。

その結果、やはり導き出した答えは、「実弾は、ありえない。」と言うことのみ。



「何かのミスでマガジンは交換し忘れたってことは、」
「ない。」



はっきりと言い切ったジャンの顔を覗き込みジンは小さな声で呟く。


「人間なんだから間違いもあるだろうが・・・。」


何か、過去にあったのか?と思わせるような口ぶりだが今のこの状況下では無視せざるを得ない。
確かにもしも人的ミスであるとしてどう解したら「4発」もの銃弾の詰め間違いがあるであろうか?
それも、怪我人も運び込まれないなんてただ一丁の銃にだけペイント弾以外の弾が込められているのは考えにくい。


頬に、浴びた銃撃がひりひりと火傷のような感触を残す。
滴ってこない血液を見ると、さほど重症という訳でも無さそうだ。
手の甲に受けた傷も赤く線上になっただけで痛みもない。

が、隣にいるジンは先ほどとは違いまるで青白い幽霊でも見たような表情でジャンのその傷を眺めていた。


「誰かが、あんたを殺そうとしてる・・?」
「誰かが、お前を殺そうとしてるのか?」


揃ってそう、呟く二人。
そして、二人同時に渋い顔をして口を閉じてにらみ合う。
だが、今はそんなことをしている場合ではない。



「そんな訳あるか・・、俺は一介の軍医師で大佐職は今は休職中だ。」
「でも、そうとしか考えられないんすけど、」
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央