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はちみつ色の狼

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金髪の自分の頭でさえここまで暑くなるのだから、黒髪であればもっと日光を吸収する率が高いかもしれないなと考えて思い浮かべるのはあの先生。

気温は朝よりもずんと上がり演習を行うもの達の集中力わをも体力も奪いさって行こうとしていた。
見た目からして体力の無さそうなあの先生の事だ、演習に参加していれば死人のようになっていたかもしれないが、こうか不幸テントの中で患者を待っている。
幸だとすれば、この炎天下の空の下に出なくて済むことだが、不幸だとすればあの陽を十分に浴びてサウナのように茹っているであろうテントで来ない患者を待っていることか・・?



「しょ・・うがないなぁ・・。」



ジャンは、幸か不幸かのどちらの想像も働けせ、少しだけいい気味と一瞬意地悪そうな笑顔を浮かべていたがすぐに、手に持っていた空のペットボトルを傍の簡易用ゴミ袋へと捨てる。
そして、その手に2本新たに水のボトルを持ち、数個ある内の一番綺麗そうなりんごを持つ。

あの先生のことだ何も食べなくても一日くらい持つとか言って昼寝でも決めこんでそうだ。
だが、この暑さ・・・。少しでも何か腹の足しにしないと熱中症なんかになる可能性もある。
と思いつつも逆に、一応医務室の先生なのだから自分で自分の管理くらいはできなくてどうする?と考えてしまう。

医務用テントの方へと歩みを進める。
黄色い飲料のテントと同じ色をしている医療用のテントは、朝にジャンが他の兵士達と立てたそのままの綺麗な状態であるように遠目から見えた。
飲料のテントから少し離れた場所にあったが、その途中にも演習の本部となっている大きなテントがあり、そこから少しだけいった場所にある。
ここから見えない距離ではないが、少し目が悪ければ見えない人物もいえるであろうと思える距離ではあった。
建物と建物の間にある。
あそこは演習で使われる場所にも入ってはいないし、広場からも少し離れた隠れ家的な要素も持ち合わせている。
実際、演習の下見に来た時にこの場所では、肘を切った工場の倉庫跡実はテントはその真横に建てられた。
その横の倉庫も今回の演習で必要とある物資の保管庫として大いに役立っているのは言うまでもない。
建物の丁度谷間にあたり、日の光は多少だが和らいでいるように思える場所なのだ。
簡易の医療施設とは言え、一応薬や医薬品を扱う場所なのだからと言うことでこの場所になったのだ。
本部とも遠すぎない距離にあることも十分な要因である。

そこら中に、演習の時間を待つ兵士達が思い思いに転がったり、座り込んだり立ってしゃべったりと楽しそうにしているように思われた。
まあ、演習なんてものは始まってしまえば「お祭り」感が少し出たりするのが当たり前で、演習中にふざけることがなければ休憩中は何をしようが本人達の自由であるし、隊長や副隊長なのがとやかく言うことでもない。
言われなければできないような子供が来るところでは無い筈だという認識でみんなが動いているので当たり前といえば当たり前である。
地面に開いた穴は前のまま。

この穴、元から開いてたのか?

ところどころの穴に視線をやっているジャン。
穴は、多いモノもあればしごく小さなモノまでいろいろだ。
火事やなんかで地面に穴が出来るものなのか?火事で使用されなくなって何十年も経っているのであれば老朽化でアスファルトも欠損したのも頷けるが数年しか経っていないのだから何か他の理由でもあるのだろう・・が、別段気にする必要もない。

すっと地面から目の前に視線を移すと、自分の行くテントの方面から見知った顔がこちらへと歩いて来るのが見えた。
細い道で大きな男が二人同時に通るには少し細いので、ジャンは急ぎでもないと道を譲るとその本人が声をかけてきた。


「シルバーマン少尉、演習準備ご苦労さま。」
「へリング少尉、そちらのほうこそ指揮お疲れ様です。」


美形ではあるが鼻につく、えらそうな態度。
高い鼻に、赤い毛質は親譲りなのかその風体に合っている様に思えてならない。
『へリング・カムエイ』少尉は、ジャンと同じく隊長であるが所謂親の七光りでここに入り将来を約束された有望株である。
普段から自分はお前らとは違うのだぞと言いたげに、人を小ばかにした態度が見て取れる人物なのだ。


「指揮は、本当に大変だよ。シルバーマンも一度経験を積んでみるといい。50名の兵士を相手にするのは気がめいるよ。」
「はあ、そうでしょうとも。」
「・・じゃあシルバーマン、午後からもたのんだよ。」
「わかりました。こちらこそ。」


人の肩をぽんと叩いて話を終えるとすぐさま鼻歌交じりに歩いていくへリング、その後姿を見送りながら首を捻るジャン。


「・・・なんだ、あれ・・・?」


心底、ああいう人種は良くわからんともう一度首を捻り、ジャンは歩みを進めることにした。
ああいう人間もいるもんだと頭ではわかっていても実際に見たらなんともあきれてしまう。
あれだけ偉そうにされると同じ階級であろうとこちらが、なんか下っ端の気分になる。
ジャンは、頭をぽりぽりと掻きながら3度目に首を捻って、へリングの方へと振り返る。


なんだってあいつ・・・、こんなとこにいるんだ?


ここは、休憩所のテントも本部のテントも通り越して、あとはただの簡易医務室のテントくらいしかないこの場所。
へリングは、もう地面にうごめく蟻よりも小さく、見えなくなっていた。
考えられるのはただ2つ。

怪我をしたか、ちょっかいを出しに来たか・・・。

もう一度、振り返り歩くジャン。

噂に寄るとへリングには親の決めた許婚が中部にいるとかいないとか、まあいたとしてもいないにしても先生が男好きなホモであるとは限らない。
玉砕することは目に見えている。ただの憧れで十分なのだ・・・と人事のようにそう思う。
ジャンも実際、綺麗な黒髪だとかかわいい顔だとかいい匂いだとかそんな事で気になる存在ではあるが、
実際にこれを恋だの愛だのと言うつもりもない。
自分は、おっぱいの大きな目のパッチリとした金髪の自分より少しだけ背の低い”女の子”をタイプとする人間なのだから。
もし恋や愛であれば、自動的に進行していくものだろうとジャンは考えていた。

が、気になるモノは気になる。




いつのまにかたどり着いていたその場所は、本部からも休憩所からも大分離れた場所にある。
見た目には遠くには思えなかったこの場所であるが、実際は少し遠い。
先ほどすれ違ったへリングなんて、砂粒ほどだ。

目の前の黄色のテントには、白い布に赤い十字の柄が示され、見ず知らずの人間が見ても救急か、医務室か?と想像できる作りであった。
まあ、ジン・ソナーズ医師自らがそれを作ったのではないのだが。(実際にその見た目を作ったのは第二部隊であるジャン達である。)

何も特別変わったことはないと思うのだが、ジャンは少しだけ違和感を感じていた。
朝のテント張りと変わった様子はテントにはない。
が、何かが違う・・・。

まあ、大したことは違わないだろうが・・・。

扉のように叩くところもないので、ジャンは気を取り直してその場で声をかけることにした。


「・・すんません。」


返事はない。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央