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はちみつ色の狼

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14 dead or alive?





砂漠特有のからっからの清すがしい風が、吹き抜ける。


しかし日の光は、廃工場の中心部分に当たる噴水近くの広場に集合した見た目暑苦しい軍服に身を包んだ50名程の団体に降り注ぎ、身を焼いている。
軍服姿での集合と言うのは、一応の演習の決まり事であり、演習中は脱ごうが着てようが本人の意思に寄るが今は着ていることを義務付けられている。
総勢50名程の軍人が集まるのは1年に2,3回と珍しいことであり集合場所にはそれを監視する中佐のチェックが入るのだ。

ジャンは、その軍人達の後ろに立っていた。
真正面には中佐のエバ・コールマンが立っている。
一応、演習の指揮と言う形ではあるが、この朝の朝礼的なものはいつでも執務室付きの中佐であるエバが総指揮者として執り開会を宣言する。
きりりとした表情を浮かべたエバは、形のよい唇を開くと響きの美しい声をだす。


「みなさん、この暑い中の演習は大変ですが、軍人として恥ずかしくないような演習、そして実地の訓練を行ってくれますよう。」
「Yes sir!!」
「では、演習をはじめます。」


エバは、いつもどおり兵士達の労うを忘れずに一言だけそういうと正面で敬礼をし横を素通りすると、ジャンの隣に立ち指揮権を渡し自らは慌しく用意されていた車に乗り込み基地へと帰っていった。
予定通り・・・とは、このことである。

どこの部署に配属されたいのかを決めかねている新人達も合わせて男女合わせて総勢50名の軍人達が真面目な顔、そして正式な黒制服に身を包み整列をしているのを見るのはすばらしく気分がいい。
4月に入り、夏の今の時期になれば皆だれてくるのは言うまでもないので、この真面目なメンバーを見るのは貴重なことである。
ジャンは、それを敬礼して見送るともう一人の人物が前に立つのを静かに見届ける。
第一部隊の隊長である『へリング少尉』である。隣の隊であること以外に、あまり縁もゆかりもない実は顔にしか見覚えのないその男は、エバが立ち去るのと同時に全員の目の前に立つと、手にしていた資料を開き同じく口を開く。
目の前のメンバーは、静かにそれに聞き入る。



「これから班分け、銃の仕分け、対テロチームテロチームに分かれる、・・・・」



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と言うわけで、演習が始まりを迎えることになった。

内容としては、教本どおり。

演習には、実弾は使用しない。ペイント弾を使用するが威力はさほどかわりはない。
銃は、マガジン式の物を使用し、すべてのマガジンはペイント弾の物と交換をする。
もしもと言う事は無いが、演習場所に基地局を設置し、医師を配置。
何か在った場合、ミスが起きた場合、怪我を負った場合は、自らのチームのグループリーダーに報告、そこへ行く。
演習は、赤、黒のグループに別れ赤からの攻撃からはじめ、黒が防御に回る。後に、交代。
テロリストに扮した相手チームを制圧すれば終了となると言うことである。

第一部隊の隊長の説明によってグループを分けられた兵隊達は、30分後に始められると言う演習に向けそれぞれのマスクや物資を受け取るためにすでに整列を崩し、それぞれ動き出していた。

ジャンや、ルイスの所属する第二部隊は、この日の為にペイント弾の弾を詰めたマガジンを人数分用意をし、人数分の地図を用意したりと雑用を余儀なくされてきた。
だいたいは、エリートかキャリアだかなんだか名の知れない第一部隊の尻拭いのような役目であるが、それも今日でその仕事とも・・・・・、きっと1年はおさらばである。
銃器が収められた箱の封印を解き、それを軍曹がジャンの目の前へと広げる。銃器にも種類があり、一応分かれた班により異なることになる。
すべての弾がペイント弾であること以外は本番さながらの訓練になるのは目に見える。
黒グループには、黒い毛糸の目だし帽がそれぞれ配られ、赤グループには目立つ赤のベストが配られた。
班分けにはそれほど時間は要さず、並んだ人間の順に黒赤黒赤とシンプルに決められていく。
後ほど、交代をするので別段差別化もないであろうと言う考えである。

荷物を配る役目は部下達に任せることにしたジャン。
その間医務用テントなどの張り出しや、予備の銃器などのチェックに当たることにしその準備のために車止めの方へと歩みを進める。
車の背後からテント用の重たい布を取り出して、肩へと乗せようとするが軍服が汚れるのを嫌いその服を脱ぎ車のシートへと戻すとすぐさま
軽々とそれを肩へと載せ設置すべく先ほどの広場へと進んでいく。
そういえば、この演習には数名見知った人間の顔があった。
例の「緑遺体」の研修の班にいたリードもそのうちの一人である。
リードは、以前の研修とはまったく違う雰囲気を醸し出している。
服装が違うと言うこともあるのだろう。以前は、シャツ一枚で穴を掘っていたので違うのは当然であろう。
顔に付いていた砂粒もないし、黒の制服姿は何故か畏怖さえ感じる。
新人っぽく若作りさえしているが本当は年もそこまで若い訳でもないのかもしれないとこっそり考えた。
が今は、目の前でウロウロと周囲を見回している。
本人は、ジャンの存在など知らないのだろうか、背後にいるのに気が付いてはもらえない。
たぶん、同じグループになったであろう人間を探しているのだろう。
荷物を肩からよっこいしょの言葉と共に下ろして、手を振りながら声を出す。


「リード、お〜い・・・・。」


それと同時に開いた手で、肩をぽんと叩いてにこりと顔を覗き込む。
それに驚いたのか、すぐさま振り返ったリードの顔は真面目というよりも必死なモノであった。
そこまで驚くことはないだろうと逆に驚いたジャンではあるが、すぐに声をかけなおす。

「ごめん、おどろいたか?」
「・・」

一瞬動きを止まるリード。
その様子を見て、少しやってしまった感を感じずにはいられないジャン。
仕方無いことなのかもしれない。一度出会ったのがあの印象的な事件であっただけで、もしかするとジャンは他にいっぱいいる少尉のうちの一人であったかもしれないのだ。

「シルバーマン少尉!」

今更気が付いたのかとたんに和らぐ顔。
その顔を見て、忘れられていたわけではなさそうだと胸を撫で下ろす。

「少尉、お元気そうで!」
「お元気じゃないよ、・・・俺の腕を見てくれ。」

他の軍人とは違いもう上着を脱いでいるジャンは、そのまま腕を捲くり傷口を見せる。
昨日の今日とは違い、一週間も経った傷口は化膿もせずにただ赤い線と縫い針の後がそこにはあった。
痛みも殆ど無く、別段引きつりもしないのだが、見た目には腫れぼったく赤い大きな筋が肘から腕にかけて8センチ程の傷が残っている。

「ど、どうしたんですか?!」

思った通りの答えを引き出して満足げに、顔を顰めてかわいそうな上司を演じようとするジャン。

「・・・それがなぁ・・、」
「金網に腕引っ掛けた結果。」

意気揚々と、答えようとした時背後からの声で制止される。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央