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はちみつ色の狼

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ジャンは、腕を組んで考え込むような顔を作り、床を眺める。

「頼めないっすね〜。残念ながら、ここにいんのはあんただけですし・・。」

そういいながら、腕を上げてお手上げポーズを作ろうとするが、怪我をした右腕は上がろうとはせずに痛みを感じさせる。
いててと少し、その痛みに顔を顰めながらもう一度、ジンへと視線を移して口を開く。

「多分、大佐に聞いてもソナーズ先生にしてもらえって言われると思うのですが・・ねぇ。」
「・・・・・・むぅ。」

口を摘むんでしまったジン。もう、断る言葉はないだろう。
そう、ただ一人の医師。本来ならば、3人体制のこの医務室には残り2名の医師がいて同行医師は決めるのであろうがいかんせん。
もちろん、看護兵がいれば本当はいいのだが、50名単位という大規模な演習ともなれば医師は同行するのが、軍則というのは誰もが知りうる事実であり、もちろん大佐という地位にある以上知っていて当然の事でもある。
そう、ここはもう頷くしかないのだ。

「・・・後ほど、ちゃんとした書類で要請します。」
「・・・わかった。」

追い詰め追い詰めていくと、色よい返事が聞くことができた。
ただ、ジンの瞳には追い詰められた手負いの肉食系のような光が漂いだしたので、ジャンはすばやく部屋を出ることにした。




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部屋の扉を開ける前に、ジャンはひとついたずらを思いついた。
まあ、もう仕事終了の時間も大分過ぎた今の時間もう部下たちは帰っているだろうと思ったが、意外と上司思いのいい部下達もいるのでそのいたずらを実行に移すことにした。
すうっと大きく深呼吸を行い、そのまま扉を開ける。


「ひ、ひどいめにあったよ・・・。」


どよめき、瞳を大きくして驚愕の表情を浮かべる皆。
なぜか、頭にまで包帯を巻いているジャンの姿を見て騒然とする室内。
案の定、皆がみな座席に座りジャンの帰りを待ちわびていたようだった。
いいやつらだなぁ〜と思いつつも、顔は真剣そのもので、今にも死にそうだと言う感じを表してみる。
頭に巻いた包帯は、腕に巻かれたものを吊る為に、医務室から出かけたジャンにジンから渡されたものでジャンから染み出した血液がそのまま付いた状態である。
その見た目は、頭からも出血した戦争を味わった兵士のような・・・。
扉に命からがらという風に、掴まりながらその目の前の席であるカールの所へとふらふらと歩いていくと、カールは思わず立ち上がりジャンを抱きとめる。

「だ、大丈夫ですか!!これ、どういうことですか!」
「・・・隊長、何があったんですか?!」

ジュンもビリーも心配そうに、駆け寄ってくるがルイスはただ一人椅子に座っている。

「・・・・じょ、じょう・・・。」
「なんですか、この怪我!」
「頭部裂傷ですか・・!!」

口々に、呟かれる心配の言葉。
最初は騙されている部下たちに思わず苦笑してしまいそうだったが、冗談だと言う言葉が通じないほどに心配をされて言い出しにくくなる。
こんなに心配されて嬉しいのだが、それを騙している自分が逆に悪人もような・・・。
思わず、ルイスに助けてくれっと視線を送るがルイスはそれを見ようとはしない。
気が付いていながら、視線を合わせないようにしているというのが正直なところで、答えとしてはあっているだろう。
3人の部下たちに大丈夫か?と壁際まで押しやられてそれこそ、本当に顔が青くなり掛けていたときに、ルイスが大声で笑い出した。

「おいおい、お前ら・・・そのぐらいにしとけぇ。」

その声に、3人が反応して壁際まで追いやってたのが嘘のように解散し、自分の席へと戻っていく。

「よかった、よかった。」
「健康第一ですよね。」
「隊長、無事で何よりです。」

「へ・・・・????」

こちらが、騙していたはずなのに逆にこう簡単に引かれると目を疑ってしまう。
その様子に驚いたような表情を浮かべているジャンの肩をルイスがまだ笑いを浮かべながら叩く。

「・・・?」
「あいつらには、俺が伝えといたから。腕の怪我だけ・・。」

ああ、なるほど。
だが、それはそれで逆に見事にジャンが騙されて返り討ちにあったという事になるが、怒れない。

「まぁ、その頭。おっまえの事だから、かわいいセンセイみて脳震盪でもおこしたか!このやろう!」

半分間違っていて、半分言い当てられているその一言に「ははは」と乾いた笑いを送りながら自分で巻いた血付きの包帯を取りながら自分の席に着くジャン。
実際、滑った転んだ際に、腰に打撲を負った程度。
机の上には今日使用した地図が並べられていた。
確認するといろいろなところに、丸やらバツ印がつけられており、その下に、注意が書かれてあったりポイントなのが、書き込まれている。
それと同時に研修に使えそうな場所がここだという風に、赤印で大きく丸が打たれていた。
場所は、ルイスが回った場所とジャンが最後に見つけたダクトの場所の丁度真ん中部分である。
そして、補佐官のボインちゃんがあまりの衝撃的な事件に自分自らも貧血を起こし印をし忘れた場所でもあったが、それは別段問題はない。

「・・・・隊長、お先に帰らせてもらいます。」

その声で地図から視線を上げるとルイスも他の部下たちも、帰り支度を始めていた。
たぶん、ジャンが無事に医務室から出てくるのを見届けて帰るつもりであったのだろう。
皆がみな同時に扉へと向かう姿を見て少し微笑んでしまうジャン。


「・・・おつかれさん、あと、ありがとう。」

部下も笑顔で挨拶をし、ルイスも手をジャンに向かって振りながら扉から出て行く。
そう、ジャンは呟き扉が閉められるのを見てそうして、また机の地図ににらめっこをすることになった。

作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央