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はちみつ色の狼

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そういえば、補佐官って普段なんの仕事をしてんだ?

通常この類の演習や研修前の補佐官仕事は、ある意味その場にいて危険はないか周囲を監視したりチェックしたりするのであるが、
今日の場所は平時、施錠され危険のない場所であり、その監視すると言う職務は必要ないのだ。
この仕事には伍長や軍曹階級の人間が主となり、その補佐官という仕事を足がかりに上へと上っていく、いわば、通過事例・・・。
ジャンもこの手の仕事は100以上こなし、今は少尉と言う立場にいる。
が、監視することもない、ただチェックの手伝いをする為か、補佐官はお喋りになってしまうのかもしれない。

「この場所も彼氏とか出来て肝試しとかしたらいいですよね・・・。」
「・・・そうだね。」

なんだか、和やかな雰囲気の中、ジャンは手を破れた金網部分に手を掛け、思いっきり引っ張るが金網はびくとも動かない。
針目はきつく重たく、人一人通れるようにするのには手だけではなく身体も使い押し広げる必要もある。
そのために手袋を嵌めてきたのだ、別段目立つ汚れも無いままその金網の隙間をすり抜けようとした瞬間、また例のあの話が後ろから付いてきた補佐官の口から漏れ出す。

「ところで、少尉はもう診療所には足を運ばれましたか?」
「・・・な、なんでかなぁ・・?」
「ホケカン(保健管理)の子が、新しい先生が来たって言ってて。それも、相当、かっこいいというか、びじ・・ん」

本人は悪気はないであろうがある意味、ジャンに取っては気の抜けるような話の内容に思わず手を離してしまうジャン。
それによって直前まで力強く引っ張られていた金網がビュっと言う音と共に勢いよく戻ってきてジャンの方へと帰ってくる。
激しい金属音と、「ぉっ!!」と言う声。
その激しそうな物音を聞いた補佐官が、驚き大きな声で尋ねる。

「大丈夫ですか?!少尉!!!!」

金網の裂けた部分がジャンの肘辺りを掠めていったが、少しだけ服に引っかかりを感じたがさほど自身には衝撃もないので
先ほどと同様金網の端を力いっぱいに引っ張りそのまま中へと進んでいく。

「大丈夫だけど、・・・その話後で聞くから。ちょっと待って。」

話題の「ジン・ソナーズ」”医師”についてである。
別段、そんな話をされても、もうなんの気配のけの字も無くなったジャンの心の中はずっと快晴の青空状態で、自分の仕事を卒なくこなしていく。
その話題は、女からも聞かれるのか・・。
少しため息を吐きながら考える。
良く良く考えてみれば、別段ため息を吐くようなことでもない。
医務室のそのセンセイは、大体”男”で女性がその噂をするのが当たり前で、自然なこと。
それに考えてみろ、俺は男でこの今一緒に仕事をしているようなボインで金髪ちゃんがすきなのだ。
気にする事なんてないだろうに。

深呼吸、深呼吸・・。


「す〜は〜す〜は〜・・・。」


背後に感じる気配を尻目に、周囲を確認。

緑の作業着を着ているのだから、汚れても大丈夫な服装であろう補佐官。
ルイスと一緒に行った補佐官ももしかすると女性補佐官かもしれないなと思うが、
ルイスの場合は、男女関係なく仕事は仕事と言うのが念頭にあるので一緒にどんなところだろうと行っているだろうが、
ジャンとしては、一緒に行くとなると少し邪魔でもないが、足手まといになるかもしれないと言う気持ちが生まれる。
そして、万が一怪我をされても困る。
その確認途中、ジャンは後ろへ振り返り視線をこちらへと送っている補佐官へ声をかける。

「補佐官は、そこで待っておくように。」
「はい!少尉、わかりました。」

返事も半分にジャンは再び中を進んでいく。
補佐官である彼女のほうも、最初からあそこで待っている気であったのだろう。
まあ、どっちでもいいけど。
そんなことを考えながらどんどんと進んでいくジャン。

ダクトは、そんなに言うほど狭くはなかった。

もとから人が入るようには設計されてはいなかったのか、ジャンの体は擦り切りいっぱいと言う感じであった。
身長も体も大きなジャンには、少し身を屈めながらでなければ通れない程の大きさである。
普段はこの中で回るように設置されていた羽根の部分を用心深く通り過ぎて、奥のほうへと進んでいくジャン。
メンテナンス用のものであろうか、鉄製の梯子がかけられており下へと降りていくと、そこは人一人中腰で歩けるか歩けないないかの暗く空間があった。
そこに来た途端に、グンとあがる湿度がジャンの体にまとわり付く。

そこは、古臭そうな水道の下水坑のようである。

ダクトがなぜ、下水抗に繋がっているのかは、なぞだが多分この工場の人間ならわかることなのであろう。
だが、その原因の一つにこの湿気にあるのかもしれない。
ジャンは、まとわり付くような汗が噴出す額を袖でぬぐいながら、もう一度遠くへと目をやる。
見た目には新人演習で使えそうなポイントではないが、本場さながらの演習ともなれば使ってもよい場所だと思える。

ジャンは少し下に視線を遣る。

同時に膝のズボンのポケットに常備された小さなフラッシュライトを取り出すと視線の先に向ける。

ほの暗いトンネル内部を照らす出すライトの白い光。

下水坑とは言え、言うほど水も溜まってはおらず暗視ゴーグルを使うまでも無いほどの明るさのあるトンネルのようである。
ライトに照らし出された奥にはもう一つ金網でもあるのか薄暗い影のようなものがあるように見えた。
汚水の匂いもしないので、下水坑として使っていたわけでも無さそうだなともう一度、金網を先ほどより力いっぱいに抉じ開けてその場所から出ようとするが、
補佐官の声によって制される。

「きゃっ!!!」

金網を開けてそのまま行こうとしていたが、一旦その動作を戻して声のするほうへと視線をやる。

「し、っ!!!シルバーマン少尉・・・、それ、大丈夫ですか?」
「・・・?」

ダクトのすぐ横に立っていた補佐官の顔色が青い。
自分の顔を覗き込んでいるのはわかるがダクトの丁度出入り口のような場所に立つと出るにも出られない。
そこをちょっとどいてほしいと思った。

「大丈夫だけど、ちょっとだけ横によけてもらえるとうれしいなぁ・・。」

やんわりと断ると、補佐官は右へとずれるが、その視線はいまだにジャンの顔面へと合わされたままであった。
なんだかなぁ・・。
ジャンは、もう一度金網を開けるが先ほど力いっぱい押し開けたのが良かったのか、そこまでは力を入れる必要はなかった。

「地図にチェックを頼むよ・・・、って、俺の顔になんかついてる・・っ」
「じ、じじゅうぶんに。」

補佐官は、その何かがついているらしい所を指差し、ジャンはと言うと顔についているであろう汚れか何かを、拳でごしごしと擦るが、補佐官の瞳はまだ呆然としたままである。

へんなやつだなぁ・・。

と、握り締めていた拳を下へとさげ何気無しにそこへ視線をやるジャン。
拳の握り締められていない部分にまで赤黒いものが見える。

「?」

握っていた自分の手のひらを開けるとそこには夥しい程の血液が付着しているのを始めて発見したジャンは驚いた顔をしてそこを見つめる。

「・・・な、なんじゃこりゃぁ!!!!」
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央