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はちみつ色の狼

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12 place for trial.





緑の作業着に帽子を被った2人の兵士と、黒のTシャツ姿のラフな兵士が2人。
その計4人は、周りを堅固な鉄製の格子で仕切られたある場所の目の前にいる。
この場所は、一応今回の演習の予定地で兵舎から一番近い場所に位置していた、数件回る内の一つである。
堅固な鉄製格子に、大きな鍵つきのチェーン阻まれた門。
普段は軍の指揮下にあり施錠が行われており、鍵は執務室に保管されているのである。
だが、今日はルイスが演習場所の偵察の為、中佐に許可を貰いすべての場所の鍵を持って来ている。

「何時きても、でっかくて鬱蒼としてますよね・・、ここ。」

緑の作業着を着た今回の演習の補佐官である2人が少し身を震わせて、壁越しに見える工場古ぼけた建物に視線をやる。
多分演習か研修の関係で一度来たか、目の前を通ったことがあるのだろうか、
その顔は、少し恐怖に慄いているようにも見えたが、他の2人は気にしない。
ここは、地図にも記されたとおり今は使用されていない工場跡地。
蔦の絡んだ建物に、緑よりもどす黒く濁った廃液を溜めるためのプール。
4階建ての建物は、真っ黒く半分以上が小火騒ぎの際の事故でこげている。
普段は、施錠されているが夜になればホームレスが寝床にしている可能性もあるが、この鬱蒼さはどこかぬぐえない。

ルイスは、右のズボンのポケットから小さな銀色の鍵の束を取り出すと、その内のひとつを出し門の中央にある大きく重たそうなチェーンの鍵穴に差込、回す。
チェーンは、どんと言う大きな音を立てて、その場に落ちたがルイスは拾おうとはしない。
まあ、どうせ帰りには鍵をかけ直さなければいけないのだからそのままにしておいても支障はないと考えたのだろう。
チェーンのなくなった門は身を軽くしたのか、自分からそれを開き4人を中へと引き寄せる。

「・・・・・っ。」
「すげ・・。」

足はまだ踏み入れてはいないが、周りを見回す4人。
この場所には、あまり縁がなく一度もここでの演習に当たったことのなかったので、外からしか見たことがなかったが、中は立派な物であった。
外から少し見えるとおりに、壁には蔦が絡みつき、真っ黒に焼けたコンクリート製の建物に、高い位置にある浄水用のプール。
そのほかにも、演習と研修をする上で見るべき施設はいっぱいあるように思えた。

「ここって、怪談話とかもありますよね。夜中に、火事で死んだ工員が・・・、」
「はいはいっ、そういう話はいいから、」
「でもぉ・・、」

名残惜しそうにする補佐官達を尻目に、ジャンは中へと入っていく。
手には4枚の青写真(所謂構内の地図)と、大きなこの場所の配置図を持っている。
門から入るとそこには、守衛所のあった場所と、地下に伸びる大きな坂状の地下へ通じるだろう通路がある。
その通路は、地図によると地下駐車場として使用されていた場所で、暗い陰湿な空気を漂わせていた。

肝試しには、もってこいと言うか・・、補佐官が言ってた怪談話が頷けるというか・・。

少し身震いをして守衛所の横を通り過ぎ歩いていくジャン。
その後を追う、ルイスに2人の補佐官。
気のせいであろうが、地下の方から冷気を感じる気もするが、気のせいだろう。
実際建物自体は何も老朽化などはないはずだ。
なぜなら、この場所が閉鎖されたのはほんの3年前。
3年前までは、工場として開けられ今歩いているこの場所には、工員がごった返していたことであろう。
狭い通路を通りすぎるが、右左の4階建ての建物が太陽からの光線を遮断し、光に目が慣れた4人の行く手を遮ろうとする。

が、すぐにその通路は切れ大きな広場にでた。
すべての建物が見渡せそうな場所でその中心部には、枯れた噴水が存在している。
下には、色とりどりのタイルが敷かれ、見た目にも鮮やかであるがところどころがひび割れてそこから雑草が背を伸ばす。
今はすっかり寂れているが、多分まだ賑やかだった頃には昼休みに工員達の憩いの場であっただろうと思われた。


「・・さてと、ここをみんな一緒に回るんじゃ埒が空きそうもないしな・・。」

顎に手をやり、2人一組になるか?と後の3人に言うと、3人は素直に頷く。
ルイスは、ジャンの直ぐ傍に来てその手の中にあった地図を一枚引ったくり、その方向であろう場所に視線をやる。
その視線の先にあるのは、先ほど通ってきた守衛所近辺の建物である。

「各自2人一組で回って、気になる所地図にチェックしてくれるか?」
「何か、問題は・・」
「いや、何にもない。」
「じゃあ、別れてこの地図の通りに行くか確認してくれ。」
「わかった。」


ジャンと同じ隊の副官であるルイスに、一名の補佐官。
この2人の補佐官は実は研修組と合同で行うために違う班からきた人間である。
ジャンは、手に持っていた地図の一部をルイスと回る補佐官に渡すと自分も違う地図を片手に探索を始めることにした。
自分の探索するべき場所に目星を付け、もう一人の補佐官に同じく地図の一部を渡し歩いていく。

調べることは、色々とある。
2人は、今までいた広場を後にし守衛所とは反対の廃液用なのか、プールが屋上に設置された建物近辺へと歩いていく。
銃撃練習では、上から下の人間を狙うのが殆どであるが、下の角度から上を狙うこともある。
その場合自分自らの逃げ道も確保しておくことも大事となるが、この場合この地図に示された地下のトンネル部分が役に立つ。
銃撃練習とは、銃撃する側も勉強になるがされた側も次の戦闘の際に十分生かすことができるのだ。
先ほど通った地下駐車場に続く通路なんかも良い戦闘場所になるであろうが、その場所は自分の手にする地図には含まれてはいなかった。
多分、ルイスがそこは調べてくれるだろう。

あいつは、仕事”は”出来る奴だ。

「補佐官、名前は?」
「ジョゼット、ミッシェル・ジョゼットであります、少尉。」
「・・・?へ・・・。」

間の抜けた声が思わず出る。
今の今まで気がつかなかったが、ジャン付きのこの補佐官は女性であった。
緑の作業着を着ているから気がつかなかったのではなく、ここに着く前からも何も喋らずただ相槌を打っていたので声を聞いていなかったことも気がつかなかった要素である。
彼女は同じく緑の帽子を目深にかぶり、華奢な身体が作業着に隠れていていたのであろうか。
名前を言ったその声は少し掠れてはいるが、とても魅力的な声である。
ジャンは、後ろを振り返り様に自分は地図をチェックしている振りをしてワザと下のほうについた窓を指し示す。

「・・・ミシェル補佐官、下の窓をチェックしてくれるか?」
「はい、」

その指示通りに、俯き確認をする補佐官。
ジャンのいるところからしっかりと見える、揺れる胸に帽子から少し流れ落ちる金色の細い髪の毛。
良く見ると、クルクルと大きな瞳に金色の眉毛。
大きな作業着に隠れているが、揺れる豊満な胸。
俯いて、下の窓をチェックしている顔は、真面目だがそれでも妙な色気がある。


「・・・ラッキー」
「?何か、おっしゃいましたか?」
「何も・・。」


自分の言った言葉が聞かれなくて正直よかったと思いつつ、ジャンは今日と言うよりも今週一番の笑顔を浮かべている。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央