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はちみつ色の狼

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新人とは言え、士官学校で銃撃演習くらいは数回受けているであろう二等兵。
どうせなら、実践さながらの研修演習も体験させてやりたい。

一応、この部隊の隊長として君臨する少尉なのだからとジャンは、もう一度、書類を見直す。

「どうしたら、いいもんか・・。」

その数枚の地図の上に肘をつきながら、それを見比べる。
眉間に皺を寄せて考えては見るが、どの場所もそれぞれによい特徴があり、捨てがたい。
カールとジュンに聞いてもいいのだが、二人も二人で研修演習に必要な物の準備や補充物の用意で顔には出さないものの普段よりも眼光が鋭く、”用事が無いのであれば、話しかけないでください”と語っているようにも見える。


『ダンっ』



静寂が破られた。

激しい音と共にドアを勢い良く開けて入ってきたのは、軍曹ビリー・シモンズであった。
大きく、筋肉質な図体。気は優しく力持ちの典型を行く男で、何事もやりすぎる節がある。
この時もまたあまりの力の強さに、ドアは、そのまま壁へと跳ね返りそのまま本人の方へとその勢いのまま戻っていく。
が、彼はそんなことももろともせずにそのドアの攻撃を見事に避ける。
そして、部屋の中心にある自分の席へと無言で歩みを進める。
部屋の中にいた全員といっても3人はその方向へと注目を集めたが、彼は別段何も気にすることなくガタンとまた派手な音をさせて席へと座る。

「・・・軍曹か、会議はどうだった?」

ジャンもその無言で座った軍曹へとチェックを入れるが、すぐに顔を机の上の書類へと戻す。
なんで帰ってくるのが遅かったんだ?やらなんやら言ってもしょうがないことはわかっている。
どちらかと言うと、もう一人の方へがつんと言ってやる必要があるのであろう。

ルイスは、少尉でこの軍曹を戒めると言うか嗜めるというか、多分一緒に行ってサボっていたのだろうから・・。

静かにそう考えながら、軍曹からの返答を待ったが、返事はない。
聞こえなかったのかな?まあいいか、とまた、机の書類をピンと弾きつつ”字”をつらつらと読み始める。

騒がしかった登場はなんのその、それは力持ちの軍曹のやるいつものことだと言うことで片付けられ、別に何事も無かったかのような室内。
急に、机とライトの間に影が現れる。
自分の机とライトの間には自分の頭くらいしか無いはずだ、ここまで暗くなるのはおかしいとジャンがライトに視線を上げると
そこには急に机に置かれた書類をふっ飛ばしそうなくらいに荒い鼻息を噴出す、軍曹。
あまりの鼻息の荒さに書類が吹き飛ばないように抑えるジャン。
実際、そんな鼻息で書類が吹っ飛ぶことなんて無いのだろうが、この軍曹の鼻息はそれも厭わないほどである。

「??」

顔は、鬼の形相とまでは往かないが、その表情は此方へも緊張感をもたらす物であった。
ジャンも身長の高さで言うと勝ってはいるが、この全身の筋肉質な肉体の持ち主に睨まれれば、少し緊張が走る。
カールもジュンも、いきなり立ち上がり自分の上司の目の前でその上司を睨みつける輩を良しとしなかったのか、二人も緊張した面持ちでジャンと軍曹であるビリーを見つめていた。


「なんだ・・・・、軍曹。」


明日提出である演習の書類を真剣な顔でチェックするジャンの目の前にいきなり立ちはだかって鼻息荒く話し始めた部下に内心、何か不都合な事態かと不安になるジャン。
部屋への入り方は、いつもどおりで何も注意する点は無かった。


「聞いてください!!!」
「・・だ・か・ら、何を?!」
「少尉・・・、」


にじり寄って来る気配。
その視線の先にあった筈の”鬼の形相”は、奇妙な笑顔に変わっている。

怖い・・・。

「な・・・なんだよ・・?」

余計不吉になったその顔見て思わず一瞬後ずさってしまう位に引きそうであったが、ジャンは着席した状態なのでそれもできない。
だが、座っていた椅子は少し下がり、その近づいてきた顔と距離を広げることに成功したが、軍曹の顔の位置はその場から動くことは無い。


「・・・・・言ってみろ。」
「そ、それが、」
「・・・・。」
「・・・・。」

静かに見詰め合う二人。
唾を飲み込み、軍曹の口が開くのを待つジャン。
こいつのでこの右側にニキビがある、とかしょうもない事を考えてしまいそうになった時、ビリーはその重たい口を広げた。


「・・・・先輩、新しい医務室の先生みました?かっわいいの、なんの!!!!!」


一瞬息を呑んだと思うと、最後には息を荒くしてそれも顔をフニャリと微笑ませてそう言う大男。

そんなに、息を荒くして話すことか・・・、すっげぇかわいいのは本当かもしれんが。

そう心の中で呟くが、仕事中に溜めて言うことでも無いだろうと先ほどまでの緊張はどこへやら、
渋い顔へと変化させるが、それも見えているのかいないのか、夢中で”こうでこうで”と喋る軍曹。
その様子はまるで頬を上気させ、まるで女学生が憧れの男子学生でも見つけ、それを友人同士でゴシップ・・・・。

これは、一言どころか、二言言ってやらねばいかん!!!

肘を組んで真面目な顔で軍曹を見つめ静かに口を開く。
そんなジャンの様子をきょとんとした顔を見る軍曹。
それはまるで、何が悪い?と言いたそうな顔である。

「医務室って。軍曹、怪我でもしたのか?」
「・・・・とにかく、すっげぇかわいい顔してんですよ!!」

そりゃそうだろと、思いながら一応、軽いジョークのつもりで言ったのだが自分の質問を軽く流す軍曹。
その軍曹の対応に、少し”いらっ”としながらも未だに夢中な軍曹をまるで子供をあやすように、肩をポンポンと叩き、よかったね〜と一言いいつつ、軽くジャブを一発。

「・・・男だろ。」
「えぇ!!!そうなんっすよ、でも俺、ぱっとしか見てないんですよね。もっとじっくり見てこないと。」

相手に何も利かなかったジャブを、反対に食らった感じのジャン。
その反応に、思わず机に突っ伏してしまう。
男でも、女でどっちでもいいんですか・・??
そんな疑問が、頭を回るが自分も言い切れる立場ではないので、その件に関してはぐぐっと口を紡ぎぼそっと呟く。

「・・・そんなことより、仕事しろ。軍曹。」
「はいっ、とりあえず先に見てきてからにします!」
「・・。」

ジャンに敬礼を済ませると、また勢い良く扉を開けて外へと飛び出していく軍曹。

軍曹よ、仕事をしてください。

残されたジャンは、大きな溜め息を付く。
周囲を見回すと、ジュンもカールもジャンの方を見てうんうん頷いている姿が見えた。
気の毒にと思われているのであろう。

自分の事を棚に置くわけではないが、仕事中は仕事をしよう。
再び、書類に目を落とすジャン。
たんたんとペン先で全く進まない書類を叩く。
次の週に舎外で行う銃撃演習の予定と場所と指示について纏める書類なのだが、今までの銃撃演習の延長では鈍って行くのが目に見えている。
が、なにをどう新しくすればいいのかが見えてこない。
本場さながらに演習することも、起きてはほしく無いがテロや戦闘に向けてのいい強化になる。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央