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はちみつ色の狼

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10 dark side..



どこかの施設、ざわめいている廊下越しの扉のすぐ向こう。
そこは、暗闇である。

深い暗闇、自分の動かした手さえも何処にあるのか解らなくなるような飲み込まれそうな闇の中に、一つうごめく赤い小さな光。
光はまるで生きているかのように揺れ、それはたまに何かの動きに合わせて上下する。
赤い光は、オレンジにそして、黄色に光を変え見るものを迷いの渦に引き込むようなそんな動き。
そこから暗闇の中に吸い込まれるように生まれる青白い煙、それは煙草から生まれる光と煙であった。

そう、暗闇の中には男が一人いた。
男が動く動作と共に動き、それにより、男は咥え煙草をしながら電話をしているのだろうと想像ができる。
椅子のような物に座り座高は低く、何かを気にするかのように小さな声でぼそぼそと話しているのだが、暗闇の部屋の中にその男以外の人影は見当たらない。

「・・・はい、はい。今回はしくじりましたが、次回は絶対に・・はい。」

声の主は、少し焦っているようで、男のすぐ傍にある机か何かを空いている指先で小刻みに叩いている。
声は、落ち着いているように聞こえるが、時々男の方言なのか揺れるような語尾。
時々沈んだように俯いては、上を見上げることの繰り返しをしながら電話を緊張しながら握り締める手。
シャッと言う素早い音と共に開かれたカーテンの隙間から漏れる太陽の光。
男は、その隙間から窓の下を覗き込み、何かを確認する。
太陽の光に照らされた部屋の中にはお金を入れるタイプの赤い公衆電話が一台設置され、その横に少し痩せて顔色の悪そうな男が一人その受話器を握り締めそのすぐ横の台の上に座っている。
男の目はギロリと何かを油を含んだ濁った様な色をし、ただ一点を眺めている。


「計画は、もうすでに・・・。わかりました、必ず、・・・・殺します。」


最後の一言と共に閉じられたカーテン。
それとともに受話器は電話台に戻され男はため息を漏らす。

暗闇と静寂を取り戻した室内。
部屋の中には男の息遣いと煙草の小さな赤い光だけがゆらゆらと揺れるだけである。

もう、間違えは認められない。
最初から答えは決まっているのだ。
あの男が死なない限り、自分には戻る場所は無いことは。

握り締めた拳を震わせながら、近くの机を叩こうとするがそれを急に止める。
拳を解き暗がりの中、自分の元来た道へと戻っていく。

失敗は、しない。
自分はただ、殺すだけだ。

がちゃりと言う子気味のいい音と共に開かれた扉の向こうには白く明るい世界が待ち構え、男の姿を消していく。
まるでいままでここで話されていた事が嘘のように。

ざわめきがすべてを日常へと戻していく。
だが、男が後ろで占めた扉の向こうでは、再び暗闇はうごめき出した。


作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央