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はちみつ色の狼

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もう一度、顔を引っ込めた思うとすぐにこちらへとスキップでもしそうなくらいの嬉しそうな顔で出てくる女性。
女性は年齢40だが、それをそれとは見せないくらい輝いた笑顔を持っていた。
腰につけてある赤のチェック柄のエプロンでさっきまで水仕事をしていたからなのか、手を拭きながら出てくるとジャンに近づきいきなり抱きしめる。


「ジャン!!!来ないと思ってたわよ!!」
「俺も、来れないかと思ってたよ!!」


この抱きつきで驚くことは無さそうに、ジャンも笑顔で抱きしめ返すとそのままの状態で、肩越しに辺りをキョロキョロと見回して誰かを探している素振りを見せる。

「・・・で、俺のお姫さんは?」


なあに目当ては、ヘンダーソンのビールじゃないの?と言いながらその抱きしめたままだった手を払いのけて、苦笑する女性。


「エミリー?さっきまでは起きて待ってたんだけどね、大祭の流星も流れ終わったらもう眠たいって。」
「残念・・・、ここ、最近あってなかったしな。もう、俺の顔も忘れてたりして・・。」
「そんなことないわよ、今日だってジャンが来るって昨日の夜からはりきって走り回ってたくらいなのに。」
「お父さんはいいからジャンは?とか悲しい事を言う娘はお前に嫁に遣るよ!!!」
「おおっ、ドイル。お前、今寂しさに任せてすごい事いってんぞ。」
「俺の天使、エミリー・・・。」
「ばかねぇ、あなたには私がいるでしょ。」
「・・・エミリー」
「失礼な人だわ・・。」


3人の会話は留まることをしらない。
数分間、世間話をしたところで彼女はジャンのすぐ傍でかわいいカクテルを片手に、周囲を見渡しているジンに気がついたようであった。
そして、ジャンの耳に囁く様に「で・・・なあに、その美形は?」と声を落として言う。
ジンはと言うと少しこちらの3人の話に耳を傾けていたが周囲の音にも気を取られているのか真剣な目で、何もかもがよっぽど珍しかったからか辺りを物色している。
東部にはあんまりこう言う店が無いのか?それとも大佐という身分の人間がこう言う場所に縁が無く来る機会が無いのか?彼の目はらんらんと輝き、少し嬉しそうにも見受けられる。

「・・・ジン。」

ジャンは、一瞬ためらったが、一息に彼の名前を呼ぶ。
一瞬だけその呼び方に眉間に皺を寄せる仕草を見せるが、何かに気がついたようにそれを止めて、こちらを振り返ると人懐っこそうな三人に笑顔を向ける。
そして、女性の方へと右手を差し出す。

「そいつの友人、ジン・ソナーズです。ミス、」
「サラ・ヘンダーソンよ、サラでいいわ。こっちは、うちの旦那ドイルよ。」
「よろしく、ジン。」

サラは、ジャンに見せていたのと同じ笑顔で自らも右手を差し出して握手をし、ドイルには軽く会釈をするジン。
二人の様子を静かに眺めていたジャンはというと、ドイルからビールを受け取るとその二人に近いカウンター空いている席を見つけるとゆっくりと座る。

「・・・なぁに、ジャン。あなたなんで私がドイルと結婚をする前に紹介しないの!」

サラは真顔でジンとの握手をしていた右手を名残惜しそうに離すと、極上の笑顔をジャンの方へと見せながら、力いっぱい背中を平手で打った。

「ったぁ!!!!!サラ!」
「なぁによ・・、なんか文句でもあんの?今までの付け、今払ってくれてもいいのよ?」
「本当だぞ、ジャン。もっと早くにこっちに来いと呼んでいてくれていたら良かったのに。」

ジンもサラと同じように最初は真顔で言っていたが、一瞬で笑顔に変えて、「こんなに楽しい場所に、いい人たちに恵まれててお前がうらやましいよ。」と呟いた。
サラも、ドイルもそれを聞いて本当に嬉しそうにもう一杯どうと酒を継ぎ足したりと大盛り上がりになる。
いつのまにか空いたジャンの隣の席にジンが座りサラはカウンターの中に戻るが、ものの数分でこの口が達者な大佐殿の虜になった二人は、ジンの目の前で同じく椅子に座り仲良く話をしている。
エミリーと言う3歳の娘がいて、40歳だとか、自分はどこの生まれだとか、逆にジンはどこの人間だとか、生まれはどこだとか?根掘り葉掘りとまるで自分の息子の嫁を品定めするようなチェックの入れようだ。
ジンはと言うと素直に、東部生まれの東部育ちで、好きな食べ物はパンだとか好きな花はなんだとかあたりさわりのないような事を答えたまにジャンの方へと目配せをする。
まるでこれでいいか?という様な合図に、ジャンも「・・だそうです。」と二人に相槌をうつ。
実際のところ、中部の生まれであるジャンにとってこの西部での親代わりのような人物であるサラとドイル。
本人達も長年子供を設けることが出来なかったせいか、19でこちらの地区に飛ばされて来てから数年来の付き合いであるジャンを息子のように思っているようで、ジンを友人と聞き話を聞きたくなるのもわかる。
サラもドイルも気のいい人間で、この店に来るほとんどの人間がこの二人目当てと言ってもいいぐらいであった。
サラは、昔この地区の大祭クイーンにも選ばれた女性でその面影は・・・、いまはあまり残っていないがやさしい笑顔には皆が癒され恋愛や色々な相談事を持ちかけられることが多々あるようで、たまに相談所みたいなものを開設していてたいへんだとドイルが困っていたことがある。
それだから、サラがジャンの恋人探しなんかにやっきになるのも解る気がする。
ドイルはドイルで、いまでさえこんな小さな酒場でマスターをしているが、実は中央の元老付きのコックをしていたような過去を持つ、いわゆるお抱えシェフのような存在でこの店にもその食事を楽しみにきている人間も多く、彼の人柄と食事の旨さでわざわざ遠くから来るリピーターもいるようである。



「どうゆう知り合いなの??」


ドイルも、サラもジャンを通じて聞いても良さそうなこともジンの印象がよっぽど良いのか、本人と話したいのか食い入るように顔を覗き込んで聞いている。
それには、さすがのジンもすこし緊張をしているのか自分の答えも考えながら選びながら話をしている様子で、それを見てジャンは思わず苦笑を浮かべてしまう。
もちろんすべてが作り話ではない。中央で士官学校に入ったのはもしかしたら同じかもしれないが、この若さで大佐になる人間はそれだけで縁故や、有名な家系に生まれたのだろうと考えざるをえない。
・・・この若さ・・・?見た目は童顔でつやつやしてそうな肌から言うと、自分と同じくらいか少しだけ上だと思うが実際には何歳なのだろうか?
ジャンは、疑問を一つ思い浮かべながらごくりと一口ビールを飲み、3人の会話に聞き入ることにした。
この話好きで質問好きなサラのことだ、年齢も質問することだろうと踏んでのことである。

「・・士官学校時代の友人です。」
「ああ!!!ジャンが通っていたのは、中央のだったかしら??」
「・・ええ、そうです。もう何年も会っていなかったので。」
「・・・そうそう。」

さすが、大佐になると口も達者で役作りにも余念がなく、今までの質問には訳もなく答えていく。
相槌を打ちながらもすごいと感心するばかりである。

まあ、この辺は簡単な質問だけど。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央