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はちみつ色の狼

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黄色のプラスチック製の防護服に身を包んだ大勢の科学者達が、研究室に繋がる様に設置されたプラスチック製の通路の前に集合している。
エレノア大佐の命により、集合した人間達であろう。
大戦最中は良く使用されたであろう黄色のプラスチック製の防護服も、今では倉庫の中に長年仕舞われていただけで長年使われることはなかった。
危険の無い様に念入りにチェックが繰り返されている。
何故、ゴム製の青色の簡単な防護服では駄目なのか?と先ほども兵士に聞かれたが、その答えは簡単だ。
マスタードガス (Mustard gas) は、化学兵器のひとつで、実戦での特徴的な点として、残留性および浸透性が高いことが挙げられる。特にゴムを浸透することが特徴的で、
ゴム引き布を用いた防護衣では十分な防御が不可能であり、またマスクも対応品が必要であると仕官テストの一つの毒物の専門知識が上げられその教科書に記されていたことが思い出された。
あの男は色々なことを知りながらも、だが、それをひけらかさず静かにエレノア大佐の補佐をしていたのが印象的であった。

そんなことを考えながらジャンも、ルイスもその研究棟の丁度鼻先の花壇の際に座り支給品であるボトル入りの水を啜っている。
その周囲には新人隊員の姿はもうなく、みな解散をしていた。
時間は、まもなく7時を回るところであったが、未だに太陽は沈む様相を見せてはいなかった。
この辺りの地区は、夏のこの時期9時やそこらまで明るく子供達が外で遊ぶ姿を見ることが出来る。
あと、二時間やそこらもすれば今夜から始まる祭りのムードも盛り上がるのだろうが、だがこんな事件の起こった軍の基地の内部でそれを喜ぶと言うのは心が引ける思いであった。

二人は、顔もあわせることなく地面にいる数匹の蟻を見ながら口を開く。


「もう少しで、俺達がお陀仏だったかもしれなかったんだね。」
「・・・ほんと、お前の手伝いのせいで死んだら俺化けて出るとこだったな。」


化けて出るとかなんとか今なら冗談のように言えるが、本当に死んでいたかもしれないとし実際に死んだ者も出ている。
今からあの黄色い服を着た人間達によって運び出されるであろう十数名の遺体。
自然死でないので遺体は司法解剖に回されて、身体を切り刻まれた状態で家族の下へと帰っていくことであろう。
考えるだけでも、かわいそうになる。
辛い目で死んで、死んでまで痛い目にあわなければいけないのか・・・。
無口にもなる。

地面の蟻から視線を上げた時には、目の前で忙しそうにしていた黄色の人間達も一通りチェックが終わったのか、プラスチックの通路へと移動しているところであった。
今から、成分分析に遺体の搬送と数時間は忙しく人々が歩き回ることであろう。
折角のシルベウスの大祭の初日なのに、本当にかわいそうなことである。
しかし、疑問に残るのはなぜ・・・・、


「なんで、でも緑の遺体?」
「なんで、成分分析したときに毒ガスが探知されなかった?」


また、俯いて疑問に思っていたことを口にするが答えは出ては来ない。
ただ、疑問が心の中を渦巻いていくだけ。


「血液中のヘモグロビンが硫黄とが反応をしてたまに緑色の血液になることがある。」
「・・・!!!!!」


いつの間に来たのか、目の前にはあの黒髪の大佐が立っていた。
時折吹く暖かな風が彼の背後から吹き、やはり先ほどと同じように金木犀のような香りを放っている。
汗臭い自分とは違って、大佐という身分の彼はよほど高い香水をつけているのであろうか。
一瞬、遅れはしたがすぐに立ち上がり敬礼をする。
よっぽど、ジャンの顔が驚いていた表情だったのであろうか?ジンは少し無表情を崩して苦笑する。

「驚かせてすまないな。」
「・・・いいえ、いいっす。」

苦笑したその顔はすぐに元に戻るが、そのすぐ後はまた口を開いて真面目な顔へと戻る。


「あの窓の中の空気は二酸化硫黄と気化した硫酸、」
「硫黄って火山とかやなんかでおこるガス・・・ですよね。」
「砂漠で火山も無いと思うがな。まあ事実そうだが、実社会でも硫黄はそこ等辺に割りと普通に存在する。」

「だが、火山性ガスと同じようにこの種の硫黄製毒ガスは空気よりも大分重く下にたまる性質と、無味無臭、無色と解りにくい。
研究室の構造からして床に溜まったガスが換気されるのは難しく本来の毒を発揮するまでに掛かった時間も長く、マスタードガスは遅効性もあり、曝露後すぐには被曝したことには気付かなかったのだろう。
天井に設置された成分分析の換気扇から採取できた毒ガス成分も極微量で・・・・、」


話の途中であるが、小難しい専門用語を喋りすぎてしまったとジンは思ったのか急に口を閉ざし、正面で聞いているジャンの顔を覗き込む。


「つまりだ、ガスが重い成分でそれが中にいた人物をゆっくりと殺すことになったわけだ。」
「はい・・。」


急に簡単に纏められた答えに拍子抜けするが、ジンなりに難しすぎる答えでは意味が解らないだろうと配慮しての回答だったのだろうと少し優しさと親近感を持つ。
そういえばと周囲を見回すが、ルイスはいつの間にか傍から消え去りそこにはその黒髪の大佐と我が執務室のアイドルであるエレノア大佐が少し遠くのほうから歩いてくるのが見えた。
エレノアは美しい金髪の髪の毛を少しだけ触りながら、首をかしげる。
彼女は、仕事とは言え急な事故を仕切りながらも全然疲れた表情は浮かべてはいない。
それどころか、いつもどおりに美しく輝いた緑色の瞳をジャンとその目の前に立つジンの方へと向けている。
二人のすぐ傍までやってくるとその場で止まり、今日はありがとうとジャンを労うことも忘れない。


「ところで、・・・・ジャン・シルバーマン少尉。君の仕事は終わったのかしら?」
「はい、もちろんです。Mam.」


エレノアはそう言うと、笑顔を浮かべて口元に指をやり小悪魔のように口角をあげる。

「・・・そう、じゃ、君に特任を申し渡します。」

「・・・はあ・・。」




作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央