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はちみつ色の狼

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ジャンのすぐ隣にいた老軍師が、エレノアとジンの目の前に進んで行く。
彼は、中にいる友人であろう人物と笑顔でコンタクトをし、その男に続いて違う人間達が窓の傍へと近づいていく。
先ほど、ジンと話していた禿げ上がったドクターも先ほどと同じように汗を拭いてはいるが、穏やかな表情になったようにも思える。

十分に換気も済んでいるのだろうか?廊下に木霊していた通気口の音も幾分少なくなってきた印象も受けるが、ただ、あの巨大な音に耳が慣れてしまったのかもしれないとも思わないでもないが・・。


「数十分以上経っていますが、中の人間達の身体に変化は無いようですね。」
「緑に染まった液体は怪しいが、中にいる方たちも心配です。」
「扉を開きましょう!」


口々に呟かれるのは、扉を開くこと。
その声が、呟きから大きな声へと変わったとき、皆の視線はこの研究室で一番上の階級であるエレノア大佐に向けられた。

そして、沈黙。



「扉・・・、開けましょう。」

エレノアの唇がそう呟くと同時にリードが隣にいた同じ隊の男が、研究室と準備室とを結ぶ扉の前に立ち開閉ボタンと思しき場所へと歩み始める。



「・・ちょっとっ、・・・待ってください!!」


ジャンは、ひとつ研究員が言い忘れていることがあるのでは?と疑問に感じて思わず出した言葉。
先ほどまで考えるように組まれていた腕は、研究室の開閉ボタンへと向かおうとしていた新人兵士の腕を引き止めている。
その片方は、鼻のすぐ下を撫ぜ眉間に皺を寄らせる。


「いや、・・・・」
「シルバーマン少尉、言いたいことがあるなら言いなさい!」
「はあ・・、あの胸部X線の拡大図で微妙な影があるんですけど・・・、」


エレノア大佐の額に刻まれた皺に勢いを押されて、先ほど見つけた疑問を口に出してみる。
オペレーターの目の前にあるパソコンの胸部X線写真部分を指し示す。


「拡大してください、そこそこっ、そこ!!」
「・・・球??」
「何かわかんないんですが、噴出したようにも・・。」
「小さなプラスチックか、ガラスの玉の中に結晶状のものが入っていた・・・と?」
「・・・そのよう・・ですね。」

「あっ、・・・遺体の発見時、硫黄の匂いが少々した気が。」
「な、リード二等兵?」
「・・・・・・、あ、」


一緒に死体を探り当てた現場にいたリードは何故だか嫌味な大佐殿の顔を見て動きを止めていたが、すぐさまジャンに向き直って硫黄臭が確かにしましたと付足す。
資料には、まだ出来ていないがこの解剖の始まる直前に硫黄臭の事はその現状の見分を行っていた部隊に言っておいたし、あの異臭であれば気がつかないはずが無い。
ジャンが腕を押さえていた男とは違う新人の兵士が、話の筋も何も聞かずに、また、扉のボタンの方へと歩き出す。
その男は、今日の演習にもいた若い軍曹で、瞳はエレノア大佐の命令を止めるジャンのことを信じられないと言う様子で英雄気取りで、研究室の中の人間達の前を通り過ぎて笑顔で扉の方を指差す。
すると中にいた者達もその様子に反応し、笑顔でオーケーサインなどを送っていた。
ジンも、大佐もみな今はその様子に気を配っている余裕はない。


「硫黄の匂い・・・・・?」


顎に手をやり一撫でし小声で呟き、研究室の扉へと向き直るジン。
その目に映ったのは、若い軍曹の嬉しそうな笑顔とボタンに掛かった指。
そして驚いたような顔をして開こうとしている扉に向かって叫ぶ。

「・・・だ、駄目だ!!!!あけるな!!!」

作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央