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はちみつ色の狼

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7 Poisones?




ジャンとルイスの二人が顔を見合わせ、画面へと同時に視線を戻した直後、背後の扉が開く音と同時に廊下で高鳴る換気の轟音と共に、
作業の前に見た自称大佐男ジン・ソナーズと、執務室のお偉い方エレノア大佐が走りこんできた。

二人は同じ棟にある3階の会議室から走り降りてきたのだろうか?どちらも少しだけ息が荒く感じられる。
白い上層部軍隊の制服を身に着けたエレノアの頬は、荒げられた息と共に上気し、長く美しいブロンドの髪の毛を揺らしている。
ジンはというと、すでに荒げられていた息はすでに平常に戻し冷静に表情は真剣そのもので、早急に状況を把握しようとコンピューターの画面を覗き込む。
ジンが誰だか知らないものにとっては何故、普段着の一般市民らしき人間がこんな軍の中枢にいるのだろうか?と思うであろう。
それを、肌で感じてかエレノアが「その男は、大丈夫です。」と、周囲に一言呟く。
別段、大佐であるとか、説明も無いのだが皆気にもせずに話を流していく。


「・・何があったのか、状況説明お願いできるかしら?!」


エレノアはハキハキと喋りながら、ジャンとルイスの目の前に立ちはだかる。
ルイスもジャンもその二人を目の前に敬礼をする。
が、すぐに姿勢を崩して自分達の知りえる情報をエレノアへと渡していく。
遅ればせながらと二人の背後にいた新人隊員達も敬礼をする。

ジャンも、ルイスもこの場で起きた事故?事件を、短絡的に砂漠で見つけた緑の遺体の話からし始めて、そして話は今に至る。


「急に警報とサイレンが鳴り響いて、あっという間に扉が閉まりましたっ、」
「扉は閉鎖されていると言うことは、・・・。」
「空気清浄機が起動したと言うことは、何か毒性の物・・。」
「・・・あと、中にいる人間と連絡は取れるか?」
「はい、それは問題ないかと。遮断されたのは扉だけで外部との連携は取れているようですし。このコンピューターも生きてますので。」


どんどんと進んで行く話と、見比べられる資料の一部。
パラパラと言う紙と紙とがこすれ合う音が、大佐が入ってきたと言うことで静まり返った室内に響き渡る。
エレノアは胸辺りまである長い金髪を後ろ手に結び、研究員に中のインターフォンと接続が出来るかを問うと同時に接続を要求する。
ジンは、ジャンのすぐ傍で顎に指を遣りながら書類の1ページをピンと跳ねる。
周囲の人間も息を潜めてその光景を見守る。
ジャンは場違いにその書類を弾いた指が、白く長くてそれでいて男だとは思えないような節くれだっていないし綺麗だとか考えていたが、話はどんどんと進んでいく。
何気に振り返ったジンと目が合うが、ジャンはさっと視線をそらす。
男相手に綺麗だとか考えているそんな恥ずかしい思考が読まれたような気がして、気恥ずかしくなる。
そんなジャンの気持ちを知ってか知らずか、ジンはそんなジャンのはちみつ色の頭にふんと鼻息を飛ばして面白くなさそうな顔をしながら、
手にある紙面に描かれたグラフを読み解きながら口を開く。


「・・・これによると、この扉の向こうには何か知れない成分が分散していることは無いと言うことになるが、」


この不自然な研究締め切り事件発生当初から、室内の上部にある換気扇から排出された空気がこの準備室のコンピューターにデータ化されていたようで
グラフには、赤や青や黄色などのカラフルな色の棒グラフが研究室内の中にある成分分析を表している。
赤や黄色などのグラフの下部に成分の結果が描かれ、水分や窒素、硫黄化合物、酸素成分など普段とは別段変わりのない物質と共にガラス成分、Unknownのグラフが一つ。
水や窒素、硫黄、酸素などは普段から割と目にする成分であり、研究室ということもあり何かとガラスをビーカーなどでしようすることもあるであろう、だが、他の一つはまるでわからない。

「一つだけ、気になるのはこのもうひとつのグラフ。微量すぎるのか成分分析の際に名称がでていない。」

「はあ、」
「運のいいことに、被害は最小限に食い止められ、中にいる人間にも害は今のところないようにも見受けられる。」
「はい。」
「だが、その成分はこの軍の施設にとってはタブーなのかなんなのか、締め切りをしてしまったらしい。」


ジャンもルイスも見守っておくしかない。
ここは、専門知識の無いものがしゃしゃり出でも、役には立たないのは目に見えている。
準備室の端で邪魔にならない様に見学組の新人隊員と共に整列している。
新人隊員達もこの状況で落ち着けるわけも無く右往左往と静かには整列はしてはいない。
ジャンが何の気なしに周囲に目をやると慣れのあるルイスと、新人の中でただ一人だけリードだけが作業をする大佐達を眺めている。
ルイスはともかくとして、リードは遺体発見当初からすごいやる気が見受けられ、もしかすると出世頭になるかもしれないと思わせる風貌でもあった。


「画面上にあの遺体の状況を表示できるか?」
「はい、今すぐに中のコンピューターに繋げます!」
「中の検視官、名は?」

「ドクター・ランド、ランド・マイニングです。」


早速つながれたインターンフォンから鈍い機械音と共に男の声が流れてきた。
ガラス窓の中にいる丁度緑の遺体の真正面で作業をしていた男の口がパクパクと開く。
ランドと言う男は、眼鏡を掛けた小太りの男で世話しなさそうに剥げかけた頭にかいた汗を拭いている。
かわいそうなくらいに、萎縮して汗を拭くのとは反対の手に持ったボールペンの同じように世話しなくカチカチと慣らし続けている。


「・・・ランド医師、どういう状況でこうなったと思われますか?」
「こちらでは、早急に作業をするようにと促されましたので作業を行いましたが、これと言って何も起きてはいないかと。」
「早急に?」
「ええ、なんでも連絡システムは軍事秘密の一つという事で中央から連絡がありました。」
「中央から・・・。」
「はい。」


医師はそう簡潔に話すとエレノアもジンも頷きながら、違う質問を医師にぶつける。

「あなたが、解剖を行っている際に何か音がしたとか、異臭がしたとかはありますか?」
「耳にはこれが詰めてありますし、異臭はもう何がなにやら色も匂いも・・・・。」
「そうですか・・・。」

耳から取り出されたのは、黄色い耳栓でそれは遺体の近くに置かれている電機ノコギリで必要とされた物だとすぐにわかった。
遺体の緑色は置いておいて、腐っていた様子からして異臭はわからないのは仕方が無い。
机の上に置かれた医師が使っていたであろう血飛沫の付いたフェイスマスクには、黄色の油のようにどろりとした物体と、赤い血、それに大量の緑の液体がこびりついている。
ランドの視界のあったであろうマスクの場所もこびり付いた液体が視界を悪くしていたに違いない。

外と中のオペレートをする女の子が、その男の前にある大型スクリーンに人体のX線写真を投影しその下にある小さな画面にこれまで中の物が調べた状況を刻々と示していく。


「今ある情報はこれぐらいです。」
「・・・十分だよ、ありがとう。」
「はい!」


大佐と話して少し安心したのか、中にいる医師や軍人達にも笑顔が見え始めた。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央