はちみつ色の狼
新人の隊員たちでこの場所に来るのも初めてだと言うものが多く、ルイスを待つついでに少しだけ珍しい資料などがあると立ち止まりその説明をしてみる。
まあ、大して珍しくもない資料であるが、やはり一般人から入ってきたばかりの新人には何もかもがもの珍しかったようで、皆興味深そうに見入っている。
その内に、駐車場から焦って走ってきたのか少しだけ息を切らしているルイスが一向に追いつく。
全員が集合した所で、研究棟の廊下の突き当たりにあるガラスの扉の部屋へと行く。
そこは、それまでにあった部屋とは違い、解剖が行われる部屋の真正面にある見学室と言うような部屋だった。
実際には見学室などではなく、コンピューターで解剖された情報などを整理するような準備室なのであるが。
士官学校終了時代にジャンも、ルイスも一度か二度くらい解剖を見学するために準備室に来たことがある。
部屋の中は防犯のためなのか、防御用のためなのか解剖の部屋とは仕切られており5センチ厚の強化ガラスに守られていると言うことであった。
解剖室との間には唯一つのガラス扉があり、今は何人もの白衣を着た科学者や検視官と呼ばれる職業の人間が出入りし、
部屋の中の天井からは熱く感じるほどの大きな電球があり、科学者達の手元を照らされており、同じく部屋中を白く輝いている。
ただ異様なのは、その中心部のシルバーの作業台に置かれたビニールシートで覆われた緑色の物体。
遺体をここに運んできて早速解剖されると聞いて色々と疑問はある。
一番の疑問は・・・・、これ。
「なんでこんな早くに、解剖されるんだろな・・・、」
「さ・・・さぁ??」
「普通は、もっとこう・・・なぁ・・・」
言いたいことは伝わるはずだ、同じく軍隊に働いている者の常識として、
まずは、衣類などに付いた証拠品、この場合砂やそれ以外の物を集めたり、爪の間の皮膚片や身元証明に繋げる為のDNAサンプルや、
X線による写真撮影などがあり、それをすべて終えてからこの解剖作業をするのだ。
まず、明らかにあの緑色をした皮膚に何も違和感が沸かない訳がない。
緑色のサンプルを取ったり、血液を検査しないと何かウィルス性の物体であるとも限らない。
発見当時に発生していた硫黄臭のことについても、検分に書き添えられていたはずだし、明らかにあやしい。
「絶対に解剖すんの早いだろ・・・あれ」
「基地の連絡拠点であるあの場所でいた人間の不振な死で。軍の上層部としては死体の身元を知りたいと言うことじゃないの?」
ルイスの言ってることは、的を得てると言えば得ているが自分の中の疑問を何も解決なんかしてはくれない。
わかったけどと、少し消え入りそうな小声で言いながらガラス窓に張り付いているルイスの方へと振り返ったのは丁度、
遺体の胸骨辺りを切り開こうとした小さな電動式のノコギリが少し入り込んだ時だった。
「どっ・・・っ!!!ぅぅぁ!!」
その場から逃げ去ろうとするジャンを引っ張っているルイスの手を引き離そうとする。
が、その手はジャンから離れはせず、もっとガラスの窓のほうへとその身体を寄せさせていく。
ギギギギとまるで歯医者で歯を削るドリルのような音を3倍くらい大きくした音が、窓越しとは言え大きく聞こえてくる。
そのノコギリは回転式で、それを手に持った検視官の顔くらいの大きさあり、その歯が回転しながら胸骨部へと入り込んでいく。
緑色と、多分元の血の色が混合し、それが遺体が載せられている台から流れ落ちる。
それと同時にそのノコギリの振動で青いシートで覆われていた右手が露になった。
発見した時と同じく緑色をしているが、なんだか先ほどよりもジューシーさが増しているのは気のせいか?
それは一言で言うと異様な光景。
まるで、地球外生命体でもマジかに見ているような、現実ではないような・・。
検視官の顔には表情はないが、もしこれで本当に笑顔であれば、オカルト映画の1シーンにでもなりそうな設定である。
それを見た直後、すぐに視線を反らせてコンピューターに張り付いている研究員の一人に視線を移す。
「・・・うわわわわわっま、まじ!!ルイス!!!離せ!ばかっ」