小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

はちみつ色の狼

INDEX|15ページ/101ページ|

次のページ前のページ
 

しっかりと見詰め合わされた瞳と瞳。

こんな時くらいにしか見つめなんか合わないが《合いたくも無いが》、ルイスの睫は長くてバサバサと音でも鳴りそうで、その下にある綺麗な赤い円らな瞳は、こちらを眺めている。
自分の青い瞳も彼の事を写しているのだろうが、睫もきっと短く瞳も円らではないそんな特徴のないこの顔をそう長く見つめて面白いものであろうか?
ジャンと同じ27歳の癖にかわいい顔でこいつの彼女は苦労してるんだろうな、でもこの前年上が好きだとか言ってたようなと思い出す。
それにしてもこの新人隊員達、やる気は良い事だな・・とか考えてしまうが、こんな事をしていても肝心な答えは出ては来ない。

だが、そこに一筋の光明のように一本のトランシーバーによる呼び出し音。

ビビッと言う機械音がルイスの腰に吊り下げられたトランシーバーから鳴り響きそれと同時に振動が響き、それを手に取ったルイスは思わず落としそうになる。
おおっと言いながら取り上げ通話ボタンを押すと、そこには今日二度目のエバ中佐の透き通るような声。

「スマイル少尉、今日はご苦労様。」

しっかりと労いの言葉も忘れない彼女、これが部下にも支持される大きな点である。
そういえば、彼女も3,4歳は年上でルイスの好みのタイプなのかも知れないなとこっそり思うが、当の本人は上司相手に何も緊張することもなく普段のように、赤毛をクルクルと自分の指先で捻りながらトランシーバーに向かっている。

「仕事が終わってすぐで申し訳ないですが、本日発見された遺体の検死を行うので・・・、」
「わかりました、今すぐ研究棟へ向かいます。以上。」
「よろしく、ルイス・スマイル少尉。以上」

ルイスは一方的にトランシーバーの応答を切り、こちらを振り返る。
少し微笑んでいるのは気のせいなのか、それは置いといて彼は口を開く。


「そういうわけで・・・、この後に検死の立会いです。」
「そっか・・・、がんばってやって来いよな・・。」


大変だよなと一人ごち、人事のように受け流そうとルイスの横をすっと素通りして休憩室にでも向かおうかとするが、首根っこを引っつかまれ引き戻される。

「ぐえっ!!!!!」
「・・・お前も少しは、自分が発見した死体の解剖にちゃんと立ち会った方がいいんじゃないの〜?」
「いやだっ!!!第一に、これはルイスの名前で中佐が言ってたんだし、おまえの仕事の延長線だっ!!」

隊員の前でみっともない所を見せたくはないのとまだ絞まっている首のせいで小声だが、必死で話を断ろうとする。
が、ルイスの瞳は笑っていて見方によっては何かを企んでいるようにも見える。
首根っこを掴んでいる指先の力も未だに弱まる様子もない。

「でも、規則だもんね〜、発見した『本人』が遺体の解剖報告をするの。」

『本人』という言葉が心なしか大きく感じたが、気のせいであろうか。

「・・・でも、それと、これとは・・・」
「あの!!少尉。もしよろしければ僕達も見学させていただきたいのですが?」
「おねがいします!」

ぶつぶつと口篭っているジャンを尻目にリードを筆頭に新人隊員達はその話を聞きつけてきたのか、ルイスの目の前に出てきた。
そのキラキラとした瞳が見つめる先にはもちろん、ジャンもいてお願い光線を出している。
ルイスはまた、苦笑を浮かべる。

「シルバーマン少尉、・・・ああ言ってますが??」
「・・・・・っ」

くそっと眉間に寄せているとルイスはジャンの首元に合った手をさっと退けて、もっとにやにやと小悪魔的な笑顔を浮かべて隊員たちの傍に歩み寄る。
だから、隊員たちを連れてきたのだ。これはルイスの計画的犯行なのだ。
かわいい子羊の目の前でルイスは、口を開く。

「言い難い事なんだけどね、シルバーマン少尉は、実はさ・・・、」
「!!!!!!!、・・・っ」

彼の言いたいことは、唯一つ『死体を見たら、貧血で倒れる』位だろう。
ルイスの服を思いっきり引っ張り、隊員たちの傍から引き離す。
勢い余ったルイスは、そのまま後ろに倒れこんで尻餅を付き、

「うっわっ!!!お前、なに急に?!」

少し眉間に皺を寄せながら、未だに自分の服を掴んでいる手を振り払って立ち上がり、こちらを睨む。
ええっと、その訝しいルイスの視線を尻目に、コホンと一度咳払いして口を開く。

「もちろん見学はOKだ。見学によってお前達も違った研修も受けられることになる、だろルイス?」
「・・・はは、そうだねぇ・・・。」
「今から研究棟の方へと向かう。皆早く片付けを行い十分後に倉庫前に集合すること!以上」
「・・・ははは、」

隊長らしい偉そうなこと言って、自分の弱みをかき消そうとしているのがばれない様に。
勢いで言ってしまった事だが、これはこれで本当に新人隊員の研修になるであろう。
ルイスの乾いた笑いがなんとも気にはなるが、それはしょうがない。
この隊長たちのやり取りを見て、少し目を白黒していた新人達だったが、ジャンの一言に大きくYesと返事をして皆騒がしく動き回るのであった。





/////////////////////////////////////////////////////////////////




さてさて、言いだしっぺの本人ルイスは、後門の前に止めたままになっている車を駐車場に止めてから見学室に行くということで、別れて行動をすることになった。

上司からの指示という事もあり、急ぎついでに研究棟のある建物へと皆でぞろぞろと歩いていく。
この見た目、正直に言うと今日の任務のように子供の学校の社会見学のようだと考えてしまう。
思ったとおりに周囲の目は好奇に満ち、それと同じく同僚達が『金魚の糞がくっ付いてくるぞ』やら、『先生』やらと、好き勝手言ってくる。
自分が、研修の係になったなった場合に同じように言われることなんて考えていない。


倉庫から研究棟はそれほど遠く離れてはいない。


研究棟は、兵舎の中心部にあり診療所や執務室などの隣に位置している。
その周りを取り囲むように位置をしている兵舎には、銃撃隊や色々な隊の部屋や資料室などがあり、
倉庫の目の前にあるその兵舎を介して、研究棟へと入っていく。数分と掛からない。
白衣に身を包んだ研究員や検視官、調査部隊などがいる研究棟。
ジャンのように銃撃など戦闘を任務にしている者にはそんなに用事の無い場所で、あまり入室したことの無い場所で、
今更ながら入室の際に、空気を噴出してゴミを飛ばし殺菌処理を受けて通ることなども久しぶり過ぎて、この順序であっているのだろうか?と、緊張しながら中へ入っていく。
どこまでも真っ白な廊下、この場所も殺菌されているのだろう。
耳鳴りだと勘違いしそうな小さい音が、天井から振ってくる。
この小さな音も以前上司が言っていたが、壁の上方と天井との隙間に同じく空気清浄装置の音であると言うことであった。
さすが軍の設備、どこまでも徹底した管理である。

砂漠での研修の後なのでもしそのまま入って来たとしたら、そこら中に砂が飛び散っているところであろうが空気のゴミ噴出装置と殺菌処理によって綺麗にされたのだろう。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央