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表と裏の狭間には 四話―初陣―

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「気をつけてください。住宅街のような無数の交差点のある地域での戦闘は基本的に布陣の読み合いです。相手がどのように動くか、回り込んでくるかを考え、こちらは更にそれを先読みするように動く。仲間との連携も大切です。この端末には発信機昨日もついていて、戦場での仲間の配置を見ることが出来ます。配置から敵の位置を予測し、そこから敵が移動するルートを予測、それを先回りして待ち伏せするのです。今回は僕がサポートします。こちらへ。」
真壁は早口でそう言うと移動を始めた。
腰を低くし、曲がり角では必ず全方位を確認し、常に前後を確認しつつ移動する。
俺もそれに倣って後をついていく。
その間も銃撃は続いている。
時たま悲鳴が聞こえてくるのは、敵のものだろうか。味方のものだろうか。
たとえどっちだとしても、人が死んでいるのかと思うと、正直ゾッとする。
こんな『本格的』な交戦に参加するのは初めてだ。
だからなのか?
だから俺はこんなに―――怯えているのか?
「大丈夫ですよ。」
と、そんな事を考えていると、真壁が声をかけてきた。
「別に初めてだからというわけではありません。」
どうやら俺が怯えているのに気付いていたらしい。
「僕も、何度経験しても慣れる空気ではありません。ゆりさんや煌さんたちも同じでしょう。少なくとも、我々が慣れるべき空気ではありませんよ。ですが、仕事はきちんとしないと―――ねっ!」
真壁は俺の方に向けて銃を撃った。
いや、俺の後ろへ向けて、だ。
「ぐぁっ…………!」
俺の後ろで人が倒れる気配がした。
振り向くと、そこではスーツ姿の男が腕を押さえて蹲っていた。
「こちらへ。敵が来ます。」
俺たちは曲がり角の奥に隠れた。
その刹那、先ほどの通りから、『おい、どうした!』という、男の声が聞こえてきた。
同時に複数の足音も迫ってくる。
「囲まれる前に、先制しますか。」
真壁は曲がり角から腕と銃だけを出して、適当に発砲した。
バン、バン、と。
大きな音が響く。
射撃場(勿論アークの非公式のものだ)で嫌というほど聞いた音だが、こうも緊張した状態で聞くと、なんと言うか、印象が違う。
ああ、これは本当に人を殺す兵器なんだ、と思い知らされる。
「すいません、そちらの通りを警戒して頂いていいでしょうか?」
「ああ。」
ここの路地はそれほど長くなく、すぐそこに反対側の通りがある。
俺はそちらを警戒する。
すると、銃撃をこなしながら、真壁がまた話しかけてきた。
「こういった銃撃戦は、基本的にタイミングの読み合いです。こちらが一度に放てる弾丸には限りがあります。我々の場合は15発です。これをどのようなタイミングで撃つかによって戦法は変わってきます。間髪いれずに撃ち相手を牽制するもよし。」
そこで弾が尽きたのだろう。こちら側に身を潜める。
すると入れ替わりに、向こうから銃撃してきた。
「しばらく間を空けて、相手を誘い出すもよし。ただし、注意しないと向こうが銃撃してくることがあります。また、こうして適度なタイミングで銃撃を返さないと、」
真壁はまた、腕だけを出して適当に発砲した。
すると、『ぐあっ』という呻き声が聞こえた。
「こうして接近されることもあります。」
言いながら、素早く短機関銃(サブマシンガン)を取り出す。
敵の呻き声に反応し、一瞬銃撃が途切れた隙を狙って、真壁は躍り出る。
そのまま短機関銃をぶっ放す。
ドガガガガガガ、という連射音と共に、カランカラン、という薬莢が地面に落ちる音が響く。
「紫苑君、そちらに敵はいますか!?」
短機関銃を連射しながら訊いて来る真壁。
「いや、いないぞ!!」
真壁はそれを聞くと連射を切り上げ、こちらへ飛び込んでくる。
端末を素早く確認し、それだけで敵味方の配置を把握したのだろう。『こちらです!』と通りに躍り出る。
そのまま素早く別の路地に飛び込む。
真壁はそのまま反対側の通りを確認する。
すると、通りの先で誰かと争っているらしきスーツ姿の男たちがいた。
路地から身を乗り出し銃を撃っているその男たちは、よっぽど必至なのかこちらを警戒していない。
ババババババ!と、真壁は迷うことなく短機関銃の引き金を引く。
『グァツ!』『なんだと……!』と、男たちはばたばたと倒れる。
「んな……!」
俺が驚いていると、それをフォローするかのように、
「暴力団員というのは、大抵防弾チョッキやその代わりとなるものを着ています。短機関銃程度の威力では、手足は撃ち抜けても胴体に致命的なダメージを与える事はできません。彼らは別に死んでいるわけではありませんので、安心してください。」
と、真壁が言った。
そして、俺たちが入ってきた方の通りからは、別の男の呻き声が聞こえてきた。
「無事!?」
この声は………。
「ゆりさんのチームのようですね。流石、いいタイミングで助けに来てくれるものです。」
路地に入り込んで来たのはゆりだった。
「無事みたいね。一応聞くけど、怪我はない?」
「ありませんよ。」
「紫苑君は?」
「俺も無事だ。」
「一応、こっちには敵はいないようだな。」
最後に入って来たのは煌だった。
「無事なようだな、紫苑。」
「まあ、なんとかね。」
俺は、溜息を吐いた。
何だかんだといいつつ、真壁にあれだけサポートしてもらっておきながら、ゆりたちの姿を見て安心した。
「こことここにいるって事は―――」
「―――ここに来る可能性が大きいかと。」
「だったらここで―――」
ゆりと煌、真壁でなにやら話しているが、俺には今一内容が分からない。
「味方が敵をこっちに追い込んでくるわ。あたしたちはそれを迎撃する。あたしと煌は向こうで待機するから、真壁君と紫苑君はここで待機。いいわね?」
「了解しました。」
「分かった。」
そのままゆりは通りの奥まで消えていき、その後動きがあるまで俺たちは待機していた。
それでよかった。
ああ。それまでは良かったんだよ。
ここでこのまま、戦いが終わってさえくれれば。
だが、俺がうっかり入り込んじまったこの世界は、そんなに甘くなかった。
いや、甘くなかったのはこの世界、表と裏を含めた全ての世界だったのかも知れない。

銃声が次第に聞こえてきた。
端末に、ゆりから連絡が入った。
『そろそろ来るわよ。一気に攻めるわ。よろしく。』
それだけ言って、ぶつりと切れたが。
真壁はもうすぐ敵が来るはずの方角の通りを確認していた。
程なく敵――玖羅死組の連中が来て、戦闘が始まった。
俺は後ろの方を警戒しており、前は真壁に任せていた。
「一つ下がってください!押し切られます!」
真壁のその声を聞くと同時に通りへ飛び出し、そのまま手近な路地へ。
だが。
その時、俺の視界の中に、映ってはならないものが映ってしまっていた。
いや、映ってほしくなかったもの、といったほうが正確か。
それは。
表通りからこちらのほうへ歩いてくる、蓮華の姿だった。
「真壁!!蓮華だ!こっちにくるぞ!」
「何ですって!?」
真壁の動揺した声。
真壁は端末で誰かに『迷い込んだ民間人を発見!保護するのでフォロー頼む!』と連絡した後こっちへ来る。
「名前は出さないで下さい。何があっても。」
「え?」
「我々の存在は知られてはならないんですから!」