表と裏の狭間には 四話―初陣―
六月のある日。
学校が終わって帰宅する途中のことである。
俺の携帯にこんなメールが舞い込んだ。
『件名:SOS団召集
本分:部室に来なさい。五秒以内よ!』
………合図なのは分かるが、五秒以内ってのは流石に無理だぜ。
そしてあの団長に似てるって自覚はあったんだな。
という訳で、俺はアーク関東支部の拠点へと進路を変更するのであった。
「いきなりどうした?」
拠点に入り、制服に着替えてからいつもの部屋へ。
するとそこには、既に俺以外の六人が全員集まっていた。
「遅いわよ!」
「悪かったな。」
適当に謝りながら椅子に座る。
「私たちに戦闘の要請が来たわ。」
………来たのか。
「今回の作戦は、18時ジャストに始まる戦闘の支援。ある程度時間が経過してから戦地へ行くわ。つまり増援よ。」
なるほどな。
ちなみに現在時刻は17時57分。そろそろ戦闘が始まる時間だ。
「戦地のデータはそれぞれの端末に転送してあるわ。各自、確認して。」
言われて俺は、自分の端末を確認する。
そして、絶句した。
「ここって――」
「そう。今回の戦場は、私たちの通う光坂学園高等学校、そのすぐ傍よ。」
「じゃあ、作戦の詳しい話を聞かせて欲しいっすね。」
輝はいつの間にか食っていた大福を食べ終わるとそう言って、ヘッドフォンを外した。
外した!?
「そんなに驚くこともないっしょ。真面目な話するときは普通に外すし。」
「そうだったのか………。」
つまりそれをつけてるときは真面目に聞いてないんだな。
「今回の相手は手ごわいわよ。玖羅死組の本隊とぶつかる予定だから。」
「……玖羅死組ですか。またどうして突然?」
アーク入団以降、暴力団やマフィア関連の書類は読んだから、ある程度の知識はある。
玖羅死組は、この近辺きっての巨大組織だ。
人員はもとより所持している武器の質もかなり良く、統制の取れた良質な組織だという。
「玖羅死組の組長がその時間………今か。今学校の付近を通りかかるのよ。それを襲撃するってワケ。………まあどこから情報が漏れたのか、本隊が組長の周囲を固めてるんだけどね。」
「それは大変なの。少なくとも、本隊だけでも数で圧倒しなければ勝利の確約は出来ないの。」
「そんなこと分かってるわよ。この近辺にいるうちの人員30人くらい投入してるみたいよ。あたしたちが時間を置いて出向くのも数で押す作戦の一環よ。埼玉とか神奈川の方からも増援が向かってきてるわ。」
「なるほどね。で?わっちらはどういう風に動くわけ?」
「待て待て。その前に、この時間帯なら生徒の下校時刻だろうが。どうするんだ?」
「巻き込まないように気を配るしかないわね。基本的に戦闘は裏路地でのみ行われるから特に問題ないとは思うんだけど………。」
「それもあるが。顔を見られたらどうするんだ?」
「それなら大丈夫よ。紫苑にはまだ渡してなかったわね。はい。」
そう言ってゆりは俺に何かを投げてきた。
キャッチして、見てみると…………。
何だこれ?
黒い…………ガスマスク?
「何だこれは?」
「ガスマスクよ。」
「そんな事は見りゃ分かる!!何でこれを渡されるんだって聞いてるんだ!!」
「ああ、前回の作戦では必要なかったもんね。」
ああ必要なかったよ。ガスマスクが必要になる作戦なんてないしな!
「あたしたちの戦闘ではガス系の武器の使用が許可されているのよ。催眠ガスや催涙ガスなんかがね。毒ガスは流石に使えないけど。」
当たり前だ!!味方や周囲の一般人もまとめて殺す気か!?
「ガスマスクは顔を見られないようにするためと、ガスを気兼ねなく使用できるようにするためよ。これからの作戦のときはこれを付けなさいね。」
はいはい。
黒い作業着に黒いガスマスク………なんか銀行強盗みたいな装備だな………。
俺がそんな風にブルーになっていても、話はどんどん進んでいく。
「今回は場所が場所だし、それに相手との戦い方もあるから、二人一組で行動するわ。」
「二人一組って、一人多いぞ?」
「あたしと煌、輝と耀、礼慈と理子で組むわ。」
「……紫苑さんはどうなさるつもりですか?」
「だから一人呼んだのよ。入って。」
「失礼します。」
そう言われて入ってきたのは。
「真壁!?」
真壁だった。
「真壁君には今日だけ特別にうちの班に入ってもらったわ。紫苑君は真壁君と行動して頂戴。」
「まあ……いいけどね。それより、二人一組で行動って、具体的にはどうするんだ?」
「そうね。これを見て。」
部屋のスクリーンに、マップが表示される。
「あ、データが来てるわね。いい?今アークの部隊はこことこことここに展開してるわ。対する玖羅死組の部隊はここにいる。」
マップ上の配置を見ると、一箇所に固まってる玖羅死組の部隊を囲むようにアークの部隊が展開している。
「それで、あたしたち、あたしと煌はここ、輝と耀はここ、礼慈と理子はここ、紫苑君と真壁君はここに行くのよ。」
「ここに?」
提示されたのは玖羅死組の背後を取るような布陣であった。
「他にも外からの増援がこの辺に配される予定よ。私たちはここから少しずつ狙っていく予定よ。そして少しずつ追い詰めて、玖羅死組の長を、」
討つ。
ゆりは、そう言った。
「討つって。殺す気なのか?」
殺すのか………?
「あたしには分からないわ。それは上が決めることだから。」
俺はほとんどこの組織に慣れたが、そうやって人を殺すところは未だに慣れないな。
「あたしだって慣れないわよ。でも、あたしたちに決定権は無いわ。上が殺せって言ったら、殺すしかないのよ。」
ほとんど軍隊だな。
「そろそろ頃合ね。行くわよ!!」
『おう!!』
全員が同時に応じた。
少なくとも仲間のために戦う気は満々なんだよね。
で。
装甲車で戦場に送られて今に至る。
装甲車とは言っても見た目は普通のバンだ。
ただ、鉄板やガラスの厚さはどう見ても銃撃を想定した装甲車仕様と言えよう。
待て。
何かおかしいだろう。
仮にも民間の組織だろう?アークってさ。
何で装甲車なんて装備があるんだ?
「あたしたちは大抵の装備は持ってるわよ。装甲車くらいなら自作できるし。」
………全国規模で展開してるって言ってたけど、結構、いやかなり大きな組織なのかな?
遠くから銃声と思しき音が聞こえている。
「じゃあ、ここからは作戦通りに行くわよ。グッドラック!」
その掛け声と共に俺たちは四組に分かれた。
銃声がだんだんと大きくなり、人の怒声が聞こえてきた。
「こっちですね。」
真壁に案内されて移動し、曲がり角から通りを覗うと。
そこには、スーツ姿の明らかに『その手』の男たちと、体格もバラバラな黒い作業着に黒いガスマスクの集団が銃で撃ち合っているという、非常にシュールな光景が展開されていた。
「………実際に戦っているのを見ると、どうしても笑いたくなってしまうんだが。」
「別にあなたの感性が壊れているわけではありませんよ。そのうち慣れます。それより。こちらからも援護しないと。」
そういうと真壁は銃を撃ち始めた。
すると向こうはこちらに俺たちがいるのに気付いたようで、こちらにも銃弾が飛んできた。
学校が終わって帰宅する途中のことである。
俺の携帯にこんなメールが舞い込んだ。
『件名:SOS団召集
本分:部室に来なさい。五秒以内よ!』
………合図なのは分かるが、五秒以内ってのは流石に無理だぜ。
そしてあの団長に似てるって自覚はあったんだな。
という訳で、俺はアーク関東支部の拠点へと進路を変更するのであった。
「いきなりどうした?」
拠点に入り、制服に着替えてからいつもの部屋へ。
するとそこには、既に俺以外の六人が全員集まっていた。
「遅いわよ!」
「悪かったな。」
適当に謝りながら椅子に座る。
「私たちに戦闘の要請が来たわ。」
………来たのか。
「今回の作戦は、18時ジャストに始まる戦闘の支援。ある程度時間が経過してから戦地へ行くわ。つまり増援よ。」
なるほどな。
ちなみに現在時刻は17時57分。そろそろ戦闘が始まる時間だ。
「戦地のデータはそれぞれの端末に転送してあるわ。各自、確認して。」
言われて俺は、自分の端末を確認する。
そして、絶句した。
「ここって――」
「そう。今回の戦場は、私たちの通う光坂学園高等学校、そのすぐ傍よ。」
「じゃあ、作戦の詳しい話を聞かせて欲しいっすね。」
輝はいつの間にか食っていた大福を食べ終わるとそう言って、ヘッドフォンを外した。
外した!?
「そんなに驚くこともないっしょ。真面目な話するときは普通に外すし。」
「そうだったのか………。」
つまりそれをつけてるときは真面目に聞いてないんだな。
「今回の相手は手ごわいわよ。玖羅死組の本隊とぶつかる予定だから。」
「……玖羅死組ですか。またどうして突然?」
アーク入団以降、暴力団やマフィア関連の書類は読んだから、ある程度の知識はある。
玖羅死組は、この近辺きっての巨大組織だ。
人員はもとより所持している武器の質もかなり良く、統制の取れた良質な組織だという。
「玖羅死組の組長がその時間………今か。今学校の付近を通りかかるのよ。それを襲撃するってワケ。………まあどこから情報が漏れたのか、本隊が組長の周囲を固めてるんだけどね。」
「それは大変なの。少なくとも、本隊だけでも数で圧倒しなければ勝利の確約は出来ないの。」
「そんなこと分かってるわよ。この近辺にいるうちの人員30人くらい投入してるみたいよ。あたしたちが時間を置いて出向くのも数で押す作戦の一環よ。埼玉とか神奈川の方からも増援が向かってきてるわ。」
「なるほどね。で?わっちらはどういう風に動くわけ?」
「待て待て。その前に、この時間帯なら生徒の下校時刻だろうが。どうするんだ?」
「巻き込まないように気を配るしかないわね。基本的に戦闘は裏路地でのみ行われるから特に問題ないとは思うんだけど………。」
「それもあるが。顔を見られたらどうするんだ?」
「それなら大丈夫よ。紫苑にはまだ渡してなかったわね。はい。」
そう言ってゆりは俺に何かを投げてきた。
キャッチして、見てみると…………。
何だこれ?
黒い…………ガスマスク?
「何だこれは?」
「ガスマスクよ。」
「そんな事は見りゃ分かる!!何でこれを渡されるんだって聞いてるんだ!!」
「ああ、前回の作戦では必要なかったもんね。」
ああ必要なかったよ。ガスマスクが必要になる作戦なんてないしな!
「あたしたちの戦闘ではガス系の武器の使用が許可されているのよ。催眠ガスや催涙ガスなんかがね。毒ガスは流石に使えないけど。」
当たり前だ!!味方や周囲の一般人もまとめて殺す気か!?
「ガスマスクは顔を見られないようにするためと、ガスを気兼ねなく使用できるようにするためよ。これからの作戦のときはこれを付けなさいね。」
はいはい。
黒い作業着に黒いガスマスク………なんか銀行強盗みたいな装備だな………。
俺がそんな風にブルーになっていても、話はどんどん進んでいく。
「今回は場所が場所だし、それに相手との戦い方もあるから、二人一組で行動するわ。」
「二人一組って、一人多いぞ?」
「あたしと煌、輝と耀、礼慈と理子で組むわ。」
「……紫苑さんはどうなさるつもりですか?」
「だから一人呼んだのよ。入って。」
「失礼します。」
そう言われて入ってきたのは。
「真壁!?」
真壁だった。
「真壁君には今日だけ特別にうちの班に入ってもらったわ。紫苑君は真壁君と行動して頂戴。」
「まあ……いいけどね。それより、二人一組で行動って、具体的にはどうするんだ?」
「そうね。これを見て。」
部屋のスクリーンに、マップが表示される。
「あ、データが来てるわね。いい?今アークの部隊はこことこことここに展開してるわ。対する玖羅死組の部隊はここにいる。」
マップ上の配置を見ると、一箇所に固まってる玖羅死組の部隊を囲むようにアークの部隊が展開している。
「それで、あたしたち、あたしと煌はここ、輝と耀はここ、礼慈と理子はここ、紫苑君と真壁君はここに行くのよ。」
「ここに?」
提示されたのは玖羅死組の背後を取るような布陣であった。
「他にも外からの増援がこの辺に配される予定よ。私たちはここから少しずつ狙っていく予定よ。そして少しずつ追い詰めて、玖羅死組の長を、」
討つ。
ゆりは、そう言った。
「討つって。殺す気なのか?」
殺すのか………?
「あたしには分からないわ。それは上が決めることだから。」
俺はほとんどこの組織に慣れたが、そうやって人を殺すところは未だに慣れないな。
「あたしだって慣れないわよ。でも、あたしたちに決定権は無いわ。上が殺せって言ったら、殺すしかないのよ。」
ほとんど軍隊だな。
「そろそろ頃合ね。行くわよ!!」
『おう!!』
全員が同時に応じた。
少なくとも仲間のために戦う気は満々なんだよね。
で。
装甲車で戦場に送られて今に至る。
装甲車とは言っても見た目は普通のバンだ。
ただ、鉄板やガラスの厚さはどう見ても銃撃を想定した装甲車仕様と言えよう。
待て。
何かおかしいだろう。
仮にも民間の組織だろう?アークってさ。
何で装甲車なんて装備があるんだ?
「あたしたちは大抵の装備は持ってるわよ。装甲車くらいなら自作できるし。」
………全国規模で展開してるって言ってたけど、結構、いやかなり大きな組織なのかな?
遠くから銃声と思しき音が聞こえている。
「じゃあ、ここからは作戦通りに行くわよ。グッドラック!」
その掛け声と共に俺たちは四組に分かれた。
銃声がだんだんと大きくなり、人の怒声が聞こえてきた。
「こっちですね。」
真壁に案内されて移動し、曲がり角から通りを覗うと。
そこには、スーツ姿の明らかに『その手』の男たちと、体格もバラバラな黒い作業着に黒いガスマスクの集団が銃で撃ち合っているという、非常にシュールな光景が展開されていた。
「………実際に戦っているのを見ると、どうしても笑いたくなってしまうんだが。」
「別にあなたの感性が壊れているわけではありませんよ。そのうち慣れます。それより。こちらからも援護しないと。」
そういうと真壁は銃を撃ち始めた。
すると向こうはこちらに俺たちがいるのに気付いたようで、こちらにも銃弾が飛んできた。
作品名:表と裏の狭間には 四話―初陣― 作家名:零崎