【第六回 ・四】On泉
【関係者以外立ち入り禁止】と書かれた戸を開け長く続く廊下から少し横に入ると小さな出入り口に長い暖簾がかかっていた
「へー…へー…」
南がもの珍しそうにあちこちを見ながら歩く
「俺旅館の裏側見たのはじめて…」
中島も南同様足元から天井壁などをもの珍しそうに見る
「俺旅館の人って旅館に住んでるのかと思ってた…」
京助が言うと南と中島が頷いた
「ほれ、足元気ぃつけんよ?」
坂田婆が戸を開けて手招きする
「おじゃましまー…」
中島が坂田に続いて中に入る
いかにも老夫婦が暮らしていますという少しレトロで懐かしい家の中
温度計のついた木彫りの熊の置物の横には【登別熊牧場】の文字
「なぁ明日帰るとき時間あるなら俺熊かにゃんまげに会いたい」
南が手を上げて言った
「天気よかったらな」
坂田が靴を脱いで家に上がると京助達もソレに続く
「奥の座敷にたぶんいるとおもうから。婆はお菓子持ってくるからな」
そう言って坂田婆が反対方向に歩いていく
「こっち」
坂田が坂田婆とは反対方向に足を進める
少し線香の匂いがする茶の間を横切って旅館が見える廊下を歩く
「爺」
ガラッと木でできたすこし重そうな引き戸を開けると石油ストーブにかけられたヤカンがシュンシュンと音を立てていた
「深弦か」
紺色のドテラを着た少し白髪の生え方が少ない痩せ型の男性が背中を向けたまま坂田の名前を呼んだ
「…なんだよ;」
京助と中島、南と緊那羅が無言のまま坂田を見た
「…そういや」
「お前」
「深弦っていうんだっけな…」
「一瞬誰のことかわからなかったっちゃ…;」
四人が言う
「…お前等な…;じゃぁ南と中島はどうなんだ?」
坂田が中島と南を指差して言う
「朔夜と」
中島が南を指差す
「柚汰」
南が中島を指差す
「んで京助」
南と中島が京助を指差しながら答えた
「…なんで俺の名前だけ忘れてるか」
坂田が両手ブッチャーを中島と南にかました
「戸、閉めんかい」
坂田爺がタンの絡んだような声で言うと緊那羅が慌てて戸を閉めた
「よくきたな深弦」
読んでいた雑誌のようなものを閉じて坂田爺が振り向いた
「またエロ本か?」
坂田が座ると京助達も各々に腰を下ろした
「俺はホレ、こ赤いビキニの子いいとおもうんだがよ」
坂田爺が嬉しそうに一旦は閉じた雑誌を開いて坂田に見せた
「爺ちゃん若いねー」
南が笑う
「まだま下も現役だがね!!」
坂田爺が自分の股間を叩いた
「健全な中学生にこんなん見せていーんかい」
坂田が笑いながら坂田爺に突っ込む
「元気そうだな」
雑誌を座布団の下に隠しながら坂田爺が笑う
「爺もな」
坂田が坂田爺の肩を叩いた
「お前外人さんのガールフレンドなんかどうやって作ったんだ? 爺にも教えろ?」
坂田爺が坂田に聞く
「いやアレは…」
おそらく緊那羅のことだろうと思った坂田が緊那羅を見てすこし考えた後京助を見てニヤリと笑った
作品名:【第六回 ・四】On泉 作家名:島原あゆむ