【第六回 ・四】On泉
「そういや先行くとか言ってたヤツ…」
南がカラカラと浴場への引き戸を開けると湯気がもわっと出てきた
「のぼせてるんじゃないのか?」
ザーッという音が響いている浴場の中に中島の声も響いた
「いんや…ソコで元気に打たれてますヨ~…」
いつもは顔の前に垂らしている長い前髪の一部も頭に巻いたタオルの中に突っ込んでいるのか耳についている飾りだけが打たせ湯の勢いに軽く揺れて迦楼羅が気持ちよさそうに湯に打たれていた
「じじくさー…」
南がぼそっと言う
「馬ッ鹿!! 地味に気持ちいいんだぞアレ!! 修行もできるし」
「何の修行だよ;」
坂田が主張した後 迦楼羅の隣に並んで湯に打たれ始めた
「お前なかなか味のわかる輩のようだな」
迦楼羅が坂田に言う
「俺も温泉とかには結構うるさいんでね」
坂田が首をコキコキ鳴らした
「若年寄りが二人並んですまし顔~」
南がおひなさまの替歌を歌いながら風呂椅子に腰掛けてシャワーを出した
「うわーひっろー!!!」
高い壁の向こう側は男子の夢の花園女湯らしくさっき別れた慧喜の声が響いて聞こえた
「慧喜さん走るところ…わっ!!;」
続いて聞こえた悠助の声と何かに驚いた声
「…コケたか悠…」
髪をぬらしたまま京助が壁を見た
「でもドターンとかガシャーンとか聞こえてこないってことは…」
中島が自慢のスネ毛の生えた足をガシガシと洗いながら言う
「悠助のほうが気をつけないと」
慧喜の声が聞こえた
「…抱き留め?」
南と京助そして中島がハモって言う
「裸で」
京助が言う
「女体に」
南が言う
「抱き留められた…」
中島が言う
「羨まッ!!」
そして三人して一斉にそう言ってシャワーを浴び始めた
「京助京助!! 外にも風呂あるっちゃ!!」
緊那羅が嬉しそうに外を指差した
「あぁ…露天だろ? 行ってこいよ」
顔面にシャワーをかけながら京助が言う
「気をつけてねラムちゃん~行くまでが寒いから」
南が髪をオールバックにまとめて耳に入ったらしい水を掻き出そうとタオルに方耳を当てて頭を揺らしながら言った
「ぇ…寒い…んだっちゃ?;」
露天に繋がる通路を見ながら緊那羅が考え込んだ
「当たり前だろ外だし;」
シャワーを止めた京助が立ち上がった
「前隠せ前; 丁度俺の目の前じゃん;」
中島が京助の尻を叩いた
「何を今更同じもんついてるくせに」
ヘッと笑いながら京助が腰にタオルを巻いた
「…アイツらいつまで打たれてる気だ?;」
同じく立ち上がった中島が腰にタオルをつけながら今だ打たせ湯に打たれてほけぇ~っと気持ちよさそうにしている坂田と迦楼羅を見た
「…行動そろってるねぇ;」
ほぼ同時に溜息を吐いた坂田と迦楼羅を見て南が言った
「うへぇええー!!;」
露天に繋がる通路を緊那羅が変な声を上げて駆け抜け湯気の立つ露天風呂の中に足を突っ込んだ
「寒い寒い寒いさむーいっ!!;」
そして肩まで一気に浸かる
「ほぅ…;」
チラチラと舞い落ちてくる雪を見上げて緊那羅が一息ついた
「静かに入ってこれないの?」
肩にタオルを掛けて腰から下だけが湯の中に入ってる矜羯羅が言う
「だって寒かったんだっちゃ…;」
矜羯羅(こんがら)とは対照的にに顎までお湯に浸かった緊那羅が小さく言う
「…むいのも露天の醍醐味って中島が言ってた」
すぃーっと泳ぐようにして制多迦が緊那羅に近づく
「…うすけは?」
潜ったのか髪全体が濡れている制多迦が悠助の姿を探す
「悠は慧喜と向こう側」
後から来た京助と中島がざばざばとお湯の中に入って来た
「…こう? あの壁の?」
竹製の仕切りを指差して制多迦が聞く
「そー男児禁制の夢の花園女湯」
中島が湯に沈むとスネ毛が湯の中でゆらゆら揺れた
作品名:【第六回 ・四】On泉 作家名:島原あゆむ