【第六回 ・四】On泉
事の始まりは三日前に遡りその日の放課後
「なぁお前等今度の土日祝日三連休ヒマ?」
一呼吸で一気に聞いてきた坂田に靴を持ったままで南と中島そして京助が顔を見合わせた
「…先に君がどうして俺らの三連休の予定を知りたがっているのかお聞きした後にお答えいたしましょう?」
中島が靴を玄関の床に落として履きながら言った
「温泉行かね?」
坂田が言うとまたも南と中島んでもって京助が顔を見合わせた
「温泉?」
京助が聞く
「そう」
坂田が答える
「何でまた」
南も聞く
「母さん方の実家に正月行かなかったから遊びに来いって」
坂田が答える
「俺らも行っていいのか?」
中島が聞く
「駄目なら誘わんつーの;母さんもオヤジも柴田も行けないから俺一人で行ってもナァって…来るのか?来ないのか?山ン中だから何もねぇけど」
坂田そう言いながらが靴を履いて体を起した
「なんなら緊那羅とか悠とか慧喜?だかもいいぞ?…ハルミさんも」
「…お前今最後の【ハルミさん】だけ声のテンション違ったぞ…;母さんは無理かなァ;仕事あるだろうし…緊那羅とかなら…」
鞄を背負いなおして京助が言う
「ん~…まぁ明日か明後日くらいまでに返事くれや。送迎バス付だから金の心配はしなくてOKだしよ」
坂田が生徒玄関の戸を開ける
「温泉かァ…湯煙…混浴…卓球…」
南が温泉と聞いて思い浮かぶワードを次々にあげていく
「温泉卵、温泉饅頭、露天風呂…」
中島も南に続く
「いいねぇ…」
ホゥっと白い息を吐いて京助が言うと南と中島が頷く
「特に予定もないですし」
南が言うと京助と中島が頷く
「金も要らないとおっしゃってますし」
中島が言うと京助と南が頷く
「行っちゃいますか」
そして三人揃って坂田に言った
「そうこなくっちゃ」
笑いながら携帯を取り出し坂田がどこかにメールを送った
「男ばっかりてのが寂しいけどな」
中島が言う
「えきっちゃん来るかな~?京助」
南が京助の肩を叩いた
「悠が来るって言やぁ駄目だ言ってもくるだろうさ;」
京助が口の端を上げて言う
「あ、そうだ坂田」
携帯を開いたまま返信を待っているらしい坂田に京助が声を掛けた
「…もしかしたらだけど…人数…が…」
京助が躊躇いがちにごにょごにょ言う
「…人数? …あぁ!!; オッケオッケ! わかった」
坂田にはそれだけで通じたらしく再度メールをどこかに送った
「人数?」
理解できなかった南が疑問系に言う
「…できればちょっと変わった服装と特技ありますってことも宜しくお伝えくださいませ;」
京助が深々と頭を下げて言うと南と中島にも理解できたのか納得したような表情をした
「お宅も大変ですわねぇ」
中島が京助の肩を叩くと京助が横を向いてフッと苦笑いで息を吐いた
「坂田と一緒にいるあの男の人が来ないなら行きたいっちゃ」
「悠助が行くなら俺も行く」
栄野家の居候の返事はこんな感じだった
「同行決定な」
京助がティッショで作ったこよりを鼻の中に入れて故意にクシャミを出した
「温泉っていいわねぇ…迷惑かけないようにね?」
案の定仕事だからといって断った母ハルミが湯飲みを両手で持って言った
「んじゃ坂田に電話しとく」
立ち上がった京助が電話の子機を持ちふと止まった
「…やっぱ…なんか…人数増加しそうな気がモリモリ…」
ボソッというと緊那羅のほうを振り返った
「?なんだっちゃ?」
きょとんとした顔をした緊那羅が京助を見る
「…思うに鳥類や乾闥婆とか矜羯羅とか制多迦っていっつーもタイミングよく現れるけどお前ら連絡とかしてんの?」
【お前等】とひとくくりにされた慧喜と緊那羅が少し顔を見合わせて首を横に振った
「じゃぁなんだ…偶然?」
京助が子機を持ったまま聞く
「…にしてはちょっとなぁ…」
ピッピッと音を鳴らしながら京助は親指で短縮登録されている坂田家の番号を押した
作品名:【第六回 ・四】On泉 作家名:島原あゆむ