【第六回 ・四】On泉
「…はぁ」
脱衣場の片隅で背中で結んである布を解きながら乾闥婆が溜息をつく
ガラッ!!!!
勢いよくあいた戸に大きな目を更に大きくして乾闥婆が驚いた
「よっしゃ!! やるか!!」
【五十嵐亭】とかかれたタオルを肩に掛けた坂田爺が大声で脱衣場にはいってきたかと思うとなんの躊躇いもなくポイポイと服を脱ぎ全裸になった
「爺…マンモスくらい隠せ;」
後からノロノロ続いて入って来た坂田が呆れたように言う
「同じもんついてるだろうか!!! ホレホレ!! いくど!!」
そのまま大股で浴場へ向う坂田爺の尻を見て坂田ががっくり肩を落とした
「…何の…騒ぎですか?」
一旦は解きかけた背中の布を再度結びなおした乾闥婆が聞く
「あれ? まだ入ってなかったのか?」
京助が聞くと乾闥婆が頷く
「これから…入ろうとしていたのですが…」
乾闥婆が困ったような顔で黙り込んだ
「…また後からにします」
くるっと回れ右をして出口に向う乾闥婆の腕を坂田が掴んだ
「逃がすか戦力」
「は?」
腕をつかまれたまま乾闥婆が疑問系の声を出した
「戦力…?」
坂田の手を振り払って乾闥婆が聞く
「実はな…」
京助が口を開いた
「嫌です」
一通り説明を聞いた乾闥婆が笑顔で即答した
「いったでしょう?僕は静かに入るのが好きなんです」
乾闥婆が再び出口の方に体を向けた
「そこをなんとかーッ!!」
中島が出口に立った
「頼む!!; お願い!!; 俺らあがったばっかりでたぶんすぐのぼせるッ!!;」
南が乾闥婆にすがりつく
「い・や・で・す」
乾闥婆がすがり付いている南を引きずって尚も出口に向おうとする
「たーのーむー;」
南に続いて坂田も乾闥婆に抱きついた
「はなしてくださいッ!!;」
乾闥婆が坂田と南にチョップを食らわせたが坂田も南も一向に放してくれる様子がない
「いいじゃん; 風呂入るくらいさー」
京助が言う
「嫌なものは嫌なんです!!! いい加減にしてくださいッ!!」
乾闥婆が珍しく怒鳴った
「男同士じゃーんッ!! ってか俺らとけんちゃんの仲じゃーん!!」
南が乾闥婆によじ登るようにして抱きつく
「どんな仲ですかッ!! 放してくださいっ!いい加減怒りますよッ!!!;」
必死に抵抗する乾闥婆(けんだっぱ)に中島もついに参戦した
「頼むってッ!!; ただ入ってるだけでいいんだからいいじゃん;」
中島が乾闥婆に両手を掴んで宥めながら頼む
「俺を助けてけんちゃーん!!;」
坂田が更にすがりつく
「…コレは俺も参加したほういい?」
京助が乾闥婆に聞く
「しなくていですッ!!!!;」
「カマン京助!!」
南と乾闥婆の声が被った
「どっちやねん…」
京助が口の端を上げて言った
「放してくださいってばッ!!;」
3馬鹿に押さえつけられ助けを求められている乾闥婆が必死に抵抗する
作品名:【第六回 ・四】On泉 作家名:島原あゆむ