人間嫌いと教授の歌
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――――嘘でしょ?
目の前にある現実を私の脳が受け止めきれない。
私の手からお弁当の入ったコンビニの袋が抜け落ちて、ドサッて言う音共に地面とクラッシュした。
いつものように公園に向かうと、教授が市の職員っぽい人達に連れて行かれる所だった。それを遠巻きに見ている主婦連合。ヒソヒソと聞こえてくるその会話から察するに、教授を気味悪がった主婦たちは愛する旦那様達にご報告。旦那様連合は教授を精神的に疾患があると決めつけて、そんな危ない人間が近所にいたら困る! うちの子に何かあったらどうするんだ! とお役所に息まいたらしい。結果、今まさに教授はどこか冷たい世界へ連れ去られようとしている真っ最中――――
「教授!」
主婦連合達に対する怒りはとりあえずしまっておいて、私は教授の元へと駆け出した。
背後から主婦連合の「いやぁね」「またあの子よ」と言った学校の連中と変わらないトーンの声が私に突き刺さる。構うもんか。あいつらなんて嫌いなんだから。嫌いな人間に非難されるのは誇りなんだから!
「教授!」
私はもう一度大きな声を出した。教授は両脇を職員に挟まれながらも立ち止まって、そして私を視界に入れると、いつもの調子でにやっと笑った。
「7だぞ? 分かるだろ? な? な? な?」
「うん、神様なんだ! 7は神様!」
私がそう言うと、教授は満足そうに微笑んだ。教授のボサボサに伸びきった髭や固まった髪の毛が人間の罪全てを背負って殺されたイエス・キリストみたいに見える。ああ、教授は殉教するんだ。自分の信じる神様の為に……!
私がそんな風に思っていると、今度は網袋を持った職員達が何やら騒いでいるのが目に入った。あれって……もしかして……。