【第六回・参】大菓の改心
時計の針が午後十時を示した
「さって…風呂にでも入るかな」
くぁあと大きな欠伸をして京助が首をポキポキ鳴らす
「アンタで最後だからお風呂の電源落としてきてね?」
母ハルミがテレビを見ながら言った
「ヘイヘイ…っと慧喜?」
タオル片手に茶の間から出ようとした京助が戸をあけたところにたっていた慧喜(えき)に多少驚く
「悠は?」
京助が慧喜を茶の間に入れた
「悠助は寝たよ…ハルミママ様」
京助の質問に答えたあと慧喜が母ハルミに話しかけた
「なぁに?」
にっこりと笑顔で返事をした母ハルミの隣に慧喜が座った
「あのね…チョコ…ってどうやって作るの?」
慧喜が母ハルミを真っ直ぐ見て聞いた
「チョコ? …あぁ!! もうすぐバレンタインだものね」
母ハルミが笑った
「そうねぇ…久々に作ってみましょうか」
そう言った母ハルミの顔は青い春の頃に戻ったようにイキイキとしていた
「悠にか?」
京助が戸口に立ったまま言う
「うん」
慧喜がキッパリと即答した
「あらあら」
慧喜の即答に何故か母ハルミが嬉しそうに笑った
「お前本当に悠好きなんだな」
ヘッと口の端をあげて言った京助に慧喜が大きく頷いた
「好きだよ? 大好き…だって悠助は…」
「うっわ; びっくりしたっちゃ;」
茶の間に入ろうと戸を開けたところに京助がいて驚いた緊那羅の言葉で慧喜の言葉が途切れた
「わりぃ;」
京助が緊那羅に謝りながら廊下に出る
「電源忘れないでよー?」
母ハルミが少し大きな声で京助に向かって言った
「何の話してるんだっちゃ?」
戸を閉めて緊那羅が慧喜の隣に腰を下ろした
「バレ何たらっていうチョコをあげる話」
慧喜が答える
「本当は何だか違う日らしいんだけど…日本じゃ好きな人にチョコをあげる日になってるのよね~2月14日って」
母ハルミが笑った
「慧喜は悠助に?」
緊那羅が言うと慧喜が頷く
「俺悠助好きだもん」
慧喜が迷いもなくはっきりと言い切った
「…悠助…俺を好きだって言ってくれた…」
俯いて慧喜が小さく言った
「今まで誰からも言われた事がなかったんだ…好きなんて…好きだって言われて…俺…」
慧喜が照れくさそうにでも嬉しそうに何かを思い出して微笑む
「嬉しかったんだ…好きって言われてこんなに嬉しいものなんだって…初めて悠助が俺を見つけてくれた様な気がして…だから俺は悠助が好き…大好き」
緊那羅と母ハルミがそう嬉しそうな話す慧喜を笑みを浮かべながら見ていた
「矜羯羅様と制多迦様は俺を拾ってくれたから好きだけど…悠助はもっと好き」
母ハルミが組んだ手に顎を乗せて慧喜の話を聞いている
「俺…悠助が笑って俺の名前を呼んでくれるのが凄く嬉しくて悠助が俺のそばにいてくれるのも嬉しくて」
「ありがとう」
母ハルミが微笑みながら言った
作品名:【第六回・参】大菓の改心 作家名:島原あゆむ