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表と裏の狭間には 二話―裏側との邂逅―

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「まずは自己紹介からいきましょう。あたしは楓ゆり。二年生よ。よろしくね。」
ポニーテイル、勝気そうなつり目などなど、顔を構成する要素がとある女子高生団長に似すぎている彼女はそう名乗った。
「僕は星砂輝(かがや)。一年生。」
そう名乗ったのはへらへらとした笑みを浮かべている少年だ。ヘッドフォンも健在だが、会話が本当に成り立つのか?
「……ぼくは蘭崎礼慈。以後よろしく。一年。」
と言ったのは俺の後ろに立っていた長ランの少年。何かメッチャ欠伸とかしてるけど、半分寝てるんじゃないの?
「オレは星砂煌。二年だ。よろしくな。」
煌と名乗ったのは大柄な不良っぽい少年。金髪といい改造制服といい十字架のアクセサリーといい、何から何まで不良だ。
「わっちは宵宮理子。一年よ。よろしくね。」
そう言ったのは制服の上からでもわかる高水準の体、それに反してあどけなさの残る顔の少女だ。見るからに純粋な笑みは、ついつい見蕩れても仕方ないと思う。
「私、星砂耀(かがよ)。一年生なの。よろしくお願いします。」
「ほら、あなたも名乗りなさい。」
促されて、俺も名乗る。
「えっと、柊紫苑です。樹木の柊に、花の紫苑。よろしくお願いします。」
ってよろしくするつもりねーのに!
「さて、何から説明したものか……。」
「……まず、我々のことを知っているかどうかを問うべきでは?」
「そうね。ねえあなた、アークって知ってる?」
アーク?どこかで聞いたような……って、ああ。
「都市伝説のアレだろ?一般人が武装してヤクザやマフィアと戦ってる、っつーやつ。」
「はぁ……やっぱりその程度か。」
その程度?どういうことだ?
「今から説明するわ。いい?よく聞くのよ。」
聞くしかないだろうが。
「あたしたちは、あたしたちこそが、アークよ。」
は?
何を言っているんだ?こいつ。
「都市伝説とされているアークだけど、それは実在する組織。あたしたちは武器をとって、日々非合法組織と戦っている。」
……痛い子、なのだろうか?
「そんなわけないでしょ!」
「まったく。疑うことしか出来ないとは、とんだ低脳ですね。」
言いつつ、輝くんはいつの間にか飲み終えていたココアの缶を、俺のほうに投げた。
おいおい、どうしろって――
「これでもまだ信じられない?」
端的に説明しよう。
俺のほうへ放物線を描いて飛んできていた空き缶は、突如として横方向へ軌道を修正、俺の視界から消えた。
同時に、部屋の中に、乾いたような、気の抜けたような爆音が鳴り響き、独特のにおいが俺の嗅覚を刺激した。
それはおそらく、銃声と呼ばれる音で、火薬が燃えたにおいだったのだろう。
「は?」
「あなた鈍いわねー。」
そう言う楓さんの手には、いつの間にか、鉄の塊が握られていて、そこから一筋の煙が立ち上っていた。
それは、『拳銃』と呼ばれる代物だったり、するのだろうか。
「はぁ!?」
「やっと思考が追いついたようだな。」
煌さんが呆れたような声で言う。
「……これで分かったでしょう。僕たちはアークの人間です。あなたは昨日、我々、アーク関東支部の拠点を探り当てたのです。さて、そんなあなたに質問ですが、」
なんてこった。
たまたま買い物の帰りに寄った路地の奥にあったビル。
隠されたそのビルからほうほうの体で逃げ帰ってみれば、翌日同じ場所に連れ込まれ、同じ部屋の中で発砲されている。
「……あなた、どこの組織の人間です?」
………は?
「組織?何のことだ?」
「……ここら一帯は我々が作った場所でしてね。路地の構造は至って複雑、一般人が辿り着けるはずはないのですよ。」
「いや、だからって俺がどこかの組織に所属してるって疑うのはおかしいだろ。俺はただの一般人だ。」
そうだよ。さっきのだって、実はモデルガンだったかもしれないじゃないか。
音は火薬でなんとかなる。弾の威力だって、火薬の応用でなんとかなる。
「ふーん、ただの一般人、ねぇ。」
楓さんは、そう言って俺に銃口を向けた。
「さっさと白状しちゃったほうが、いいんじゃないの?」
白状?何をだ?俺は銃を向けられるようなこと、何かしたか?
「…………。」
ダァンッ!と。
弾丸は俺の顔の横を掠めて、背後の壁に突き刺さった。
「おい、ゆり。あまり部屋を傷つけると始末書書く羽目になるぞ。」
「別にいいわ。それよりも事の真偽を確かめるほうが先でしょ。」
再び、俺に銃口が向く。
いや。
冷静ぶって今まで実況してたけどさ。
無理無理無理無理無理無理無理無理!
だからどうして何で俺はこんな銃を向けられ更に発砲され囲まれ尋問されああもうなにがどうなって俺が何かしたか東京か東京に来たのがやはり間違いだったのか!?
「どこの所属?さっさと白状してよ。」
そう言う楓さんの目は、洞のように空っぽで、冷たかった。
そして、彼女は、引き金を――
「へぇ。言えないの。じゃ、死んで。」
――引いた。

「…………は?」

死んだかと思った。
だが、生きてる。
「ふん。本当にただの一般人だったみたいね。」
「ゆり、その一般人にここまでしたんだ。どうするんだ?」
「……仲間に引き入れるか、殺すかの二択しかないのでは?」
「一般人殺すってのも寝覚めが悪いわね。そもそも上から許可が下りるかしら?」
「テメェら。」
俺は、怒りに震えた。
恐怖、驚愕それら全てが、怒りに変換されていく。
「一般人疑いまくって銃を向けてしかも発砲した挙句間違えましたで謝罪も無しかよ!?しかも殺すとかなんとか一体なんなんだよ!!」
「………あたしは上に報告して指示を仰ぐわ。あなたたちで説明お願い。」
「……了解しました。紫苑さん、こちらへ。」
俺は促されて、渋々座る。
「……紫苑さん。我々はアークという組織に所属しています。それは先ほど言いましたよね?」
「だからそのアークってのは何なんだよ。」
「……その前に。現在の日本では、過去と比べて暴力団やマフィアといった非合法組織が活発に活動しているというのはご存知ですか?」
「………いや。」
「……四十年ほど前、ある一つの暴力団が誕生しました。耀、資料。」
「はい。」
耀さんが、一枚の紙を持ってきた。
「これです。読んでみてください。」
そこにはこう書かれていた。
『聖邪鬼(せいじゃき)組
発足:1970年
現在では日本最大の暴力団組織である。
この組の台頭と同時に、日本国内における暴力団、マフィア等非合法組織の数が飛躍的に増大。
この組による改革が原因と思われる。』
「……この組の発足以後、日本国内では暴力団やマフィアといった非合法組織が暗躍を開始します。それまでとその後では大きな隔たりがあるほどです。まるで地層のようにね。」
「それで?」
「……30年ほど前、その事態を憂いた若者が、ある組織を立ち上げました。それが、アーク。」
礼慈という少年は語る。
「……最初は学生のみで構成されたグループで、大した力を持ってはいませんでした。が、創始者たちが大人になるにつれ、政界との結びつきが持たれ、次第に力をつけていった。同時に組織は隠匿され、世間では都市伝説として扱われるようになった。そして今。アークは非合法組織を狩る機関として、世界の裏側にこうして存在しているのです。」