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WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

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「……その……。学校……行ってなくて……」
 視線を合わす事無く、少年が呟いた。
“パンッ!!”
 と、突然、航が手を叩いた。
「何だ!?」
 ビックリした慎太郎が胸を押さえている。
「“藤森”!!」
 航が少年を指差す。
「“藤森”くん!!」
 航の呼び掛けに、
「……はい……」
 少年が返事をする。
「A組! 俺と一緒!!」
「え?」
 驚く少年と、
「あぁ!」
 頷く慎太郎。
「しかも、俺の前の席!」
 “クラスメートやん♪”と少年の手を取り、またもやブンブンと振り回す。
「俺、“堀越 航”。ほんで、こっちが“飯島 慎太郎”。シンタロはB組」
 ペコリと頭を下げ合う慎太郎と少年。
 向こうから、聴き覚えのあるギターが聴こえてくる。
「学校で会えるんやな」
 向こうを気にしつつ、航が携帯を取り出しピポピポと操作し始めた。
「現国・数A・世界史・物理・体育・化学」
 携帯画面を少年に差出して、航が笑顔を向ける。
「……?……」
「月曜の時間割! 知らんやろ?」
「……うん……」
 少年が画面を記憶する。
 “向こうに行かなきゃならないから……”と前置きして、
「月曜。学校でなっ!」
 航と慎太郎が手を振り、【吟遊の木立】メインストリートの真ん中へと急ぎ足で歩き出す。
「……ほ……」
 今まで俯き加減だった少年が顔を上げ、
「堀越くん! 飯島くん!」
 歩いて行く二人の後ろ姿に目一杯の声を張り上げた。
「僕、“藤森 奏”!!」
 振り返った二人が大きく手を振り、少年が……笑った。
  

「ママ! 二年生の教科書、どこ?」
 その日の夜。藤森家。
 二階の自分の部屋から駆け下りながら、奏がリビングにいる母に声を掛ける。
「どうしたの?」
 大きな声出して……、と笑う母。
「高校の、二年生の教科書は?」
 てっきり自分の部屋にあるものだと思っていた奏が、まるで大切な物を失くしたかのように慌てている。
「屋根裏に片付けてあるけど、どうし……」
「屋根裏だね。分かった!」
 母の問い掛けなど耳に入らぬ様子で、上へと戻って行く奏を見て、
「どうしたのかしらね……」
 母はクスクスと笑うのだった。
 ――― 「教科書、探してたんだって?」
 半時間後、夕飯のテーブルを囲んで父が奏に問い掛けた。
「……うん」
「調べ物か?」
 更に問う父に、
「……んーん……」
 口の中の物を飲み込んで、奏が首を振る。
「それがね、パパ……」
 黙ったまま食べ続ける奏を見て、クスクスと嬉しそうに笑いながら母が答えた。
「月曜日、学校に行くんですってよ」
「え!?」
 驚いて食べ物を詰めそうになり、慌ててお茶で流し込む父。それを見て、奏が唇を尖らせる。
「……そんなに驚かなくったって……」
「だって、お前。あんなにイヤがってたのに」
「お友達が出来たのよ。ね?」
 父のお茶のおかわりを注ぎながら、母が笑っている。
「……友達……じゃ、ないけど……」
「あら、そうなの?」
「だって、別れ際に月曜の時間割ムリヤリ見せられて、“学校で!”って言われて、名前まで……」
 必死に言い訳している息子を見て、父と母が顔を見合わせた。
「“ムリヤリ”?」
「……いや、“強引”かな……」
「名前、聞いたのか?」
「……あっちが勝手に……。あ! でも、向こうは僕の名前知ってて……」
「どうして?」
「……同じクラスだからって……。だから、月曜くらい行っておくのが礼儀かな、って……」
 “礼儀”にしては、随分と必死に教科書を探していたわね、と母が笑う。
「……だって、教科書なしじゃ、学校、行けないし……」
「で、その、クラスメートの名前は?」
「堀越くん」
「あら!」
 食事中の母の手が止まる。
「航くんと慎太郎くん?」
「う……うん」
「なんだい、ママ。知ってるのかい?」
「えぇ。以前言ったでしょう? ウチの学園祭で歌った男の子達」
「あぁ! “ハーモニーが絶妙”って言ってた?」
「ウチの校内じゃ、そこいらのアイドルより人気者よ。今年のライブは、招待客扱いになりそうな位」
 そして、笑顔を息子に向ける。
「毎週、公園まで会いに行ってたの?」
「ち、違うよ! 今日、たまたま、見掛けて……」
 奏が慌てて首を振るが、何もかもお見通しのような母の笑顔。
「ま、学校へ行くきっかけが見付かって良かったじゃないか」
「月曜だけだってば!」
「はいはい」
「月曜日だけ、ね」
 面白そうに笑う両親を見て、奏が膨れっ面でご飯を口に入れた。

  
 週明けて、月曜日。
「奏! 送って行くから、乗りなさい!」
 自分の出勤ついでに母を勤務先の桜林高校へ送るのが日課になっている父が、制服に着替え終わった奏に声を掛けてきた。
「いいよ。目立つから」
 校門に車を横付け……。確かに、目立つ。
「せめて、駅まででも……」
 駅まで歩いて十五分。そこから電車で四駅。さらにバスで五分程行った所に高校がある。
「平気だよ」
 この時間なら、ゆっくり歩いて行っても間に合うし、電車もバスも空いている。
「第一、ママの学校と逆方向だしさ」
 笑顔の奏に対して、心配そうな顔の両親。やれやれ……と奏が溜息をつく。
「じゃ、駅まで乗っていこうかな」
 その言葉に両親の顔がみるみる安堵の笑顔に変わっていくのを見て、奏は車の後部座席に乗り込んだ。

  
 結局、『駅』まで乗せてもらった。……と言っても、家からの最寄駅ではなく、学校の最寄駅まで。駅前のバス停からほんの五分ほどの通学時間で学校へと到着した。
「……これを“過保護”って言うんだろうな……」
 両親の愛情をひしひしと感じながら、大勢の生徒に紛れて一年振りの校門をくぐる。散ってしまった桜の木が、葉桜になってしまった己を誇っているかのように風にその葉を揺らしている。
「教室……三階だっけ……」
 屋根裏で見付けた二年生の教科書の束の中に、担任の先生の物だと思われるメモ書きが挟まれていたのを思い出す。
【藤森奏さま 
  二年生の教室は、三階です。
   一度、顔を見せに来てください。】
 学年が変わってから、一度も手にした事のなかった教科書の束。メモを挟んだ先生の事を思うと、ちょっぴり胸が痛んだ。
 校庭を歩ききってくつ箱の並んでいる正面玄関へと辿り着く。辺りを見回し、【2年】と銘打たれた場所を見つけてそこへと向かう。A組だったら、端の筈だ。ズラリと並んだ靴のロッカー。順に視線を進めて行くと、ポツンと空っぽのロッカーがあった。校内履きの運動靴すら入っていないロッカー。きっと、ここが自分の場所だと、カバンの中から運動靴を出し、履いてきた革靴をそこにしまう。一瞬、職員室に顔を出そうか……と思うが、今日しか来ないのであれば必要ないな、と考え直して、そのまま階段を上がった。三階まで来て、左右を確認。各々の教室の入り口にあるクラスプレートを見て、端の方へと向かう。A組の向かい側がB組。開けられた廊下側の窓に、
「いやいや! そこは、俺の活躍でだな!!」