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WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

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「じゃ、“十七才”と“恋せよ乙女”と“ふたり”。三曲連続で……」
 半年振りの“十七才”と“恋せよ乙女”、三ヶ月振りの“ふたり”。久し振りなのに、指先が演奏を覚えていて難なくこなせた。三曲終わったところで、落ち着きを取り戻した二人が演奏順序を思い出す。
「……先に予定外の三曲が終わっちゃったんで……」
 言いつつ、航を振り返る。
「どうする? 削る?」
「予定通りでええよ、俺」
 頭に三曲追加した形でそのまま本来のライブへと曲を戻し、ラスト二曲という頃には、聴衆は始めた頃の三倍近くに膨らんでいた。
「えっと……。この春から、誰かの曲ばっかりじゃどうしようもないって事で、色々とジタバタしながら、二人で曲を作ってみました。まだ慣れてないので、聴き辛いかもしれないんですけど……」
「シンタロ……。それ、哀しい……」
 謙遜だか自虐だかの慎太郎の言葉に航が突っ込み、周りから笑いが零れる。
「初披露になります。“僕らの革命”」
  
  ♪ たとえば……
  
 二人の声で始まり、
  
  ♪ 左足から 靴をはいてみる
  
 慎太郎の声で進行していく、新しい歌。
  
  ♪ 家を出たら……
  
 少し軽快で、
  
  ♪ 風と一緒に 学校へ GO!
  
 思いっきり前向きな歌。
  
  ♪ ポケットには いつも 
  
 歌っている慎太郎と航が、顔を見合わせ笑い合う。
  
  ♪ あふれそうになる“夢”詰め込んで
  
 リズムを刻む二人の足に合わせて、いつの間にやら手拍子が始まる。
  
  ♪ ほんの小さな裏切りで
  
 “誰か”の言葉じゃなく、“二人”の等身大の言葉。
  
  ♪ 僕らの明日は 変わるんだ
  
 みんなの笑顔が、“言葉”が届いた事を教えてくれる。
  
  ♪ きっと……
  
 湧き上がる拍手に、安心したように微笑み合い、そのまま頭を下げる二人。
 そして、顔を上げ、一番後ろにいる少年に気付く。
「……俺、あいつ、知ってる……」
 航の小さな囁きに、
「……俺も、知ってる……」
 慎太郎が頷き返す。が、今はまだライブの途中だ。“終わったら、捕まえよう”と目と目で頷き合う。
「次も作ったんですけど……。これ以上は作れなくて。でも、一番最初に作った歌なので、これは外せないなって事で……。ワンコーラスしかないんですけど、聴いて下さい」
 ペコリと頭を下げ、朝ライブでのラストの曲を弾き始める。
  
  ♪ 顔をあげて
  
 周りの年齢が近い所為だろうか?
  
  ♪ 僕らの声が聴こえますか?
  
 慎太郎の声に、朝ほどの緊張感はない。
  
  ♪ 見上げた空はどこまでも
  
 Bメロから重なる航の高音に、聴衆から改めて感嘆の声が漏れる。
  
  ♪ だから メロディ 風にのせ
  
 無理のない旋律に、心地良く響く二人の声。
  
  ♪ 僕らの想いが 君に届きますように……
  
 増えた聴衆。それに比例して拍手も大きくなっていた。
「ありがとうございました!」
 深々と頭を下げた二人が嬉しそうに微笑む。
「良かったら、来週も聴きに来て下さい!」
 再び深々と頭を下げ、散っていく人々をその場で見送る。去り際に手を振るミカ達にヒョコッと頭を下げ、今となってはその“脅威の情報網”に感謝だ。
 そして、さっき見かけた少年の姿を探す。
「病院で会うた事あんねん。コケそうになった時、助けてくれてんか……」
 額に手をかざして背伸びをしながら、航が呟く。
「もっと前に会ってるよ」
「え?」
「最初にここに見学に来た時と、お前が……」
 慎太郎が言葉を詰まらせ、
「俺?」
 航が首を傾げる。
「……お前が……倒れた時。駅で助けてくれた……」
「そうなん!?」
 頷く慎太郎。
「ほな、絶対、捕まえんとアカンやん!!」
 航がより一層、背伸びをする。
「いた!!」
 航が指差す先には、丁度背を向けた少年の姿。
「待って!!」
 航の声に、歩き出そうとしていた少年の足が止まった。
「帰るの、ちょっと待って!!」
 散っていく聴衆の間を縫って航が駆け出す。少年が不思議そうにこちらを見ている。慎太郎はギターとその場に立ち止まったままだ。
「……僕……?」
 自分を指差し首を傾げる少年。その少年の腕を掴んで航が頷く。
「俺、いっぱい助けてもろてるのに、お礼、言うてへんから」
 その腕を掴んだまま、
「な! シンタロ!!」
 航が慎太郎を振り返る。慎太郎の横には若林氏。何やら慎太郎に手渡し、そのまま“いいから!”と去って行った。そんな氏に頭を下げ、慎太郎が手にした物を航と少年に掲げて見せる。
「……缶ジュース、三本……?」
 ジュースを三人分用意して、若林氏は気を利かせて席を外してくれたようだ。
「俺と、シンタロと、自分の分もあるんやから、帰らんといてな」
 幼子のような笑顔を向けて航が少年の腕を引く。
「……でも……。僕……あの……」
 突然掴まれた腕に少年が戸惑っている。
「航!」
 後ろのギターを気にしながら、慎太郎が近付いてきた。
「相手の都合ってのを考えろよ」
 “悪ぃな!”と少年に謝りながら、航に缶ジュースを一本差し出す。
「ごめん」
 航が少年の腕を離す。
「なんか用事ある?」
 慎太郎から自分の分のミルクティーを受け取り、航が少年の顔を覗き込んだ。
「……いや……無い……です」
 差し出されたレモンティーの缶を受け取り、“ありがとう”と少年が頭を下げ、そのまま、ギターの所へ戻る二人に付いて歩く。
「とりあえず、どっか座ろ♪」
 ギターケースを肩に掛け航が笑顔を向け、
「いつもンとこ?」
 訊きながら、慎太郎がいつものベンチへと歩き出した。慎太郎を先頭に、航と航に片手を取られた少年が歩く。
  ――――――――――――
「え? 同い年やん!!」
 “ありがとう!”を山のように言った後、聞いた年齢に航が声を上げた。
「一コか二コ、上やと思た」
 少年のその落ち着きに自分達より年上だと思ったのだ。
「どこの高校?」
 興味深々で訊く航の問いに、小さな声で少年が答える。
「……若葉中央……」
「一緒やんっ!!」
 少年の手を取り、ブンブンと振る航。その隣で慎太郎が首を傾げている。
「……何組?」
 コーヒーの缶の上の顔を不敵に歪め、慎太郎が訊いた。同じ高校・同じ学年。でも、見かけた事がない。
「……え、と……その……」
 言葉を濁す少年。
「シンタロ?」
 航が慎太郎を振り返る。
「四クラスしかないんだぜ。なのに、見た事がない。本当に“若葉中央”か?」
 何度も助けて貰った。それは感謝している。でも、それとこれとは話が別だ。
「……嘘……なん?」
 航が少年の顔を心配そうに覗き込む。
「……僕……」
 航に首を振りながら少年が答えた。まるで懇願するかのような瞳に、慎太郎が表情を緩める。
「責めるつもりじゃないんだ。ただ、“恩人”だと思ってる人間に嘘はつかれたくないから……」
 ……その“嘘”で、航が傷付くかもしれない……。
「若葉中央高校だよ。嘘じゃない。ただ……」
「“ただ”?」
「……何組か、分からない……」
 慎太郎と航が顔を見合わせる。