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WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

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「お前、ワンコーラスなのに、三ヶ所も間違ったろ?」
「気ぃ付いてたん?」
「ったり前だ、バ〜カ」
 ペロリと舌を出した航と慎太郎が尚も笑っている。と、
「なんだね、なんだね!」
 若林氏が片手をバタつかせて割り込んできた。
「“午後”もやるのかい? “二曲”って、自作の曲も増えるのかい?」
 その言葉に二人して顔を見合わせる。
 ……そう言えば、言ってなかった……。
「一番初めは、午後からやったんです。だから、タイミング見計らって、午後からもやりたいな……って」
「午後やと、客層が変わるんです。それはそれで、朝と反応がどう違うかも見てみたいな思て……」
 朝早くでは、なかなか賑やかな曲は出来ない。そんな事も含めて、どれだけの人がどんな風に見てくれるのか……はたまた、見てはもらえないのか……色々試してみたいのだ。
「何時からやるんだね? 場所は、いつもの所かい?」
 若林氏、来る気満々である。
「一時頃から」
 その時間だと、終わってから小田嶋氏に会いに行ける。
「場所は、来てみん事にはなんとも……」
 来たその時に空いている場所でやるのだ。
「よしっ!!」
 若林氏が気合を入れるかの如く、声を上げた。
「自治会の会議をサッサと終わらせて、なんとしてでも、君達を探してみせる!」
「若林さん!?」
 驚く慎太郎の隣で、
「そんなに気合入れんでも」
 航がクスクスと笑った。
「何言っとる! 唯一の“趣味”兼“楽しみ”なんだから、意地でも聴きに行くさ!」
 ウインクひとつ。嬉しそうに頭を下げる二人をベンチに残し、若林氏は自治会をスムーズに進行させる為の書類を作りに、急いで家路へつくのだった。
  
 
 そのまま近くのファストフード店に入り込み、打合せとムダ話と昼食をそこで済ませ、一時前に公園へと戻ってきた二人。
「流石に多いな……」
 慎太郎がザッと見渡して呟いた。あちらこちらに点在する人だかり。演奏する者もそれを聴きに来ている者もかなりの人数だ。
「場所、空いてへんなぁ……」
 額に手をかざして、背伸びをしつつ辺りを見回す航。
「朝の場所に行ってみるか?」
「そーやな」
 向かい風に前髪を吹き上げられながら、毎朝の定位置へと歩いていくが、手前まで来た時に聴こえてきた演奏に足が止まった。
「先客、居てるやん……」
 思った通りの結果に、顔を見合わせて苦笑い。
「戻って、どっか空くまで待つか?」
「うん」
 そして、回れ右をする。と、
「あ!」
 後ろにいた女子の固まりにぶつかりそうになって、
「すみません」
 慌てて避けつつ、二人揃ってペコリと頭を下げる。そのまま、女子とすれ違ってメインストリートへ戻る道を戻って行く。
「……シンタロ……」
 歩きながら、航が後ろをチラチラと気にしている。
「なんか、背後が、重い……」
 ぶつかりそうになってすれ違った筈の女子の固まりが、そのまま少し離れて二人の後をついて来ている気がして、二人揃って足を止め、振り返った。急な出来事に目が合い、
「……ども……」
 なんとなくヒョコと頭を下げる。
「……五・六人いたぞ……」
 小声の慎太郎に、航が頷く。
「……なんやろ? 知ってる顔、居てへんかったで」
「誰かと間違ってんのかな?」
「意外と、俺等のファンやったりして……」
 その言葉に二人揃って“ないない”と手をパタパタ。そしてメインストリートへと戻って来た。グルリと見回すが、どこも空きそうにない。
「どーする?」
 溜息混じりに航が慎太郎を見上げた。
「あ!」
 クリスマスの時に急遽ライブをやった“立ち木の周りを囲っている木製の囲い”が目に入る。たった今まで、そこに腰掛け話し込んでいたペアが移動したのだ。
「グッドタイミング?」
 その場所を小さく指し示しながら慎太郎が航に問いかけ、航が笑いながら頷く。行き交う人の間をぬってその場所を目指す二人。その後ろを女子の固まりが追い駆ける。
「シンタロ! ……増えてる!」
 チラリと後ろを見た航が、慎太郎のギターケースを突付きながら小声で訴えた。その様子に慎太郎も後ろをチラリ。確かに、五・六人だった固まりが十人を少し超えている。
「……なんなんだ?」
「……知らんわい!」
 首を傾げながらも目的の場所に到着し、ケースを置いてギターを出す。女子の団体はそんな二人を囲むように、その場に輪を作った。
「……俺等……?」
「……みてーだぞ……」
 そして、慎太郎がブルースハープを取り出したその時、慎太郎の携帯が震えた。ポケットから取り出して見ると、着信、『木綿花』。片手で航に“待って”と合図し、後ろを向いて受話器模様のキーを押す。
「なんだよ!?」
 勿論、小声。
『ごめ〜ん!』
 木綿花はどうやら部活中らしい。
『“今日、午後からもやるらしいよ”って、うっかりミカに言ったって言ったっけ?』
 航も慎太郎の携帯に耳を近づけている。
「聞いてねーよ!」
『とりあえず、ミカが行くかも』
「は?」
 顔を上げて見回すと、輪の一番外側に、ミカ・ユカリ・マユミの三人の姿。
「来てるけど……。それだけ?」
『うん。……どうかしたの?』
 木綿花が不思議そうな声を上げた。
「……なんか、変な状況になってんだけど……」
『ふーん……』
 首を傾げているような声の後、
『あ!』
 木綿花の声が笑い声に変わる。
『もしかしたら、ウチの学校の子が何人か行くかもよ』
「なんで?」
『文化祭の後、結構、聞かれたもん。あんた達の事。ミカって、情報網凄いから、覚悟しときなさいね!』
 クスクス笑いながら通話が切れ、一瞬、顔を見合わせた慎太郎と航がミカ達の方を見る。と、笑い合っていた三人が、各々の携帯をチラリと上げてみせた。
「……桜林の女子……?」
「……脅威の情報網……」
 自分達を取り囲む女子をチラリと見て、二人同時に肩を竦める。ま、経過はどうあれ、自分達の為に集まってくれているのだ。ないがしろには出来ない。ギターのストラップを肩に掛け、二人揃ってペコリと頭を下げると、言葉もなく……言葉の代わりにギターと小さなハーモニカの音が響きだす。曲は勿論“秋桜の丘”。
 辺り一面に咲くコスモスの花をハーモニカとギターの風が優しく揺らしていく。……そんな幻覚が見えるかのようだ。
 やがて曲が終わり、二人揃って頭を下げる。目の前には両手の指の数程の女子達。
「……桜林……の、女子?」
 恐る恐るな慎太郎の小さな問い掛けに、ほぼ全員が無言で頷き返した。
「えっと……」
 一応、曲目は決めて来たのだが、妙な成り行きに記憶が飛んでしまって思わず航を振り返る。エヘヘと笑い返してくるその笑顔に、航も同じなのだと気付く。
「これって決めてきた曲順がちょっと吹っ飛んじゃって……。えっと……」
 と、一番後ろにいる三人にそれとなく視線を持っていく。
「何か、聴きたいの、ありますか?」
 今日、ストラ初体験の桜林の生徒は、去年の桜林祭で演奏した“十七才”と“恋せよ乙女”しか二人の演奏を知らない筈だ。とりあえず、その二曲と……。
「“ふたり”、聴きたーい!」
 最後列の三人の声が響く。自治会のクリスマス会でチラリと歌い、今年の初めのライブで披露した曲だ。