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WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

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 同時に目を開けた二人を見た祖父が、“パン!”“パン!”と続けざまに二人の頬を叩いた。
『このアホたれがっ!!』
 あまりの突然な出来事に、歌織と紗雪が呆気にとられる。
『危ないさかいに、来たらアカンって言うたやろ! みんなにどんだけ迷惑かけたか、分かってんのか!? みんながどんだけ心配してくれはったか、お前らは……』
 言葉の途中で祖父が二人を抱き締めた。
『……無事で良かった……』
 その涙声に、
『ごめんなさい!』
『ごめんなさい!』
 ただ驚いていただけの二人が泣き出した。


「あの時、おじさんがかおちゃんと同じようにうちの事も心配してくれたんが嬉しゅうて……」
 クスクスと笑いながら紗雪が続ける。
「かおちゃんと“姉妹の誓い”立てたんえ」
 猪口家の子供は紗雪だけだった。また、石川家の子供も歌織だけだったのだ。
「次の日、建勲神社行って“健やかなるときも病めるときも……”って。婚礼やら宗教やら、なんも知らんかったさかいに、もうめちゃくちゃやな」
 兄弟のいない仲良し二人は、この日から“友達”ではなく“姉妹”になったのだ。
「そやからな、おじさん。帆波ちゃんは、うちの姪なんや」
 そう言って、紗雪は祖父母の手を握り締めた。
  ――――――――――――

  
 二人揃って、規則的に並ぶ外灯の光の向こうの様子を伺う。
 背伸びをしていた航が、
「あれかな?」
 通りの向こうを曲がってきたヘッドライトを指差した。車体の上部に見える小さな明かりはタクシーのそれである。迫ってくるライトに二人が身体を壁際に寄せると、スピードを落としたタクシーが目の前で止まった。
「航くん! 帆波は!?」
 降りてきた智行が、物凄い勢いで航に詰め寄ってきた。
「居るよ」
「中か?」
「うん。奥の客間」
「おおきに!」
 と、駆け出そうとした智行の腕を航が掴む。
「何があったん?」
「説明は後や!」
 “堪忍な”と航の手を腕から外し、智行は堀越宅へと駆け込んだ。

  
「何も心配しなくていいのよ。お祖父さんだってお祖母さんだっているんだし。航くんも慎太郎も、勿論、私も」
 ようやく泣き止んだ帆波の肩に手を置いて、香澄が身を屈める。
「……でも……」
「私もね、同じ事で苦しんだの」
「え?」
「でもね、決心した時、それまで反対していた母や姉が力を貸してくれた」
「……ちゃんと、出来るやろか?」
「大丈夫! 慎太郎、いい子でしょ?」
 香澄が誇らし気に微笑み、
「えぇ」
 帆波が、腹部にそっと手を当てて頷いた。

  
  ――――――――――――
「紗雪ちゃん、ホンマにかまへんのか?」
「帆波では、帯問屋の女将さんはとてもやないけど……」
「イヤやわ、おじさん、おばさん」
 右手をパタパタと振って、紗雪が祖母の言葉を否定する。
「帆波ちゃん以外に、誰が智行の面倒見れますのん?」
 そう言いながら、タンスの上に飾ってある歌織の家族の写真を見る。
「うちらに子供が生まれたら、うちらみたいに、兄弟として育てよなって言うてたんえ。もし、男の子と女の子やったら、結婚させよなって……」
 母親同士の密かな約束。子供の意思は無視である。
「そしたら、二人が高校の時に“付き合うてる”って。もう、うちら大喜びどしたわ。これで、うちら、ホンマに姉妹やなぁって」
 その六年後、事故が起こった。
「智行がどこまで本気なんか、あの事故で分かったんどす。帆波ちゃんがずっと寝たきりになってしもうて……。それでも、傍にいたい言うて、あの子、反対する主人を説き伏せたんどすえ」
 “いや、もう、凛々しゅうて……”と祖父母に微笑む。
「その時から、智行のお嫁さんは帆波ちゃんって、家族みんなが思てます」
「紗雪ちゃん。おおきに!」
 祖父母が深々と頭を下げた。
  ――――――――――――

  
「……ここに来て……良かった……」
 涙を拭いながら帆波が微笑む。
「慎太郎くんのお母さん、うちの母に似てるって航が言うてたんです」
「あら!」
「ホンマに似てはる……」
「まっ!」
 両手で頬を包んで喜ぶ香澄を見て、帆波がクスッと笑った。
「おばさんの方が数段お若いですけど。……おばさんの事、“お母さん”って呼んでもええやろか?」
 帆波の言葉に“勿論よ”と香澄が頷く。
「こんなキレイな娘が出来て、嬉しいわ♪」
 その無邪気な微笑みに、
「ホンマに、お母さん、そっくり」
 帆波がキュッと抱きついた。
「お祖母さんに、お茶、貰ってきましょうか?」
 “その前に、明かり点けなくちゃね”と香澄が帆波を抱き締めながら肩を叩く。そして、そっと身体を離し、その髪を撫でた。
 その時である。
「帆波っ!!」
 智行が客間に飛び込んできた。
「智……くん……」
 思わず両手で口を押さえる帆波。その隣から、香澄がスッと身を引く。ペコリと頭を下げた智行に帆波の前へ行くようにと手が差し伸べられ、智行がまた頭を下げた。
「帆波。……帰ろ」
「……なんで……?」
 迷惑になるからと身を引いたのだ。ここに来る事も、祖父母以外は知らないはずなのに。
「うち、こんな身体やから、智くんのお嫁さんにはなれへん。京都に居ったら、迷惑かかるさかいにって、そう思て……」
「アホやな。“そんな”身体で、なんで居らんようになんねん」
 ――― 香澄が静かに部屋を後にした。

  
  ――――――――――――
 居間の向こうの小さな部屋の端で、紗雪が手を合わせている。こじんまりとした仏壇には微笑む歌織の写真。その隣に歌織の夫である毅志の写真が並んでいる。
「かおちゃん。毅志くん。どないする? うちら、この若さで“じじ”と“ばば”やで」
 微笑みながら二人の写真を交互に見て、もう一度手を合わせる。
「さて、と。これから忙しゅうなるなぁ」
 玄関から奥の間まで、全て、バリアフリーに改装しなければならない。若夫婦の為の新居も二階やら三階には出来ないから……。
「新居は、離れ建てたらよろしいな?」
 “どうやろ?”と紗雪が祖父母に首を傾げる。
「紗雪ちゃん……」
「これから、ホンマに親戚どすな」
 嬉しそうに笑う紗雪に、二人が頷いた。
  ――――――――――――

  
 元々、年内で身を引くつもりだった。こんな身体では、智行の負担にしかならないし、彼の家業を手伝える筈もない。最後の年にいっぱい思い出を作って、年が明けたら、何処かへ移住しようと祖父母と話し合った。
 それなのに、別れを告げるつもりで出向いた“クリスマス・ディナー”で渡された小箱。
『ずっと、一緒に居ろな』
 智行の言葉に決心が揺らぎ、涙が溢れた。
 夢のようなクリスマスは瞬く間に過ぎ、年が明けると同時に、揺らぎかけた決心を固め直して決めていた移住の準備に追われた。
 そして、新年も二ヶ月目になろうという頃、身体の異変に気が付く。
 “もしや”と思いつつ、定期健診で訪れた際に担当医に相談して判明した、新しい命。だが、授かった命に、担当医は堕胎を勧めた。苦労は目に見えている、片親ならば尚更だ。重荷を背負い込んでどうするつもりなのかとも言われた。
『“重荷”とちゃいます!』